0622・ワルドー伯爵との戦争 その2
(今回のコレは戦争というより小競り合いが正しいね。戦とまでは言えないし、ガイアの古い時代でもこんな感じだったとネットの歴史考察なんかに書いてあった。元々1領地で集められる数はそんなに多くない。ましてやゴブルン王国はそこまで大きくないらしいし)
領地が小さければ街や村も少なく、ひいては戦に集められる数も少なくなる。ここゴブルン王国も戦時には徴兵しているらしいので、全てが領地の騎士や兵士ではないようだ。
ミクが休憩中に輜重を守っている皺ゴブリンに話を聞くと、昔から徴兵された兵士は輜重を守る事が多いそうだ。当たり前だが訓練されていない者が戦える筈も無く、そういう者はむしろ邪魔になるので輜重を守る役目ぐらいしか出来ないとされている。
言っている事はまともなので「成る程、ありがとう」と言い、自分の持ち場である最後尾へと戻って出発を待つ。
(訓練をしている騎士や兵士が戦うのは当たり前だけど、だったら輜重は狩人に任せれば良くない? それとも狩人だと盗まれたりするのかな? その割には私に任せてきてるし、イマイチよく分からないね)
そんな事を考えていると、どうやらストレーナの兄であるサスリオスが見回りをしているらしくこちらへ来た。子爵家の御曹司に激励されれば、領地の者は喜ぶのだろう。ミクは適当に返事をしたが、その事に関しては周囲の者の方が腹を立てていた。
サスリオスはそれよりもセリオを見て驚いており、ミクの挨拶など頭から抜け落ちていたのだ。ミクに触っていいかと聞き、それはセリオに聞けといわれたサスリオス。首を捻りながらも返事があって驚くサスリオスと周囲の護衛。
「なんとも驚くものだ。ライノ種というのか? 私は初めて見るが凄いな。触ってもゴツゴツした皮だし、矢も魔法も効きそうにない。いや、本当に凄いが、何と言っても会話が出来るのが素晴らしい!」
『まあ、珍しいと思うよ。【念送】のスキルを持つか、それと似たような事を僕みたいに出来れば会話は出来るだろうけど、難しいとしか言えないね』
「【念送】のスキルな……。初めて聞くが、おそらく意思を伝えるスキルなのだろう。いやー、初めて聞く事ばかりで楽しいな!」
「サスリオス様、そろそろ前にお戻りにならなければいけません。出発を遅らせる訳には参りませんので……」
「む? もうそんな時間か。仕方ない、では次の休憩の時にまた」
次の休憩などと言い出したものだからミクも渋い顔を一瞬したが、周りの護衛も渋い顔をした。「お前は戦争に向かって出発してるという自覚が無いのか」と思うが、同時にその緊張を紛らわそうとしていると考えると仕方ないのかとも思う。
戦争に対する緊張とは死への緊張とも言えるので、それを緩和させるのは必要な事だ。特に初陣ともなれば緊張感はその分だけ大きい。周りの渋い顔も分かるが、最高指揮官が緊張で倒れるよりはマシだろうと思うミクであった。
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更に進んでいって夕方になり野営を行う。多くの者が地面に座り休む中、輜重の者は指示された通りに食べ物を出していく。装備は軽い物ばかりなので、歩く負担は輜重の兵の方が遥かに楽である。
兵士や騎士は金属の鎧を着ているが、輜重の兵は革鎧しか着ていない。正確に言うと兵士の鎧は革鎧の上から金属を取り付けた物であり、総金属の鎧は騎士しか身に付けていない。彼らにとってはステータスだが、その重量は大変に重かった。
どうやらそれもあって、なかなか進まなかったらしい。進軍の遅さの全てが輜重の所為かと思ったら、どうやらそうでもないようである。ミクは言われた通りに食料を取り出し、中の物の量を書き込んでいく。
中の量がどれだけ減ったかは紙に書く決まりであり、書いている姿は騎士に監視される。というより出す量も監視されており、誤魔化す事が出来なくなっていた。といってもミクに誤魔化す気は無いからどうでもいいのだが。
輜重の中身はパンと干し野菜と干し肉であり、それ以外は水しか載っていない。しかもその水の多くは輜重を牽く家畜の水である。他には載せておらず、ギリギリまで絞っているのがよく分かる内容だ。
なるべく輜重は少なくしたいが、食事の内容は士気を左右する。しかし量を多くすると輜重も多く必要になり、その分だけ輜重隊が狙われやすくもなってしまう。なかなかに悩ましい部分であり、多くの者が悩むところであろう。
ミクのやる事は終わったので、アイテムバッグから鍋などと食材を取り出して作り始める。他の者達は適当に配られた食べ物を食べているが、ミクがそれだけで済ませなければいけないという決まりは無い。
何故なら子爵家の跡取りであるサスリオスなどは、輜重にプラスして自分で持って来ている分を食べている。これ自体は悪い事ではなく、他にも自分の食料を持って来ている者も居るのだ。あくまで輜重は最低限の食事らしい。
もちろんそこまでの用意をしていない者が殆どであるが、食べてはいけない等とは決まっていないので、堂々と料理をしているのである。ここまでは普通しないと思うが、ミクが慮ってやる必要も無い。
なので領都で買ってきていた野菜や配給の干し肉と干し野菜、更に硬いパンを千切って入れて煮込む。十分に煮込めたら深皿に入れて、最後にアイテムバッグから焼きたてのパンを出して食べていく。
今回のスープはドラゴン肉が入ってないので味に深みは無いが、それでも肉の旨味は多少なりとも出ているので良いだろう。こんな物でも野営では十分な食べ物なのだから、本来なら野営は大変なのだ。
その大変さに付き合う義理が無いだけであり、ミクは周りから羨ましがられているのを知りつつ完全に無視をした。
食事後。ミクはレティーに綺麗にしてもらった皿に【清潔】を使った後、アイテムバッグに仕舞って輜重の馬車内に入る。輜重の兵は食料の護衛でもある。当然ながら、馬車内で寝る事は許されているのだ。
その代わりに輜重が減っていた際の責任も負うので大変な仕事である。だからこそ狩人よりも町の人を雇うのかもしれない。輜重の兵は大変だが、貰える金銭は結構多いのだ。それを狩人に流したら町の者も怒るだろう。
『輜重の馬車内で寝るのはいいんだけど、実際にはギリギリだね。他の輜重の馬車よりも大きいからいいけどさ、ゴブリン様式の馬車って思っているよりも小さい。ストレーナの馬車も小さかったけど、これはもう種族的に仕方ないんだろう』
『それもあるだろうけど、あのタッソーとかいうのの力も無さそうだよ? あれなら馬の方が力があるんじゃないかな?』
『セリオの言う通りだと思います。おそらくあのタッソーは馬に比べて餌が少なくて済むなどの利点があるのでしょう。ですが、力が足りていないように思います』
『それに関しても仕方ないのかもね。馬は下に足が伸びてるけど、あれはトカゲだから足が横についてる。だから馬のように2頭牽きなどはし辛いだろうしさ。そうなると1匹で牽かせなきゃいけないから余計に少ない物しか運べないんだろうね』
『それを輜重を運ぶのに使うというのも無茶なような気がしますが、この国ではそれが標準なんでしょうね。で、ある以上は私達がとやかく言う事ではありません』
『そうだね。言っても面倒な事にしかならないから、無視してればいいよ。帰りも遅そうだけど、これが終わったらゆっくりしようっと』
セリオとしては然したる体力も使わない程度だったのだろうが、タッソーは疲れているようだったので、今ぐらいの速度が限界なのだろうと考えるミク。国境に急いでいるからこその速度であり、本来はこれよりも遅いのが普通なのだろう。
(ゲンナリしてくる遅さだね。セリオがストレーナの馬車を牽いた時は私達だけだったから、あの速度で牽く事が出来たけど、歩調を合わせなきゃいけないのは本当に面倒臭いよ)
輜重の馬車内に狐の毛皮を敷いたミクは、そこにセリオとレティーを寝かせる。ミクも横になり、分体2を出すとムカデの姿で外の監視に回す。
正確にはこのアルダギオン軍の中に裏切り者が居ないかを探っていく。一応の監視だが、果たしてどうなる事やら。




