0643・スラムの掃除と帰らずの森へ
Side:分体2
レティーが脳を食って調べたから分かったが、こいつらのトップはどうも元は貴族だったみたいだな。で、どこかで仕事をするにも所作は覚えておいた方が良いから、こうやって構成員に教えていたみたいだ。
貴族の所に潜らせるにも、こういう所作が身についていると有利だからだろうが、かと言ってそんな仕事がそうそうあるとは思わないがね。それに見かけ上の所作っていうか、本式じゃない付け焼き刃って感じだしな。
これで潜入したってバレるような、それとも上手くいけば矯正されるだけで済むか? どのみち俺が喰ってるんで意味は無いが、どういうつもりで教え込んでるんだか……。
食い荒らして進むと、居たな。コイツがこの組織のトップか。雌ゴブリンみたいだが、何処かの貴族の庶子とかそんなトコだろ。さっさと喰って終わらせるか。
…………レティーから報告が来たが、王の庶子ってどういう事だよ? それって王族だろうが。何でスラムで勢力持ってるヤツが王の庶子なんだ? 意味が分からん。このゴブルン王国はどうなってる?。
……ああ、本人がそう思い込んでるだけの可能性があるのか。母親は王城務めのメイドで、王母のメイドだっただと!? ちょっと待て、という事は王の妹って事か? 庶子は庶子でも先代の庶子かよ。
もっと表に出せない爆弾だった可能性があったのか。貴族や王族っていうのは面倒臭い血の繋がりとかがあったりするが、これは極め付きだな。とはいえ年齢が分からん。ゴブリンは見た目でよく分からんから、そこら辺が困る。
とはいえ喰って壊滅させたから、もう何処にも居ないがね。さっさとズラかったら次へと行くか。あんまり時間を掛けて考えてもしょうがない。貨幣だけ奪って次だ、次。
…
……
………
それなりに頑張ったが、今日はこれで限界だな。流石にそろそろ夜が明けるから、後は明日に回すか。それにしても、半分は超えたがやはり一日というか一晩じゃ終わらなかった。
本体が納得する数は喰えたからいいが、スラムも広けりゃ数も多いからしょうがない。じゃあ、後は本体に任せて消えるかね。
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分体2が本体空間に戻ると、本体は手に入れた金銭を数えていた。
小銅貨が411枚、中銅貨が49枚、大銅貨が319枚、小銀貨が152枚、中銀貨が28枚、大銀貨が62枚。結構な数を持っていたと思うが、特に小銅貨と大銅貨が多くあった。
おそらくだが、スラムではそこまで大きな額の貨幣を使わないからだろう。組織は1つしか潰していないうえに、大半は路上やボロい家屋に居た者達だ。そこまでお金も持っていない。
大きな組織のようなのは今日に回したので、余計に額が大きな貨幣は少ないのだろう。もしかしたら逃げられるかもしれないが、スラムの連中の数が減ってるだけなら逃げ出したりはしないだろう。
スラムの連中を全滅させる勢いで食い荒らしているなど、想像の埒外であろうし。
起きたミクは【浄滅】を使って綺麗にし、アイテムバッグに貨幣を仕舞ってから少しゆっくりする。その後にセリオとレティーを起こし、狐の毛皮などを仕舞ってからロフェルを起こす。
挨拶をしたら宿の部屋を出て食堂へと移動し、小銅貨15枚を払って大麦粥を注文。ロフェルも朝食を注文した後、ミクの方に話し掛けてきた。
「毎朝それを食べてるけど、何か意味があるの?」
「大麦は小麦より体に良いんだよ。夕食は酒場でガッツリ食べるから、朝と昼は大麦粥にしてる。まあ、理由を聞かれたらそれだけだね」
「ふーん。あんまり美味しいとは思えないけど、食べてるから何でかなと思ってたのよ。そっか、大麦の方が体に良いんだ」
「まあね。貴族が白いパンばっかり食べて病気になるのも似たような原因だからさ」
「あるある、白いパンの呪い。何でか知らないけど、白いパンを食べる極一部の貴族はそれで死ぬとか言うわね。あれって病気なの?」
「病気っていうか、白いパンばかり食べてると栄養が偏るの。難しい理屈は横へ置くと、同じ物ばかり食べ続けるのは体に良くなくて、バランスよく食べるのが良いって事。ただし大麦は割と栄養が含まれてるからマシな方かな?」
「なんだかよく分からないけど、何となく分かった。その栄養ってのが沢山入ってるのが良いんでしょ?」
「ちょっと違う。栄養の種類が沢山入ってるのがいい。栄養には大量の種類があって、1つ2つが大量に含まれてるのと沢山の種類が含まれている物がある。できれば沢山の種類が含まれてる物が良いね」
「ふーん」
「後、小麦は太りやすい成分を含んでる。大麦はあまり含んでないという差があって、また違うんだけど……。ま、気にしなくてもいいよ」
「そもそも太れるのって貴族ぐらいだしね。もしくは沢山稼いでいる狩人かぐらいだから、気にする事でもないかな。たまにお腹が出てるのって居るけど……」
「それって多分だけど病気じゃない? 普通の平民は毎日働くし、沢山食べられる訳でも無いしね。それでも飢える程じゃないけどさ」
「そうよねえ。病気でもなきゃ妊娠ぐらいしか、お腹が出るなんてあり得ないし。そうなると男の場合ほぼ病気としか言えない」
朝食というか朝っぱらからする話だろうか? おかしな話をしているが周囲に聞いている者も居ないので、2人は割と気楽に会話をしていた。
朝食後、2人は王都を出て北西の<帰らずの森>に進む。森の中心近くに進むほど凶暴なモンスターが居るらしいが、浅い場所だとそこまで危険なモンスターは居ないらしい。出来れば奥のモンスターを狩る事が推奨されている。
手前のモンスターばかり狩ると、<帰らずの森>の生態系が崩れてしまうからだろう。森自体が広い事もあるが、それ以上に奥へ行った際の死亡率が高い。
王都に狩人が集まる理由でもあるらしく、<帰らずの森>の統制には苦労をしているようだ。人海戦術で狩らなければいけないが、かと言って弱い者では話にならない。強さが居るが狩り過ぎは困る。
当たり前だが、丁度良いバランスにするのは難しいものである。それでも狩場は守らねばならないし、<帰らずの森>からモンスターを出す訳にはいかない。王都の狩人ギルドも大変だなと思いつつ、ミクとロフェルは北西へと進む。
「魔境っていうのも管理しなきゃいけないんだから大変だねえ。私達は入ってモンスターを狩れば済むから楽なもんだけど、ギルドは狩られた物から分布を確認しなきゃいけないしさ」
「それでも魔境があると無いじゃ全く違うらしいから仕方ないわよ。魔境のモンスターは凶暴化する反面、魔力が豊富で美味しくなるらしいし、素材としても優秀ならしいもの。だから王都の品揃えが良いんだしね」
「となると、ロフェルは王都で武具を新調するの?」
「そのつもりだけど、ミクはどうする?」
「私? 私は今以上の物が無いのは分かってるから、買う事も無いよ」
「その皮の服みたいなのも?」
「そりゃね。だってこれドラゴンの皮だし」
「………」
ロフェルが立ち止まり、口をポカーンと開けている。そこまで驚く事か? とも思いつつ、ミクはロフェルの左手を引いて歩く。子供の様に連れて行かれるロフェルは、今もなお口を開けて呆然としていた。
仕方なくミクは立ち止まり、ロフェルの目の前で手を叩く。「パァン!」という大きな音が鳴ると、やっと正気を取り戻したロフェル。本当に何故そこまで驚くのか疑問なミクであった。




