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0625・ワルドー伯爵との戦争 その5




 「私がこの場に呼ばれた理由は? なんの意味も無く呼ばれたのであれば戻らせてもらいたい。そもそも私は輜重を運ぶという契約の筈だ。アイデアを出せとか、会議に混ざれという契約内容じゃない」


 「……申し訳無い。ここにる多くの者は、村を焼かれて怒り狂うておるのだ。このような時には短絡的な意見しか出ぬ。しかしだ、敵が村を襲いながらも退いておるのが不思議でならん。だからこそ、御嬢様を助けたそなたの意見を聞きたい」


 「私の意見と言われてもね。次期当主様はどうなの? 意見を聞くべきだと思ってる? 今にも突撃と言いたそうにしか見えないけどさ」


 「………本音を言えば聞く意味など無いと思っている。だが、古参の意見は冷静な意見だ、そして今の自分が冷静でない事は分かるのだ。だからこそ、聞かなければいけないという思いもまた自分の中にある」


 「ふーん……。ま、ギリギリ合格ってトコかな。なら意見を言う前に戻る。必要な証言をする者を連れて来てあげるよ」


 「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」



 サスリオスを含めて呆気にとられているが、ミクはテントを出て自分の持ち場でもある輜重の馬車まで戻る。そして1人のゴブリンを連れて戻ってきた。意見を聞く為に呼んだのに急に出て行ったミクに、最早言葉を聞く価値無しと騒ぐテント内の者達。


 そんな者達を無視して、ミクはとあるゴブリンを座らせて話を始める。



 「少し待たせたかな? さて、まずは名前からね?」


 「初めまして。私はロフェルと申します。ワルドー伯爵領で狩人をしており、【詠唱短縮】のスキルを持っていると申し上げればお分かりになりますでしょうか?」


 「なにっ!? ワルドーの手の者だと! いったいどういう事だ!!」


 「どうもこうも彼女は追われてたんだよ、ワルドー伯爵軍に。その理由はアルダギオン軍に情報を渡す為だ。彼女達はアルダギオン軍が攻めて来るから先制して攻撃するという話しか聞いていない。そして集められた軍は野盗もかくやという事を行った。まともな者なら逃げてもおかしくない。そうでしょ?」


 「どうなったのかは分かりません。私はセドルス子爵領から来ていた【二重詠唱】の女と、ギュン男爵領から来ていた【気配消失】に殺されかけたのです。【二重詠唱】の【爆発魔法】を受けた記憶はあるのですが、その後の記憶は無く……」


 「ま、色々あって私が助けた訳だ。敵から狙われてるって事は、裏切り者の可能性が高い。だから密かに保護して事情を聞いた訳。そしたら相手の作戦を知ってたんだよ。だから連れて来た」


 「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」


 「どういう事だ? もし我らが問わねば情報を出さなかったという事か!?」


 「そりゃそうでしょ。私は言ったよね、こんな事は契約外だと。もし私に意見を出させたいなら、契約の中に入れておかなきゃいけない。狩人は契約に無い事をする義務なんて無いんだよ。報酬が増える訳でも無し」


 「な、なんという者だ! サスタリオス様! このような者「やめろ!」など……」


 「そもそも狩人は色々な所を渡り歩くという。その理由は貴族に妙な言い掛かりをつけられたり、不当に奪われたりした事が理由だと聞く。なればこそ違うのだ、虐げられた者が体制側を信じる事などあるまい。それは仕方のない事だ」


 「しかしアルダギオン子爵家が左様な事をした訳ではありませぬ」


 「お前たちは民を平民と一括りにするじゃないか。で、自分達は家でそれぞれ違うと? 随分と都合の良い物言いだ。実に貴族らしいな」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」


 「私が言っている事は変な事では無い。契約に無い以上、それは契約に盛り込まなかった方の落ち度なのだ。狩人の側の落ち度ではない。でなければ不当に安い値の契約で扱き使われる羽目になるからな」


 「アルダギオン子爵家がそんな事をする訳がなかろう!!」


 「だから言っている。アルダギオン子爵家がどうかなど関係無い、これは契約の問題なのだ」


 「分かった。少し待ってくれ。臨時とはいえ新たな契約書を書き、そこに私の名前と印を押そう。アルダギオン子爵家として確実に契約料を払うと約束する」


 「ならば書いてくれ、今すぐに。内容を熟慮する暇は無い。必死で考えなければいけないな、そして料金も妥当なものでなければならない。次期当主の力量が問われるよ?」



 周りのゴブリンが睨んでくるが、ミクはどこ吹く風である。何故なら狩人の立場を守る事を一貫して主張しているだけだからだ。そもそも「○○家だからしない」などという言葉は信用に値しない。


 何故なら、そんな事など好き放題に言えるからだ。だから新たな契約書を先に要求しているのだし、それが来るまでは待っていて動かない。ロフェルにも喋らせていないのだから、そこは徹底している。


 その後、出された契約書に納得したミクは保護したロフェルに話をさせた。その結果、敵が街道近くの林に身を隠しており、進軍すると横撃を受ける事が判明。対策をする事になった。



 「伏せて横撃をしてくるという事は、正面の敵は然程多くないという事ぞ。それなら一点突破で前を潰した方が早い」


 「いやいや。伏せた敵が横撃をしてくれば一旦引けばいいではないか。そしてこちらが横撃を食らわせてやればよいのだ、敵はあっと言う間に瓦解する!」


 「何を愚かな事を言っておるか! 整列した軍が細かく動ける訳がなかろうが。そんな事をすれば皆が倒れていってしまい身動きがとれなくなる。整列しておる軍は簡単に後ろには進めんのだ。それぐらい軍事に携わる者なら常識ぞ!」


 「だから前を素早く倒せば良いであろうが! 横撃してくる相手よりも先に倒し、反転すればよいのだ!」


 「敵は前の者達の防御を厚くし、横撃の者に攻撃を任せれば済む。正面の連中は決死の覚悟で止めてくるぞ。その間に横撃を喰らったら兵を統率する事は不可能だ。散り散りにさせられてしまう。そうなったら戦う力など無い」


 「ならばどうすれば良いと言うのだ、先ほどから文句ばかり言いおって! サスリオス様、言い争っていても仕方ありませぬ、お決めくだされ!!」


 「………ミク殿はどう思われる?」


 「私? 私はこちらも2つに分けるべきだと思うよ。一応斥候を出さなきゃいけないけど、伏せている敵の場所が判明したら、その後ろから攻撃すればいい。そして後ろから追い立てた伏兵を、本隊が横撃すれば済む。どうせ伏兵は多くても200ぐらいの筈。だったら余裕だね」


 「それはミク殿も出てくれるという事かな?」


 「どっちでもいいよ。こういう所では自分に功を寄越せと五月蝿い奴が多いだろうしね」


 「もしかしてだが、ミク殿は戦争の参加経験が?」


 「まあ、ただし1度だけだけどね。味方の軍は2000ぐらいだったかな? そういう戦争の経験ならあるよ」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」



 経験者だったという事が、発言に信憑性を持たせたのだろうか? ミクがついていく形で伏兵の後ろから強襲する案が採用された。少なくとも今から進んで行くなら今日中に決戦となる。


 相手もいきなり作戦を変える事は出来ない。策を変えるならば少なくとも数日掛かる為、今からではもう変えられないのだ。それが分かっているので、勝つ確率を上げる為にすぐ出発する事になった。


 ロフェルの胸中は複雑だが、それでも村を襲った事が許せないという事は、アルダギオン軍は信用している。同じ怒りを共有しているという事が大きな理由でもあるのだが。


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