0646・帰らずの森 その3
2人は更に奥に進みつつ出てくるモンスターを倒していく。と言っても、出て来たのは蛇と蛾だったので変わりはないモンスターであった。適当に狩って処理し、アイテムバッグに詰めたら先へと進んでいく。
そしてそれなりに奥に進んだ時、戦闘音が聞こえてきた。どうやら狩人が何かと戦っているらしい。とはいえ獲物を奪うのは御法度なので、2人は遠巻きに様子を窺う事にした。それなりに離れた所からでも聞こえるからだろうが、ミク達以外にも観戦者が居るらしい。
「あれって熊よね? この森って熊まで居たとは思わなかったわ。場所は確認したけどモンスターはチラリと見ただけで、奥で出てくるモンスターなんて見てなかったから……アレは流石に私には無理そうね。ミクなら大丈夫でしょうけど」
「まあ、余裕だね。とはいえビッグベアよりは強いよ。体が強化されてるからか、それともビッグベアよりは小さいからかな? 小さい割にはパワーが強いし、素早い動きが出来るみたい。普通の狩人なら強敵だと思う」
「〝普通の狩人〟はねえ……。まあ、ミクの実力が普通じゃないのは分かりきった事だけど、それでも彼らは十分に普通以上だと思うわよ? 結構高ランクなんじゃないかしら」
「あのチームはこのままゆっくり押し勝つだろうから、これ以上見ている意味は無いね。モンスターに強襲されるのも面倒だし、さっさと移動しよう。他に観戦している連中も居るけど、モンスターに気付いて居ない奴等の動きに巻き込まれるのもね」
「それは嫌ね、さっさと移動しましょうか」
そう言って戦闘観戦から離れた2人の耳に、モンスターに襲われた男の絶叫が聞こえたがスルー。観戦に夢中になったうえでの結果なので、完全に自業自得だと笑った。自分の身を守る事を疎かにすれば、襲われるのは当たり前である。
狩人こそ知っていなければならない事なのだから、知らないというのは通用しないし、挙句観戦していたら襲われるのに気付かなかったなど話にならない。あまりにも愚か過ぎる事なのだから、本当の意味で自業自得な事である。
森を進んで行くと先ほどの熊と同じ反応があったので、ミクはそちらに行く事を提案。すると先ほどよりも1回り大きな熊がそこに居た。
「グォォォォォォォォ!!!」
こちらに気付いた熊は即座に立ち上がり咆哮。2人を威嚇するも、そんな事で身を竦ませるような怪物ではない。四つ足に戻る前に首を槍で突き刺して抉り、呼吸不能へと追い込んだ。
あっと言う間に致命の一撃を受けた熊は、呼吸が出来ずに暴れるものの助かる術は無い。もがき苦しんだ後に動かなくなり、完全に死亡して戦闘は終了。ミクは大型ナイフで首を切って血を流出させ、後はレティーに任せる事に。
「熊は苦しんでたけど、戦闘としては一瞬で終了かー。相変わらずというか何というか、熊のモンスターが全く相手になってなかったわねえ。私、何の役にも立ってないけど良いのかしら?」
「良いんじゃない? 別に全くって訳じゃないし、魔法で牽制したりとか邪魔してくれるしね。それぞれの役割があっていいと思うよ。そもそも私と同じ事が出来るヤツが多分居ないし」
「でしょうね。むしろ同じ事が出来るのがもう1人居たら驚くわよ。あり得ないのがもう1人なんだからさ、それはどう考えてもおかしいし不条理に過ぎる」
「っと、また別のモンスターが出て来たけど……あれは倒しちゃ駄目っぽいね」
ミク達の前に現れたのは銀色の毛をした狼だった。どうやら狩りに出てきたっぽいが、間違いなくこの森で一番強いモンスターだ。ミクの感知では魔力も生命力も段違いに高いのが分かっている。
そして狼の方もまた、ミクが圧倒的なまでの怪物だと分かっているのだろう、ジッと見ている割には何もしようとしない。ミクはロフェルに言って、この場を離れる事にした。
ゆっくりと後ずさりしながら離れるように言ったミクは、ロフェルと一緒に少しずつ後ろに下がっていき、ある程度離れたら背を向けて歩き出す。銀色の狼は追ってくる事は無かった。
「あー……怖かった。何あの圧倒的な存在感。間違いなく<帰らずの森>で一番強いでしょ、あの狼。会った瞬間に死を覚悟したわよ。もしミクが声を掛けてくれなければ動けなかった」
「魔力も生命力も、間違いなくこの森で一番上だったよ。私にとったら大した相手じゃないけど、あれを殺すとこの森の生態系が狂う。頂点が居なくなったら、もっと暴れるだけになるからね」
「あの狼が危ないモンスターは間引いてくれているんでしょうね。それにしても尋常じゃないわ、あの存在感。本当に戦いにならなくて良かった。あれこそ魔境でも冷静なモンスターなんでしょうね。ジッとミクを見てただけだし」
「そうだね。迂闊に動いたりしない強者であり、私を前にしても動かなかった。なかなか優秀なんじゃない? 動けなかったという訳じゃなさそうだったし」
「お互いに確認してたって感じかしら。どのみち私じゃここまで来れないから、まず浅いところでしか戦えないんだけど……」
ロフェルは溜息を吐きつつ歩き、ミクは適当にモンスターを探す。その後、バラバラになったのか蛾が居たのでロフェルに任せ、4匹の蛾を倒して収納していた。蛾は魔法で戦いやすく、そこまで苦労する事も無く倒している。
「ロフェルは蛾との相性が良さそうだね。そこまで強くも無いし狙い目のモンスターかな?」
「そうね。どうしても森じゃ【火魔法】は使い難いし、【水魔法】は威力が低いのよ。それに蛾を濡らしたら価値が下がりそうだし、そうなると【土魔法】で一撃、が一番売値も含めて良さ気かな?」
「さっきの戦いを見てたらそんな感じだね。ま、とりあえずそろそろ戻ろうか。森の外へ出たらセリオの背に乗ってね、一気に王都へと戻るから」
「はーい……」
やはりセリオのスピードには慣れないのだろう。ちょっと嫌がっているものの、今の状態なら昼過ぎには帰る事が出来るのだ。ロフェルもそれが分かっている為、我慢を決めている。
森を急いで脱出した2人は、セリオに大きくなってもらい一気に走る。ミクは乗っていないもののセリオの好きな速度で走らせ、あっと言う間に王都へと戻ってきた。当然近付くと速度を落とさせている。
セリオから降りたロフェルは何の問題もなく立っており、フラフラなどはしていない。これはロフェルが耐えられるようになったのではなく、単に距離が短かっただけである。
登録証を見せて王都に入り、ミク達はギルドへと移動して外の解体所で獲物を売る。その後はギルドに入って登録証と木札を出し、売却の代金である大銀貨1枚と中銀貨4枚に大銅貨3枚を得る。
ロフェルも受け取ったら、2人は遅い昼食に向かう事に。朝と同じ食堂に移動し、小銅貨15枚を支払って大麦粥を注文。席に座ってゆっくりと待つ。ロフェルも注文して支払い、席に着いた。
「<帰らずの森>に行けば儲かりそうだけど、そこまで大きく儲かるという訳でもないわね? 色々な危険を鑑みれば、普通にモンスターを狩るか依頼を請けてもいいかもしれない。あそこは狩人の数も多いから、いざこざがねえ」
「起きそうで面倒臭いと。よく分かるよ、私達に擦りつけようとした連中も居たしねえ。ま、戻るにしたって子爵家から話が来たらだよ。おそらく帰りの護衛も任されると思うけど」
「そうね。その時に戻りましょうか。それまでは適当な依頼でも請けて済ませればいいわ」
適当な暇潰しとして依頼を請ける事にし、今日は宿に戻ることにした2人。<帰らずの森>は思ったよりも狩人が多く、儲からないと判断したようだ。




