0649・怪物の真なる怒り
Side:ロフェル
「ここが王城の誇る中央庭園ですか、美しいですね。色とりどりの整えられた木々に、美しい花が咲き誇っています。わざわざ季節毎に咲く花を選別して、腕のある庭師が整えているのですから、どれほど大変なのか計り知れません」
本当に美しいわねえ。ストレーナの護衛ポジションだから大きな声は出せないけど、物凄く綺麗。ミクが言ってたっけ、こういうので圧倒してゴブルン王国は凄いって思わせるってさ。でも、これを見たらそれも納得としか思えないわ。
こういう物1つとっても凄くお金を掛けて整える。平民からすれば無駄に思えるけど、ゴブルン王国の1人としては誇らしいというか、他の国に舐められない為には必要だと思えるわね。まあ、だからこそ庭園が整えられてるんだけど。
無駄なようで無駄じゃない。国の一員として他国の者に舐められるのも業腹だし、こうやって整えられてるのは納得できるかな? 王や王城が舐められるって事は国が舐められるって訳だし、狩人と同じく舐められたら負けなのよね。
「ロフェルも綺麗だと思いませんか? この中央庭園は」
「ええ、思うわ。それと同時に、他国に舐められないようにするのも大変だな、とも思う」
「……まあ、そうなんですけど、そこは今考えなくてもいいじゃないですか」
「ごめんね。でも狩人も舐められたら負けだから……」
「ああ、成る程。狩人の立場だとそちらの方が身近な訳ですね」
ストレーナは納得されてくれたみたいだけど、正直に言って綺麗以外に言い様が無い。だって花の種類とかなんて知らないし、花言葉なんかも知らない。聞いた事はあるけど覚えてないし、平民にそんな教養がある訳ないしね。
教養があるストレーナは説明してくれないで「綺麗!」ばかり言ってるし、私には見た目以外に分かるところが無いのよ。……って、誰か来た?。
向こうの方から誰か来たけど、王城の方だろうから控えた方が良いんじゃないの?。
「ストレーナ、誰か来たけど? 王城の方なら目上だから、ちゃんとしないとマズいんじゃないの?」
「え? 本当ね。誰か分からないけれど、横に移動して控えていましょう」
案内のメイドが教えてくれたので、横に退いて膝を地面に着いて頭を下げて控える。そのまま通り過ぎるのを待つらしい。そうやって待っていると、いつまで経っても通り過ぎず、何故か止まっている。
ナニコレ? 新手の嫌がらせか何か?。
「面を上げる事を許す。お前は何処の誰だ?」
「はい。私はアルダギオン子爵の娘、ストレーナ・アルダギオンにございます」
「ほう、そうか。私はここゴブルン王国第3王子、ゴルズ・ドルムア・ゴブルンである。なかなか器量の良いヤツだな、私の妾にしてやる。すぐに私の宮に行け」
「いえ、それは……」
「なに? 王子である私に口答えする気か? さっさと行け」
流石に幾らなんでもこの状況はマズくない? 王子に物申すって色々マズいけど、そうも言っていられないわ。こんなメチャクチャが罷り通るなんて許される筈がない。
「申し訳ございません。現在アルダギオン子爵も王城に来ておられますから、まずはアルダギオン子爵とお話し下さい」
「は? なんだキサマは? ……横から口を出すとは、どれほどの無礼を働いているか分かっているのか?」
「私はストレーナ様の護衛のロフェルと申します。無礼は存じておりますが、アルダギオン子爵に話を通されるのが筋ではないでしょうか?」
「ロフェル? ……ああ、キサマが叔父上とワルドーが言っていた者か。丁度いい、死ね」
「えっ?」
ぐっ! な、何が……。剣が、私の胸、に?。
「キャーーーーッ!!! ロフェル!? ロフェル!!」
あれ? 私、ここで、死ぬ? 何で、こん…………ミク……。
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「ロフェル!! ねえ、ロフェル! 返事をして、ロフェル!!!」
ミクが現場に着くと、そこには胸を短めの剣で貫かれたロフェルが倒れていた。既に目は焦点を失っており、ミクが見ても死亡は確実だった。死ぬ前であったり、死んですぐならばミクは蘇生させられる。ただ、死んで時間の経った者は無理だった。
正しくは脳細胞が死滅し、記憶や知識が失われた者は再生させてもゾンビのようにしかならないのだ。既にロフェルが殺されて時間が経っている為、今からミクの血肉を使っても元のロフェルには戻らない。
ミクはそのロフェルの遺体に向かって泣いているストレーナに近寄り話を聞く。いったい何があったかをだ。
「ストレーナ。泣くのは止めて私に話せ。…………いいから、さっさと話せ!」
ミクはロフェルの遺体をアイテムバッグに収納し、ストレーナから話を聞く。ストレーナはいきなりロフェルの遺体が消えて驚いたが、ミクを見ると泣きながら話を始めた。
第3王子がいきなり来て自分を妾として連れて行こうとした事、そしてそれを止めようとしたロフェルの名前を聞き、叔父とワルドーと言ってから剣を突き立てた事。ミクはそれを理解し、第3王子とやらがどこに行ったか聞く。
ストレーナは分からないと言うので、近くに居たメイドに聞く。
「答えろ。第3王子とやらは何処へ行った? 答えねば殺す」
「ヒッ! だ、第3王子殿下であれば、へ、陛下に用があると言われて……」
「私がこちらに来る時に見たゴミ、あれが第3王子か。……まだ謁見の間に居るな。この私から逃れられると思うなよ、ゴミ虫が!!」
ミクは凄まじいまでの怒気と殺気と殺意を撒き散らしながら謁見の間へと戻っていく。地上に下ろされて以降、ここは3つ目の星であるが、ここまで怪物がブチギレたのは初めてである。
良いか悪いかは別にして、怪物はあの善人の少女を割と気に入っていたらしい。その気に入ったものが永遠に失われたのだ、怪物が怒り狂うのは当たり前の事である。少なくとも怪物に感情が無い訳ではないのだ。感覚が全く違うだけで。
今までに出会った者とは違い、底辺から苦労をし、それでも善人であったからであろうか? それにしても、ここまで〝普通〟の事で怒り狂うとは根源の神も思っていなかったに違いない。
凄まじいまでの怒気と殺気と殺意を撒き散らしながら歩き、その後ろをストレーナは必死になって追い駆けている。<暴虐のオーラ>がミクから吹き上げているがストレーナも同じ思いなのだろう、そこまで影響は受けていないらしい。
周りの者はその<暴虐のオーラ>を認識するだけで腰を抜かして失禁しているが、怪物の知った事ではない。いったい誰に対して喧嘩を売ったのかをキッチリと教えてやる必要がある。
この最強の怪物たる己をここまで怒らせたのだから、国が崩壊する覚悟ぐらいはあるのだろう。それを知らなかったからと言って許される事では無いのだ。
地上のゴミを処分するのが怪物の役目である以上、ゴミは問答無用で全て処分して構わないのである。何故ならそれこそが神命なのだから。むしろ今までのやり方は随分と甘いものだったと言える。
ならばこれからは神命の通りに虐殺していけばいい。ゴミは須らく滅ぼせばいいのだ。どうせ根源の神は全て纏めて見捨てているのだから。
謁見の間に辿り着いたが、そこの豪奢な扉は閉じられていた。ミクはもはや開ける価値も無いとして、ウォーハンマーを取り出して叩きつける。
ドゴォン!!! という音と共に吹き飛んだ扉は、立っていた騎士に叩きつけられたが知った事では無い。ミクはウォーハンマーを右手に持ったまま、堂々と謁見の間に入るのだった。




