0645・帰らずの森 その2
「それにしても凶暴というか、凶悪なモンスターばっかりね。そりゃこんな所で戦えるなら高ランクなのも当たり前よ。流石にこんな危険区域が魔境以外にある訳がないし。メチャクチャすぎるでしょ」
「仕方がないよ。この魔素の濃い環境が作ってるんだろうし、魔境って魔素が濃く滞留する澱みのような場所みたいだしね。割と自由にある筈の魔素が滞留するって不思議だけど、そういう事もあるんだと思う」
「魔素……って確か、伝説の【身体強化】で使うものよね。魔力の大元ってヤツ。それが沢山あるのが魔境かぁ。だから強いのかな?」
「じゃない? 体が活性化されてるんだと思うよ。とはいえ魔境に居る間だけだろうけど。おそらくどんな種族でも効果はあるんだと思う。とはいえモンスターの方が色濃く影響は受けるみたいだね」
「成る程。それでこの森のモンスターは凶暴で強いと。……いや、強くなったから凶暴なのかな?」
「多分、強くなったから凶暴になったが正しいと思う。ゴブリンにだって居るでしょ、強くなったら急に偉そうになったり、誰彼構わず喧嘩を売るヤツって。正にあんな感じ」
「何か急に<帰らずの森>のモンスターが小物に見えてくるから止めて。まるで調子に乗ったチンピラみたいよ」
「だから奥のヤツは強いんじゃない? 強くなっても冷静な個体って考えると、その強さが分かると思う」
「それは確かに強いわね。っと、段々狩人の数が減ってきたみたい。ここからは本当に強いモンスターばかりね。慎重に進みましょ」
そうロフェルは言うが、ミクは構わずどんどん進んで行く。まるで自分を遮る障害は無いかの如く、今までと変わらないペースなのだから驚きだ。とはいえ最強の怪物が慎重に進まなければいけない理由は無い。
どんどんと進んで行くと、ある程度の大きさをした真っ黒な蜘蛛が現れた。その大きさは胴体が1メートル、足が3メートルくらいの大きさで、立つと攻撃が届かないくらいに高かった。
その蜘蛛がいきなり噛み付いてきたが、ミクは瞬時に槍を取り出して口の中を突き刺す。
「ギシェッ!?!!?」
いきなりの痛みに驚き、少し後退する蜘蛛。しかしそこに追撃が加えられる。
「土の精霊よ、その鋭き石を敵に」
「ギシャァ!!?」
複眼に直撃した魔法の石に更に慌てる蜘蛛。ようやく距離を置いて冷静になろうとするも、目と口を攻撃された怒りのまま、尻から糸を吹き掛けてくる。しかしそんな物に当たるミクではなく、即座にかわして足に対して槍を振りぬく。
まるで野球のバットのように振られた槍は、見事に蜘蛛の足を吹き飛ばした。千切れて飛んでいく足に、バランスを少し崩した蜘蛛。慌ててバランスを保持し、怒りのままにミクを攻撃しようとして直撃を受けた。
「土の精霊よ、その鋭き石を敵に」
更に追撃された蜘蛛は、またもや複眼に攻撃を喰らって潰されてしまい、もはや殆ど眼が見えない状態へと陥った。暴れそうになったものの、それより早くミクが槍を投げて胴体に突き刺さり、それが決め手となって蜘蛛が沈む。
なかなかに面倒な相手だったが、もっと早く傷なく倒すにはどうすれば良いのだろうか? 色々な手はあるが、見せても問題ない手となると限定されてしまう為、少々悩んでしまうミク。困りながらも体液をある程度流したらアイテムバッグに仕舞う。
「さっきの大きな蜘蛛もそうだけど、この森のモンスターって傷なく倒すの難しくない? 最初から高値で売れる素材だけ傷つけないように倒すしかないわね」
「そうだね。さっきの足は勿体なかったかも。ああいうのが使える素材だったりするしさ。おそらく糸もそうなんだろうけど、糸を回収するのは手間なんだよね。糸を回収する糸車も必要だけど、そんな物は持ってきてないし」
「まあ、森に糸車を持ってくる狩人は居ないわね。知ってたら持ってくる可能性もない訳じゃないけどさ。それでも糸車は無いでしょ」
「それは………っと、誰か走ってくる。すぐにここを離れよう。変な奴等の尻拭いに巻き込まれても困るし」
「そうね。すぐに木の影に隠れましょう」
ミクとロフェルは少し離れ、木の裏にしゃがんで様子見をする。すると男5人組と思わしき奴等が駆けてきて、ミク達のいた所で左右をキョロキョロと確認し始めた。おそらくミクとロフェルを探しているのだろう。
「ここに居た奴等はどうした!? せっかく擦り付けてようと思ってたのに! クソッ、音を出し過ぎてバレたか」
「それよりどうすんだ! もうそこまで追いかけてきてるぞ!」
「どうするって逃げるしかねえだろうが!!」
そう言って男達は走り出し、その後を大量の蛾が追いかけていった。あれは対処不能だろうと思える数であった為、ロフェルは安堵の息を吐く。それにしても、こんな場所でも擦り付けを行うヤツが居るとは……。
「モンスターを他の狩人に擦り付ける行為は重罪よ。知らない筈は無いでしょうに、それでもやる奴らが「「「「「ギャァァァァァァァ!!」」」」」居るなんて………。自業自得ね」
「それにしてもマヌケな連中だったと思うけど、いったい何をやってあんな数に追い掛け回されてたんだろ? 妙に数が多かったし、あいつらを敵認定して追いかけてたね?」
「そういえば確かに。蛾の家でも襲ったのかしら? それとも交尾中の邪魔をされたとか? 可能性なら交尾の邪魔の方がありそうね。それなら烈火の如く怒り狂うのは分かるし」
「碌でもない連中なうえに空気が読めないと。それはキレても仕方ないね。今ごろチューチューされて死んでるだろうし、周りの奴等は逃げたかな?」
「いえ、近くで死ぬまで見張ってる奴がいる筈よ。当然モンスターが離れたらすぐに剥ぎ取ろうと思ってね。ワルドー伯爵領にもそういうヤツは居たし、それが犯罪じゃないから余計にやるのよ」
「そうなの?」
「残念ながらそうなの。死んだ狩人の持ち物は拾った者の物って決まってる。だから殺されてるヤツを助けず見殺しにして、金品を強奪するヤツって結構多いのよ。ただしモンスターを擦り付けるのは御法度だけどね」
「それで群がる連中が多いと。でもそんな事を「「ギャァァァァ!!」」してたら………モンスターも襲うよねえ」
「むしろ死体の金品を餌にバカな狩人を誘き寄せる事すらするんじゃない? ここのモンスターって凶暴だし、それぐらいはやってのけると思う」
「ま、とりあえず私達は更に奥へ行こうか。奥の方にもゴブリンの反応があるから、戦ってる奴等は居るみたいだし」
「そこまで行けるとなれば、ランク10は超えてるんじゃないかしら? どう考えてもトップクラスの実力があると思うわよ? それぞれの国で実力の基準は違うけど」
「そもそもなんだけど、ゴブリンの国とコボルトの国とオークの国で基準が同じ筈がないでしょ。そんな事はあり得ないし、元々の体格が違いすぎるじゃない。ゴブリンは小柄だけど器用、コボルトは背が高いけど爪と噛みつき。オークは中背だけど太ってる」
「コボルトは武器を持ちにくいから仕方ないわ。たまに爪を切って武器を持ってる人も居るけどね。コボルトの矜持は爪と牙だからしょうがない。オークはとにかく太いのよ、何であんなに太いのか分からないらしいけど」
「種族特性ってヤツなんだろうけど、オークの脂肪は鎧的な部分もあるらしいからねえ。仕方ないんじゃない? その体重が重くて倒れてくると危険って聞いた事はあるね」
「重量物が倒れてくるみたいだから危ないのよ。アレすっごい危険だから、本当に止めてほしいのよね。お酒飲んだオークって本当に危険でさ、冗談じゃなく近付きたくない」
「なんか実感篭もってるねえ。ま、とりあえず進もうか」
そう言ってミクは歩き出したが、ロフェルは嫌な事を思い出したのか顔を左右に振ってから歩き出す。<帰らずの森>の中だというのに軽いノリのままな2人は、そのまま進んで行くのであった。




