0641・王都ゴーブル
一行はそのまま王都前まで進み、今は貴族専用の出入り口に並んでいる。ミク達が警護する幌馬車も同じであり、そこで手続きを終えたらすぐに中へと通される。そのまま進んで行き、貴族街のような場所へと抜けていった。
王都のタウンハウス、つまりアルダギオン子爵の王都の家を目指しており、そこにはアルダギオン子爵の妻が居るという。ミク達にはどうでもいい事なので、アルダギオン子爵家の中へと幌馬車を運んだらミクとロフェルは依頼の完了となる。
そもそもそういう契約なうえ、ミクは王城などという場所まで警護をする気がなかった。【呪魔法】の事で面倒な事を言ってくる可能性があり、それ故に関わりたくなかったのだ。
ミクとロフェルは依頼完了の紙を貰い、それを持って依頼の終了としてアルダギオン子爵の家から離れた。そのまま貴族街のような場所を抜け、平民街の方へと移動する。ちなみに馬車の車軸は幌馬車に積み込んでおいた。
「さて、平民街へと来たんだけど、良い宿とか知ってる?」
「ごめん。王都に来たのは初めてだから、流石に知らない」
ロフェルは本当に王都が初めてらしく、周りをキョロキョロしながら町並みを見ている。間違いなく傍から見たら完全に田舎者丸出しだが、おのぼりさんは多いのか割とスルーされているようだ。
ミクは適当に王都の人を捕まえて話を聞き、教えてくれたら大銅貨を1枚渡した。他にも様々に聞くと、お薦めの宿が見つかったのでそこへ行く事に。結構な人数が言っていたので多分当たりなのだろう。悪意も無かったのだし。
「それにしても、情報を得るだけに大銅貨8枚も使う? どれだけお金持っているのか知らないけど、あんまり無駄使いしない方が良いわよ」
「お薦めの宿とか町の情報とか、そういうのにケチ臭い事を言うべきじゃないよ。情報1つで困った事にもなれば、得する事もあるんだしね。それを考えれば情報にお金を払うのは正しい事」
「……言いたい事は分かるけど、何か勿体ない気はするのよね。確かに安全はお金で買えないけども」
(本当に勿体ないのは、街道に置いてきた死体のほう。30人分の肉が喰えた筈なのにさ、それを捨てる羽目になったんだよ! どれだけ勿体ない事をしたか分かってないね、これは……)
価値観というものは人それぞれとも言うが、流石に人間種と怪物の価値観は永遠に平行線のままであろう。とにかくそんな事は横に置いておき、ミクとロフェルは王都の者達から聞き出した宿へと行く。
それなりに発展した町並みの中を歩くものの、ミクはガイアの町並みを知っているので特に驚きも何も無い。横で歩いているロフェルは完全におのぼりさんだが、ミクはいちいちツッコんだりしないので、そのままにさせている。
宿に到着したら2人部屋を頼み、一月分をミクが全額支払った。金額は大銀貨2枚だったので、然したる金額でもない。キャンセルしたら失われるのは領都アルダの宿と変わらないが、そこは特に気にしていない。
「流石に半分は支払うわよ。どうせ王都に居れば儲かるから気にしなくていいし」
「私の方こそ気にしなくていいよ。やってる事は社会への還元だから、貸し借り云々の話じゃないし」
「??? ……まあ、ミクがそう言うのなら分かった」
宿の部屋が借りられたので、ミクとロフェルは狩人ギルドへと移動。場所は聞いていたので聞きこむ必要は無く、さっさと移動していつもの看板を見つけた。弓矢のマークの看板なので大変分かりやすい。
アルダギオン子爵領のギルドの倍以上に大きい建物を見つつ、ミクは入り口を開けて中へと入る。特に気負いも無ければ、そんなものを持つ必要も無い。しかし王都のギルドだからと少々緊張するロフェル。
中に入ると一斉に見てくるが、それを無視してミクは受付まで行く。ロフェルはちょっとキョロキョロしているが許容範囲内であろう。そんな事を思いつつ、ミクは受付嬢に話し掛ける。
「これが依頼証明で、こっちが完了証。精算して」
「かしこまりました。………アルダギオン子爵様の護衛依頼ですね。成功報酬は中銀貨4枚です」
渡された中銀貨4枚を半分ロフェルに渡し、これで依頼は終了。この後はどうするかと思うも、まずはどんな依頼があるかの確認が先かと考え、掲示板に依頼の確認に向かう。初めての場所ほど丁寧に確認した方が良い。
そう思い掲示板の前まで進んで確認していく。周りの連中もジロジロと見てくるが、しかし声を掛けてきたり絡んでくるまではしない。色々と見てみるが良い依頼は無いようだ。なのでロフェルが言っていた<帰らずの森>の場所を調べる。
王都を中心にして北西に<帰らずの森>はあるらしい。結構大きな森らしく、王都の東西南北に町があるのだが、北と西の間は街道が繋がっていないようだ。もちろん理由はこの<帰らずの森>の所為となっている。
街道が敷けない程に<帰らずの森>が大きいのだが、それだけに多くの狩人も生きていける。そういう場所のようで、荒らすなと書かれていた。ミクはそれを確認したのでギルドを出る事に。
ロフェルは最後まで気圧されていた感じだったが、すぐに慣れるだろう。絡んでくる者は居なかったので、それだけでもアルダのギルドよりはマシかもしれない。とはいえ、何度か出入りしてみないと分からないが。
狩人ギルドを出たミク達は、そろそろ食事でもしようかとお互いに言い合い、聞いていた食堂へと歩いていく。それなりに美味しいとの事だったが、ミクは変わらずに大麦粥を頼み、小銅貨15枚を支払う。
ロフェルも適当に注文し、少し待つと運ばれてきた。やはりアルダの食堂よりは美味しそうな物が出てきているので、そういう意味でも王都は違うのだろう。ミク達の大麦粥でも若干具が多い感じだ。
それをゆっくりと食べていき、終わったらさっさと宿の部屋に戻る。今日も移動で疲れているので、出歩く意味も無いし話し合いをする気でもあった。
宿の部屋に戻った2人は適当にベッドに座り、まずはこれからの事を話す。
「まずは<帰らずの森>に行ってお金稼ぎね。何かをするにしたって、お金が無きゃ始まらないしさ。それと、子爵が戻る際に私達に頼んでくるかもしれないしね。指名依頼なら呼ばれるでしょ」
「それはそうね。帰りは妙な荷物とかないといいけど、あったとしても狙われないとは思う。既に手遅れだし、貴族街に入った時点でスラムの連中なんかじゃ手は出せない。かなりの安全圏に既に入ってると思う」
「私もそう思うよ、後は王城に連れて行って証言させるだけで終わりだし。……ただ、王城内で何かをされる可能性は否定できないけどね。低い可能性とはいえゼロじゃないから一応ってトコだけど」
「でも王城内でそんな事をするなんて相当よ? 王の顔に泥を塗ってるし、とんでもない報復が待ってると思うけどね」
「スラムの連中か、暗殺組織の連中が入り込んでるだけなら微妙なんだよねえ。そいつらなら暗殺した後で逃げそうだし、たとえ捕まっても切り捨てれば済む。更に言えば、そいつらの取締りなんて簡単じゃない」
「まあ、それはね。今も暗殺組織なんてのが普通にあるんだもの。使われてるって事もあるけど、壊滅させられないんでしょ。ああいう連中は」
「命を投げ出す、もしくは投げ出さざるを得ないヤツって多いからね。借金で首が回らないとか、脅されて仕方なくとかさ。そういうのを利用するなら、幾らでも切り捨てられる」
ロフェルはあからさまに顔を顰めたが、それが現実でもあるし事実だろう。だから犯罪組織は簡単に無くならないのである。




