0632・ホワイトファング狩り
北西の山の麓に着き、周辺を調べていくミク。気配に魔力に精神と生命力を感知していくが、それらが優秀な魔物がホワイトファングだろうと当たりをつけている。なので、強力そうな魔物を遠くから確認していくのだが……。
「森の中だからか見通しが悪い所為で、なかなかお目当てのホワイトファングが見つからないね。もしかしたら山の方に行かなきゃいけないかも。元々の住処は山の方だって書いてあったしさ」
「確かにそうだけど、居ないなら無理に狩る必要も無いわよ。もちろん狩れた方が高く売れて儲かるけど、それに固執すると無駄な時間を過ごすだけになったりするのよ。私も何回か経験あるわ」
「そういうものなんだね。私は気配と魔力と精神に生命力を感知してるから、それらを詳細に調べれば分かるんだよ。だから諦めたりはしないんだけどさ、出来ないとそうやって切り替えたりするの?」
「………分身といい【呪魔法】といい、貴女本当にメチャクチャねえ。そこまでだと呆れるしかないけど、魔力を感知するっていうのは分かるわ。私も多少できるから。でも、魔物の中には魔力が少ないのに強いっていう魔物も居て、結構分かり難いのよ」
「それは慣れじゃない? それでも使えないよりは使えるだけマシでしょ。そもそも魔力が感知できれば不意打ちを防げるんだし、それだけでも十分身を守る術としては使えるじゃない」
「まあね。暗殺者の中には気配とか魔力を隠せる者も居るらしいし、【気配消失】みたいにレアなスキルで気配を消すヤツも居るらしいから、油断は禁物だけどね。ただ、精神とか生命力とかは聞いた事が無いわ」
「ふんふん。だったらこれからも黙ってたら、相手は簡単に騙されてくれそうだね。知らないフリして、実は気付いてましたーって感じのやり口」
「やり口って……やりたい事は分かるけど、言い方が悪いわね。とはいえ相手を騙す方が有利にはなれると思うし、ギリギリまで隠す気持ちはよく分かるわ。それに自分の手の内を晒すのって狩人には多くないし」
「やっぱり? でも、その割には二つ名みたいに言われてたけどね。【魔大剣】、【詠唱短縮】、【二重詠唱】、【気配消失】、【豪腕】。何かスキル名が名前みたいな感じだったでしょ。そう呼び合ってたじゃない?」
「………それを知ってるって事は、分身って私達を確認してたって事よね? いや、もしかして私が意識を失った後に助けてくれたのって……」
「私だよ? だって分身も私だからねー。あの時はワルドー伯爵軍の状況を探る為に分身を動かしてたんだよ、自分が居る軍が負けちゃったら堪ったものじゃないからさ。そしたら野盗の如き事をしてるし、それが挑発で引き込む策だったしで、どうやって説明したものかと頭を抱えたよ」
「分身を知られないように伝えるって事? まあ、そうでしょうねえ。分身を知られずに教えるって土台無理な気がするけど、でも手の内を晒したくないのは狩人に共通した意見だもの。気持ちはよく分かるわ。狩人同士で殺し合いとかあるしね」
「それは戦争、それと……居た。静かに」
ミクの超高性能な目がホワイトファングを捉えた。その瞬間、ミクは槍を取り出し投擲の準備に入る。そして一直線になる瞬間を狙って投擲、その一撃は頭部に吸い込まれて脳にまで達した。
ズドン!! という音が聞こえたが、その後に倒れる音がしてホワイトファングは死亡。ミクは近付いて槍を抜き、レティーに血抜きをさせる。それを見て唖然とするロフェル。こんな方法で狩りをする者が居るとは思わなかったのだろう。
「槍を投げただけなのに呆れる程の威力ね。ホワイトファングってこんなに大きいとは思わなかったけど、それ以上に貴女のおかしさで思考が逸れるわ。あんなモンスターの倒し方なんて初めて見たわよ」
「ただ槍を投げただけなんだけど、そんなに驚く事? それとも刺さって脳まで達したから驚いてる? どっちにしたって、それだけのパワーで投げたのと、それほどの切れ味の槍を投げただけだよ」
「まあ、脳まで達するパワーで投げれば、脳まで達するのは当たり前でしょうけどね。問題はそのパワーは貴女ぐらいにしか出せないって事なのよ。【豪腕】以上の怪力じゃない」
「【豪腕】って多分だけど、アレ【身体強化】の腕版みたいなものだよ。簡単に使えるけど、腕の力しか強化してくれない感じ」
「ミクってもしかして伝説の【身体強化】が使えるの?」
「いや、伝説って……。なんで【身体強化】が伝説扱いなのか意味不明なんだけど? あんなの練習すれば誰でも使えるじゃん。そもそもセリオだってレティーだって使えるよ?」
「えっ………」
ミクは血抜きの終わったホワイトファングをアイテムバッグに入れながら説明している。それに大してビックリして思考が停止するロフェル。
驚いたロフェルはセリオとレティーを見るが、2匹は目の前で【身体強化】をしたからか威圧を受けてビックリしている。なのでミクは【身体強化】には威圧の効果もあると説明し、それでロフェルも理解出来たようだ。
「という事は、【身体強化】を使えば、周りを威圧して身を竦ませる事も出来るって事かぁ。かつての建国王は、そうやって1つに纏めていったのねえ」
「その建国王っていうのが、【身体強化】を使えたってヤツ?」
「そうよ。何処で知ったのか知らないけど、ゴブルン王国の建国王は【身体強化】で敵を蹴散らし、獣人よりも上のパワーとスピードを誇っていたらしいわ。それでバラバラだったゴブリン族を纏めて、今のゴブルン王国を打ち建てたと言われているの」
「へー、その程度で王国を打ち建てる事が出来るんだね。とはいえ当時のゴブリンとしては強かったと言うべきか、今も然して変わらないと言うべきか。でも魔法を含めて発展はしてる筈だから、昔よりは強くなってるのかな?」
「流石に強くはな……また見つけたの?」
「そうだけど、次はロフェルがやりなよ。ホワイトファングの生命反応は分かったし、もう見つけられるから問題ない。だから一度戦ってみたら? 駄目ならフォローはしてあげるよ」
「わ、分かった」
どうも緊張しているらしいので、思っていたより大きくて困ったのかな? とミクは考える。実際ホワイトファングは白い虎で、全長は3メートル50センチほどある。個体差はあるだろうが、それでもガイアのアムールトラぐらいは大きい。
そんな虎のモンスターに小さい種族であるゴブリンが挑むのだから、勇気が要るのも仕方がないのだろう。緊張しながらも魔法を詠唱するロフェル。
「土の精霊よ、その鋭き石を敵に」
三角形の形をしている先端が鋭く尖った石が飛んでいき、気付いていなかったホワイトファングの顔に直撃する。頬の部分に突き刺さった石による痛みに吠えるホワイトファング。
ロフェルは相手がこちらを見つける前に、再び魔法を放つ。今度はより強力なものを使うようだ。
「土の精霊よ、その大きな柱で敵を打て!」
現れたのは丸太のような石と言うか岩であり、それが真っ直ぐ飛んでホワイトファングに直撃。その威力は脳震盪を起こすレベルだったらしく、ホワイトファングはフラついた後で横に倒れる。
するとロフェルは走って近付き、近距離で魔法を詠唱し始めた。
「土の精霊よ、その鋭き石を敵に」
今度はホワイファングの首に突き刺さった魔法で出した石。それが消えると血が噴出したので素早く離れるロフェル。後は放っておけば死ぬだろう。ホッと一息吐いたようだが、レティーが早速血抜きを始める。
それを見て微妙な表情になったロフェル。どういう事だろうか?。




