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0058・栄養の話




 「ゴホンッ!! ……体を幾らでも変えられると分かったけど、必ずその女性の姿なのは何か理由があるのかい?」


 「これ? これは神どもに言われて何度も手直しして作った姿だよ。男が襲ってくるから喰いやすくなるってね。そう言われたんだけど、意外にこの姿というだけで襲ってくる者は多くないね。もっと襲われると思ってたよ」


 「いえ、流石にそれはないんじゃないでしょうか? 誰も見ていないならまだしも、誰もが見ている中で犯罪行為をする者は多くありませんよ。たとえ美女の姿でも、簡単に一線を越える者がそうそう居るとは……」


 「そうだろうねえ。犯罪を行うやつほど周囲の目を気にするもんさ。だからこそ犯罪を行っても問題ない状況を作ってやれば、簡単に犯罪を犯すんだけどね。そういう環境というか、状況を作ればいいんだよ」


 「ふーん」



 ミクは適当にウロウロしていれば自分を襲ってくるだろうと思っていたのだが、どうもそれだけでは駄目なようだと理解する。


 誘惑ともとれる話をしながら時間を潰した3人は、帰ってきた騎士達と共に宿の食堂で夕食を食べる。ミクはいつも通り大麦粥を注文したのだが、他の物も食べるようにとヴェスから忠告された。



 「ミクは大麦粥だけで良いんだろうけど、流石に私も伯爵だからね。周りに見せる意味でも、それだけじゃ困るのさ。質素な食事をさせてると言われてしまうし、色々頼んでくれると助かる」


 「とはいえ何が良いかなんて分からないし、栄養的に食べない方が良い物もあるし……。まあ、大体の物は食べすぎなければ大丈夫だろうけど」


 「えいよう……てき?」


 「栄養というのは食べる物に含まれてる物だよ。摂りすぎれば病気の元になったり、摂らないと病気になったりする物。で、栄養の観点から言うと、パンに使われてる小麦より、大麦の方が体に良いの」


 「へぇ……それは、その、ミクを育てた方から教えてもらったのかい?」


 「そうだよ。私に教える必要があったのかどうかは知らないけどね。病気になりたくなければ、綺麗な生野菜と大麦などに加えて肉を食べてればいいよ。野菜は火を通すと失われる栄養があるから、できれば生の方が良い」


 「生野菜ねえ……ソースを掛ければ食べられなくもないか。それにしても短命種か長命種かに関係なく、病気になって死ぬなんて普通にあるからね。気を付けるに越した事は無い」


 「金持ちや貴族だけ罹る病気とかあったら、食べ物の所為だというのを疑った方がいいよ。大体は偏食をしてて、あれが嫌いだとか、これが嫌いだと言ってるヤツだったりするから」


 「「「「「「「………」」」」」」」



 心当たりはあるのだろう。ヴェスも含めて全員が黙ってしまった。金持ちや貴族になるほど、庶民とは違って美味しくない物は食べなくなる。だからこそ栄養バランスが悪く、早死にするというのに。



 「食べる物一つとっても本当は色々考えなきゃいけないんだけど、少なくとも大麦が体に良い事は間違い無い。仮にパンを食べるにしても、酸っぱい黒パンだったり、ふすまの入った全粒粉のパンの方がマシ。白パンが最悪なんだ」


 「何か聞いてるとアレだね? 美味しい物ほど体に悪いと言ってるように聞こえるんだけど」


 「そうだよ? 人間種が美味しく感じる物は、基本的に体に良くないんだ。後はどこまでなら許容できるかという話でしかない。私は大麦粥が嫌いじゃないから食べてるんだし、自分の食べられる物と続けられる物は考えた方がいいね」


 「成る程。まあ、大麦なら家畜の餌にされてるか、粥で売ってるくらいだ。高級宿でも置いてたりするし、大麦粥っていうのは丁度良いのかもねえ。せっかくだから私も食べとくか」


 「あの、閣下が食べられるのですか? ……聞いた事が正しいとは限りませんが?」


 「いや、おそらく正しいだろう。戦場や大規模討伐で長対陣した場合、騎士の体調が優れなかったり病気になる事はよくある。その割には兵士の体調は問題なかったりするのさ。その時の事を思い出すと……」


 「騎士はパンを食べて、兵士は麦粥を食べてますね? 両方いわゆる小麦ですけど……」



 そう言ってアリストラはミクの方を見るが、ミクはあっさりと答えを告げる。



 「さっきも言ったけど、それはふすま等が多く入ってるからだよ。ゴールダームでもそうだけど、それなりにふすま等を除いたパンが売られてる。もちろんそっちの方が美味しいからだけどね。でも、それは体に良くないんだ」


 「そういえば先ほど、ふすまがどうとか……」


 「特に戦場なんかじゃ、生野菜どころか野菜自体を摂るのが難しい。そうなると野菜から摂らなきゃいけない栄養がどんどん不足する。しかも士気を上げる為に美味しい物を与えたりするけど、これが栄養的には問題なんだ。つまり、余計に病気に罹りやすくしてるってわけ」


 「「「「「「「………」」」」」」」


 「言葉は悪いけど、死にやすくしてるっていう自覚が無いんだよね。戦場で病気が頻発しても、戦場なんてそういうもの、で済ませてるみたいだし。私からすれば何も考えずに思考停止してるだけなんだけど、不思議とそんなのが何百年も続くんだよ」


 「まあ、確かにそうだ。戦場なんてこういうもの、戦闘なんてこういうもの。そう思って、何故そうなのかってトコまで考えた事はないね。そこまで考えないと騎士や兵士の死者を減らせないのに、考えるのを止めちまってる。バカどもの事を言えないねえ……本当に」


 「閣下……」


 「仮にヴェスが食事は質素にする代わりに病気になり難くするって言ったところで、騎士は納得しないだろうけどね。不味い物を食べさせられるんじゃ士気は上がらないだろうし、不満を抱えて叛逆するかも」


 「叛逆かどうかは分からないけど、士気は当然のように上がらないだろうね。戦場でそれは致命的だし、困ったもんさ。食事の内容が悪くて病気になって死ぬ。でも体に良い物は美味しくないときてる」


 「私と致しましては、死ぬよりマシだとは思いますが……」


 「ここで私から聞いたからでしょ? そこの騎士でさえ疑ってるじゃない。だから無駄だよ。私からすれば、知識は教えてあげるけど無駄だから変えようとしない方が良いってところかな。美味しい物を食べて死にたいなら、死なせてやればいいんだよ。戦場での美味しい食事程度で死にたいならね」


 「「「「「………」」」」」


 「確かに平時というか、町に居た方が美味しい物は食べられる。そりゃ当たり前の事さ。戦場で幾ら美味しいとはいえ、町で食べる美味しい物には敵わない。結局、その程度の食事の所為で死ぬ事に変わりなし、か」


 「何と言いますか、戦場での食事はとにかく士気の低下を防ぐ事しか考えられていません。そして、その士気も高いかと言えば……」


 「良く悪くも普通だね。それでも食事内容を変えたら、確実に士気は低下するだろうさ。そこのところは残念ながらどうしようもない。それでも騎士や兵士を死なせない為に変えるか、それとも今まで通りにするか……。ま、今まで通りしかないね」


 「ならば、分かっている者は兵士と一緒の食事にした方が良いでしょう。上の者も質素な食事をしていると思えば、兵士の溜飲も下がるでしょうし」


 「あんた達も病気の可能性を聞いたら怖くなってきたかい? 良い事さ。あたしはミクの言っている事が正しいと思うし、実際に戦場で体調を崩した事もある。粥で凌いだ事もね。その経験があるから分かるんだよ」


 「そんな経験でもなければ難しいんじゃない? 正直に言えば、美味しい物を少し食べるより、大麦の粥をお腹一杯食べた方が良いと思うけどね? 大麦は安いんだし」


 「貴族の連中には難しいねえ。舌が肥えてるっていうか、あいつら庶民の物なんて食った事すら無いだろうし」



 それなら無理だろうね、と納得するミクであった。


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