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0648・謁見の間




 ミクは子爵の後ろを歩いているものの、特に表情に変わりなく平然と歩いていく。物の価値が分からない訳ではなく、正真正銘、歯牙にもかけないだけである。堂々と歩いて進み、遂に謁見の間の扉までやってきた。


 傍から見れば子爵の方が緊張しており、ミクの方からは緊張を全く感じない。まさに対極的な雰囲気だが、普通は逆ではないかと周りの者達は思っていた。その謁見の間の扉が開き、ミクは中へと案内されたので進む。


 そのまま真っ直ぐ進み、子爵は片膝をついて頭を下げるものの、ミクは立ったままである。


 一切頭を下げようとしないミクに周りの者は怒り始めた。



 「そこの者、さっさと頭を下げよ。子爵を見れば分かろうが、無礼なヤツめ!」


 「無礼ねえ。マナーも知らせずに狩人を呼び出し、こうやってバカにするのがこの国のマナーか? 随分と野蛮だな」


 「なに!?」



 周りからも剣呑な気配が洩れてきたが、ミクはどこ吹く風であった。そもそもここに居る者達を一瞬で殺戮できるのだ。とどのつまり、ここの者が怒ろうがどうしようが、ミクがそれを斟酌しんしゃくしてやる理由が無い。そう、欠片も無いのだ。



 「呼ばれる側にマナーがあるなら、呼ぶ側にもマナーがある。呼ぶ側は全くマナーを守っていないのだから、呼ばれた側がマナーを守ってやる理由は無い。考えれば簡単に分かる事だろうに」


 「……陛下! すぐにこの野蛮なる者を捕縛し、処刑するべきでございます! そもそも【呪魔法】を使えるなどという嘘を信じて連れてくるなど! 子爵も恥を知れ!!」


 「恥なのは、お前だ」



 謁見の間の両脇に真っ直ぐ一列に立っていた者の1人が騒いでいたのだが、それはおそらく要職にある者なのだろう。ミクはまるでワープしたかのように一瞬で近付き、その要職にある者の頭を鷲掴みにしてブツブツと唱える。


 すぐに男の体には黒い紋様が現れたが、男はミクを無理矢理に払おうとして激痛にのた打ち回る事になった。



 「ウギャァァァァァァァァァ!!?!!?!!」


 「まったく、マナーも無い阿呆がいちいち鬱陶しい。呪われなければ分からん者は永遠に苦しめ」



 そう言いつつ、ミクは子爵の隣にゆっくりと歩いて戻る。周りの者は呆然としており、動ける者は誰もいない。しかしそれも当然だろう、先ほどのミクの速さを見れば騎士に止められるものではない。あり得ない速さだったのだ。



 「う、む……。確かに黒く紋様が出ており、激痛にのた打ち回っておる。伝説の【呪魔法】というのは真実であろう。それはそうと少々五月蝿い、そやつに口枷でもして黙らせておけ」


 「「「「「ハッ!」」」」」



 周りに居た近衛らしき者達が動き、痛みにのた打ち回って五月蝿い男の口を塞いで黙らせる。その後、改めて謁見が始まったものの、ミクは適当に質問に答えていく。最初は当たり障りないものだったが、やがて核心へと入る。



 「そなたには王都で活躍してほしいと思っているのだが……」


 「断る。私は狩人であり、それ以前に私は私だ。私の力は私のものであり、どう使うかは私が決める。他の誰でもない」


 「「「「「なっ!?」」」」」


 「当たり前の事だ。ここに呼んで命じれば従うとでも思っているのか、バカバカしい。己らを中心にして世界が回っているとでも思っていないと、驚きはしない筈だがな?」


 「では、この王都で活躍する事はできぬという事か?」


 「私がそう言ったのが理解できなかったのか? そもそもかつて【呪魔法】を持っていた伝説の黒魔女はどうだった? お前ら権力者に従ったのか? それを思い出せば分かるだろう」


 「………そなたは知らぬようだが、かの伝説の黒魔女は権力に追い掛け回され逃げ回る羽目になったのだがな?」


 「ほう、私を脅そうというのか。ならばやって見せるがいい、ゴミども。……ただし己が死ぬ覚悟はせよ」



 ミクは【陽炎の身体強化】を使って周囲を威圧する。たったそれだけで、周りの者達は全て動けなくなってしまった。ただの【身体強化】なら動けたかもしれないが、【陽炎の身体強化】では動く事も不可能だろう。



 「高がこの程度の【身体強化】で動けなくなるのか、随分と脆い連中だ。この国の王、貴様は分かっているのか? 今、私は貴様のそっ首を落とせるのだがな? お前は私に何と言ったのだった?」


 「………」


 「ほう、国王としての矜持か? 小便漏らす程度の小僧に矜持があるとは驚きだ。……ああ、心配するな。ここには小便を漏らすような小童こわっぱしかおらん。安心して垂れ流せ、ゴミども」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」


 「で、【身体強化】の威圧を解除してやるから、再度聞かせてもらおうか? ……誰に何をするって?」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」



 その場に居る誰もが恐怖して動けなかった。それは目の前の存在が圧倒的な強者であると分かると同時に、凄まじいまでの威圧に指1つ動かせなかったからだ。今は治まっているが、完全に交渉のやり方を間違えたと悟る王。


 しかし今さら「間違ってました、ごめんなさい」と言って許されるものではない。何より王が口にした言葉というのは無かった事には出来ないのだ。どうすればいいのかと王が必死に思考していると、1人の近衛が前に出て剣を抜く。



 「我が国の陛下と大臣方に対する無礼、真に許し難し!! 平民如きが何か卑怯な道具を使ったのであろう! 覚悟せよ!!」



 突然近衛が突撃してきたが、ミクにとっては遅くて話にもならない。そんな遅さで切り込んできた騎士の袈裟切りをかわし、ミクは裏拳で騎士の顔を殴りつけた。


 ドパァン!!! という爆音が鳴り、一撃で騎士の頭が弾け飛ぶ。その死体は力の余波で右に飛んだものの、ミクは勿体ないと思いつつも無視する事にした。ここで食い荒らす訳にもいかない。



 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」



 近衛騎士が一撃で殺された事に呆然としていたが、それが理解出来たのだろう。その後は死体を見て吐く者が後を絶たなかった。一部の者は吐いたりしていないが、それはおそらく戦争経験者なのだろう。それでも顔が引き攣っているが。



 「この程度のザコが私をどうにかしようなど、100万年以上早い。さて、この国の王よ。どう落とし前をつける気だ? 世の中にはな、喧嘩を売ってはいけない者というのが居るのだよ。それに喧嘩を売ったのだ、どうするか決めろ」


 「………」



 怪物を怒らせた以上、責任はとらねばならない。しかし、どうやって責任をとればいいのか。それを必死に思案していると、謁見の間の向こうからドタドタと音が聞こえてきた。


 慌てているのだろう。その者達は強引に扉を開き、中へと入ってきた。



 「無作法、失礼致します! 陛下、大変な事が起きました。第3王子殿下が人殺しを! 客として来ているアルダギオン子爵令嬢を無理矢理に連れて行こうとし、それを阻止しようとした護衛の女を殺害してございます!!」


 「あぁ?」



 先程とはまったく違う、地の底から化け物があげたような凄まじい怒気と殺気と殺意を内包した声が出た。先ほどの威圧など児戯に等しいと言わんばかりのそれは、禍々しい程にミクから溢れ放出されている。


 その圧倒的なナニカに対し、誰も動けないどころか呼吸をする事すら出来ない。そんな中、ストレーナの気配や生命力を感知したミクは移動を開始。勝手に謁見の間を出て行く。


 事ここに至って、ようやくゴブルン王国の首脳陣は完全に理解した。目の前に居るのは伝説の黒魔女ではない、得体の知れない怪物だと。


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