0624・ワルドー伯爵との戦争 その4
Side:???
「そら行けぇ! この村の女は全員連れていけよ、売り飛ばすんだから殺すんじゃねえぞ! そら行け、早くしろ!!」
村が燃えている。何の罪も無い子供が殺され、女性が慰みものにされ、売られる為に連れて行かれる。私はいったい何をしている? 何の為に狩人になって苦しんでいる誰かの為に役に立とうと思った?。
目の前で繰り広げられている事は、私の故郷とは違うが、行われている事は何も変わらない。私の故郷はモンスターの群れに食い荒らされた。だからこそ、私は狩人になって少しでもモンスターを減らし、皆が笑って生きていけるように頑張ってきたのに。
元々今回の出兵はおかしいと思っていた。何故かアルダギオン子爵の軍が攻めて来るという眉唾な一報が入り、先に攻める事で相手に先制し退かせるのが目的……ではなかったの? やっている事は野盗と変わらない。いや、それ以下だ。
何故なら彼らは正規軍であり、決してやってはいけない事に手を染めている。軍は規律を持って動かなければいけないのに、彼等がやっているのは完全なルール違反だ。こんな事は許されていい筈が無い。
このままではマズい。私もこいつらの同類扱いされる。どこかで逃げ出さないと村を攻め滅ぼした罪で処刑されかねない。何故私がこんな奴等の所為で死ななければいけないのか……。貴族は平然と私達平民を見捨てる。本当にこのままじゃマズい。
しかし村人は逃げ出すだけで、こちらの軍に混乱も起きていないから逃げられない。いったいどうすればいい? このままじゃこのゴミどもと同じなんて事に……。
「あら? ワルドー領の【詠唱短縮】さんは、こんなところで何をしているの? せっかくだから、参加してくればいいのに。どうせアルダギオンの村なんだから、好き勝手やっても誰も咎めないわよ」
「貴女はセドルス子爵領の【二重詠唱】……。貴女達は正気なの? 何故こんな事が平然と出来る? これじゃ唯の野盗でしょうに」
「あはははは! 随分と御嬢様な生き方をしてきたのねえ。誰かを殺すなんて、そこら中で行われてるじゃない。スラムの中を見て御覧なさいよ。毎日誰かが殺されてるわ。私の父とか母とかいう奴等もそうだったし、貴女もどこかで死ぬのよ? ならいつ死んだって同じじゃないの」
「全然違うでしょ。ここで殺されるいわれなんて何処にも無い筈よ。何でこんな事が平気で出来る……!」
「ほら、貴方の所の【魔大剣】を見てみなさいよ、喜んで村人を切り刻んでるじゃない? おかしいのは貴女よ、勘違いしないようにね。これは敵を殺しているだけなんだからさ。あははははは!!」
駄目だ、こいつら狂ってる。このままじゃマズい。夜中になったら絶対に逃げなきゃ。そうしなかったら、私はこいつらと同じクズという事になってしまう。逃げてアルダギオン軍にこの事を伝えないと駄目だ!。
「………」
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ようやく野営場所に戻ってきた。ここからはアルダギオン軍が来るまで休息になる、逃げるなら今しかない。私が色々と喋った事は確実に上の者の耳に入ってる筈。このままじゃ時間の問題だし、いつ拘束されて始末されるか分からない。
今の私の周りは寝ている奴等ばかりだ。【魔大剣】は鼾を掻いて寝ているし、村を襲ったりした疲れで動けない者が多い。私達のような者にはテントなんて与えられないからこそ、むしろ身軽で物音も立てづらい。
少しずつゆっくり動いていく。灯りを持っている者なんて居ないし、点けてもいない。そもそも私達ゴブリン族は夜目が効く。だからこそ動いたらバレる恐れがある。慎重に、慎重に移動して、絶対に動きがバレないように……。
よし、ある程度は離れる事が出来た。ここからは小走りで移動して一気に離れる。もし追われたら森の中に逃げ込めばいい。そこなら夜中でもモンスターが居る可能性が高いし、追われたところで追っ手にモンスターを嗾ければ逃げ切れる。
ここまで来れば走っても……!?。
ドォン!! ドォン!!。
「そっちよ、脱走者が走ってるわ。さあ、追いかけっこの始まり。楽しいわねえ、殺していいのは。あははははは!!!」
チィッ! あの女、私が逃げるとやっぱり予想してた。後ろを向けないから圧倒的に不利だ。それでも出来る事は、ある!。
「風の精霊よ、我が前に吹け!」
手を後方に向け、振り返る事も無く魔法を放つ。あの女が得意とするのは【爆発魔法】だ。でも私が得意するのは【風魔法】。少なくとも相性が良い。更に私の持って生まれたスキルは【詠唱短縮】。
素早く風を吹かせて、あの女の【爆発魔法】を後方に押し流してしまえばいい。【爆発魔法】は必ず何かが飛んでいき着弾する魔法しかない。つまり風で押し流せる魔法だ。私なら逃げ切れる!。
「火と土の精霊よ、その力を用いて我が前の敵を壊せ。【爆裂球】!!」
「風の精霊よ、我が前に強き風を!」
私の魔法が勝ち、【爆裂球】の魔法が後ろに流れていく。これなら私の方が勝、つ……?。
「うぐぅ! あ、足が!?」
「あははははは! 追いかけてたのが私だけだと思った? もう一人居るし、そっちには気が回らなかったみたいねえ。ざぁ~ねぇんでした!」
「お前、余計な事言う。ここで殺す」
あ、あの男は【気配消失】! かなりのレアスキル持ちなのに頭のおかしいヤツ。死体をグチャグチャにして悦に入るアイツといい、他の領地から来たのは頭のおかしいヤツばかり! こんなヤツらに殺されるの!?。
早く立ち上がって逃げないと………!?
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ズドォン!! そんな音が響き渡ると、足を切られた女性は吹き飛んでいきピクリともしなくなった。
「あらら、ちょっとやり過ぎちゃったかしら? ゆっくり嬲ってそれからころ……」
それ以上、薄い衣だけを着た女は喋る事は出来なかった。何故なら背後に突如現れた〝怪物〟に喰われたからだ。この世のおぞましさを全て凝縮したような、直視すれば発狂しかねない怪物。それが愚か者達の前に降臨したのだ。
後はもう、全て喰われるしかない。何故なら愚か者達は誰も逃げられないのだから。
「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」
女性を追いかけていた全員が硬直した後に倒れ、身動きがとれなくなった。何故なら怪物が触手を突き刺し麻痺毒を注入したからだ。しかし愚か者どもは分からない。突然現れた何かが仲間を喰らい、今自分達が倒れている事しか分からないのだ。
そんな中、ゴリィ! バキィ! グチャッ、グチャッ! という何かを噛み砕いた音と咀嚼音が聞こえてきた。この時点で既に愚か者達は恐怖のどん底に突き落とされいる。自分達は動く事が出来ず、何かが喰われていく音しか聞こえないのだ。
それは自分が処刑されるまでのカウントダウンでしかない。それがハッキリ分かっているのだろう。だからこそ、彼らは悲鳴を上げたい程の恐怖を抱えるしか出来ないのだ。麻痺して動く事さえ出来ないのだから。
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(さて、出来る限り恐怖を感じるように喰らってやったが、そこでまだ生きている雌ゴブリンをどうするべきか? 本体も考えているが、追いかけられて……うん? こいつ、善人か?)
俺は女の近くに寄り、少し神の権能を使って記憶を探る。すると、この女が逃げ出した理由も、何をしようとしていたのかも分かった。そして素早く本体が1つの答えを出す。
(まあ、俺もそのつもりだからいいが、分体1も同じ答えか。ならばコイツは助けて有効活用するべきだな。どうせ気絶しているし都合が良い。精々、役に立ってもらうとするか)
右腕を肉の塊に変えて雌ゴブリンを包み転送した俺は、再び鳥に姿を変えてワルドー側の陣地へと戻る。後は分体1であるミクが何とかするだろう。
俺は情報を取る役目だからな。せっかくだから戦闘の最中に悪戯の一つでもしてやるか。暇だし。




