0630・愚か者どもの末路
「実はさ、森でビッグベアが死ぬのを待ってたんだけど、その時に襲ってきた奴等が居たんだよ。叩き潰したのは4人組だったんだけど、そいつらってどうすれば良かった?」
「えっ!? 森で狩人に襲われたんですか? それは重罪になります。犯罪奴隷として売られるか、鉱山奴隷として連れて行かれるかです。特にアルダギオン子爵領には2つの鉄鉱山がありますので、捕まえれば高く買ってくれますよ」
「ああ、自分で捕まえなきゃいけなかったのか。面倒臭いけど、知らなかったから仕方ないか」
「仕方ないでは済まされません。その4人組の名前は? 特徴などはありませんか?」
ミクは受付嬢に聞かれたので、まだ消していない記憶から詳細に相手の服装や装備を答える。その内容の詳細さに、紙に書いている受付嬢の顔が若干引き攣る。「どれだけ詳細に覚えてるんだ?」と思うのは当たり前であろう。
「で、連れて帰る云々とか知らなかったからさ、自分で勝手に【善なる呪い】を掛けておいたよ」
「呪い、ですか……?」
「そう。【呪魔法】で与える呪いだよ」
「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」
周りの連中も一斉に驚いたが、それは子供に話して聞かせる伝説にもあるからだ。黒魔女の話として。
その黒魔女は【呪魔法】が使える者の中でも特に有名で、1国の王だろうが悪人は関係なく呪った者らしい。
その恐怖から<黒魔女の伝説>とも言われ、今でも【呪魔法】は怖れられているそうだ。だからこそミクが使えるとなって、多くの者は恐怖したのだろう。
ただし真面目に生きている者は恐れていない。何故なら黒魔女は悪人以外には何もしなかったからだ。
本当に真面目に生きている者にとってみれば、黒魔女は悪を懲らしめる正義の味方でしかない。なので拍手喝采となるのは当然の帰結である。
「その、呪いとはどんな……」
「使ったのは【善なる呪い】というものだよ。ようするに悪い事は一切出来なくなり、善い事しか出来なくなる。もし悪い事をしようとすれば、激痛にのた打ち回る事になるっていう呪いだね」
「成る程。そんな呪いがあるんですね」
「それに体中に黒い紋様が出てるから、見ればすぐに分かるよ。顔や頭の上にまで出るからね、体中を隠さないと隠し通すのは無理だ。逆に言えば、その紋様が出てる奴は悪さが出来ない。……ま、ワザと体に紋様を描いてなければね」
「もしかして、そういう詐欺をする者が出て来かねないという事ですか?」
「【善なる呪い】は悪い事が一切出来なくなる。それは信用に値するでしょ? でも適当に描いただけなら、嘘を吐く事も簡単に出来る。本当に呪われてたら絶対に嘘は吐けないけどね。嘘も厳密には罪だから」
「それは誤魔化しとかもですか?」
「そうだよ。恥ずかしい過去も何もかもを喋るしかなくなる。何故なら、のた打ち回る程の激痛だけど、痛みだけで怪我とかは一切無いからね。真実を言わない限りは、怪我の無い拷問のようになる」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
周りの連中も、ようやく呪いの恐ろしさに気付いたらしい。ちょっとした嘘を吐く事も出来ず、痛みにのた打ち回る羽目になる。地獄のような厳しさであり、しかも解呪する方法が分からない。
「その……呪いってどうやって解いたらいいのでしょうか?」
「ああ、私なら解けるよ。だから解呪するかどうかは私の気分次第ね」
正しく悪夢だと理解した周囲の者達は、絶対にミクに関わらないでおこうと誓ったのだった。話を終えたミクは狩人ギルドを出て、とりあえず宿に戻るのだった。特にする事も無くて暇なのである。狩り過ぎても迷惑にしかならないのだし。
宿に戻ったミクは適当にセリオやレティーと遊び、昼になったら食堂へ移動。小銅貨15枚を支払って昼食を食べると、適当に町に繰り出して色々と見て回る。
雑貨屋や鍛冶屋に食料店。それぞれを見て回るも、買いたくなるような物は無し。ハッキリ言って暇潰しをしているだけである。セリオはミクの腰ほどの大きさになっていたが、何故か子供が群がって勝手に背に乗っていた。
セリオ自身は特に気にしておらず、そもそも傷付ける事が不可能なので放っておくようだ。端から端まで見て回ったものの買う物は無く、子供達の遊び相手をして時間を潰す事になった。とはいえ暇が潰れただけ良かったと思っているようである。
そろそろ夕方という時間なので子供達を解散させ、ミクは酒場へと移動して行く。しかしその途中、狩人に声を掛けられギルドヘと行く羽目になった。どうもギルドマスターが呼んでいるらしい。
仕方なく移動して狩人ギルドの建物に入ると、ギルドマスターが仁王立ちしている前に4人の紋様が出ているゴブリンが項垂れて床に座っていた。どうやらあの愚か者どもらしい。
「やっと来たか。こいつらの体に紋様が出ているが、やったのはお前さんらしいな?」
「そうだけど、それがどうかした?」
「いや、これが【呪魔法】なのかどうかに関しては知る術はねえ。しかし嘘を吐こうとしたり、悪さしようとすると激痛が走るのは間違いねえようだ。こっちとしてはそれで十分だからな」
「それなら私を呼ぶ必要が全く無いね。いったい何の為に呼ばれたのさ? こっちは酒場に食事に行く途中だったんだけど?」
「おっと、もうそんな時間か。だったら手短に話す。お前さんはこいつらを犯罪奴隷として売るか、それとも鉱山奴隷として子爵様に売るか、どっちかを決めなきゃなんねえ。どっちにする?」
「そっちで決めてもらっても良いんだけど、ここで私が決めなきゃいけないみたいだね。だったら鉱山奴隷……って言う気だったんだけど、こいつら泣きながら顔振ってる。どういう事?」
「鉱山奴隷だと、ほぼ確定でケツを掘られるからな。犯罪奴隷だと連れて行かれる場所によってはマシって事もあるが、鉱山奴隷は悲惨としか言えねえ。何たって最悪の犯罪者が集まるところだからだ」
「成る程。ケツを掘られたり咥えさせられるのが嫌な訳ね。なら鉱山奴隷で」
「……お前さんも容赦ねえなー。とはいえ、襲ったお前らが悪いんだし諦めろ。そもそも逃げようとしただけで痛みにのた打ち回るようだし、呪いってエゲつねえと思うわ」
そう言いながらも痛みでのた打ち回る4人組を見ているギルドマスター。どうも逃げようとしたらしいのだが、それすら許さない呪いの恐ろしさに利用法を考えているらしかった。
「もしギルドが呪いを使ってくれと言ったら、お前さんは使ってくれるか?」
「事と次第による。便利屋扱いは拒否させてもらうし、悪人を呪うならいいけど、それ以外に乱発する気は無い。呪いは正しく使わないといけないからね。跳ね返って来ても知らないよ?」
「悪人以外にする訳ないだろう。ワシだって呪われるのは怖いんだ。そうではなく、悪質な狩人がそれまでの拠点を離れて悪事を働く事があるんだよ。そういう奴等を見つけたら使ってもらいたい。もちろん悪い事をした奴等にもな」
「それなら構わないよ。そもそもは悪徳な奴を懲らしめる為に使うんだし、心を入れ替えない阿呆が悪い。そんな奴は苦しむ事になって当然だしね」
「まったくだ。いちいちいちいち何度も何度もワシの手を煩わせる。鬱陶しいったらねえぜ、本当によう。分かってんのか、てめえら!」
「「「「すみませんでした……」」」」
どうやら以前からも下らない事をしていたらしい。一度呪われた者は解呪する事は殆ど不可能なので、このまま一生を過ごしてもらう。わざわざ外す意味が無いのだから当然だ。
4人組の売却は子爵家が買い取ってから支払われる。それと手数料がギルドに取られるが、ミクはそれでいいと言って酒場へと移動するのだった。




