0599・年始のパーティー その4
葉月家の当主の目力に若干怯みつつも、無難に挨拶をしたコウジとセン。センは気楽だったが、コウジは冷や汗を流しまくりである。更には京華家の当主からも目が笑っていない挨拶を受け、コウジは胃の痛い思いをしていた。
それとは別に千芭家の当主への糾弾は続く。
「そもそもや、先代からアホみたいな事しとるのは分かっとったわけや。あいつら信用の切り売りしとるぞ、とワシらは知っとって笑っとった。当たり前やろ、んな事したら苦しゅうなった時、一気に噴き出してくるに決まっとる。そんな事はアホでも分かるこっちゃ」
「つまり、千芭。お前の家は私達の予想通りに傾きかけてる訳だ。当たり前だろう? 信用を失った者に待っているのは茨の道だけなんだからねえ。商売の基本、人と人の基本も信用第一だ。そんな事は言われなくても分かってなきゃいけない」
「ですが千芭の家は先々代の事を悪く言うあまりに、信用を軽視し過ぎた。先々代は確かに人が良すぎた所為で千芭家を傾かせかけた、しかし代わりに重厚な信用を勝ち得ていたんですよ。それを切り売りして傾けたのが、マヌケな先代と今代。つまり貴方です」
「我々は分かっていたのですよ、先々代嫌いの貴方達が必ずや千芭の家を傾けるとね。自分は頭が良いと思っている愚か者など救いようが無い。そう思いませんか?」
「<策士、策に溺れる>と言うが、君は策士気取りの愚か者でしかない。自分の足下が崩れ掛けているのに、それが正しいと思っているんだ。物事の表面しか読み取れない無能。それが君の評価だよ」
「………言いたい事はそれだけか? この世は勝った者が勝者だ。そんな事は名家の家の者にとっては常識だぞ。信用? そんな物は犬にでも食わせておけ。何の役にも立たんわ」
「それで大陸の者に情報や物を流して延命を図ると? ……おやおや、何を驚いているんだい? もしかして我が家を未だに舐めていたのかい、千芭」
ハルカが大変にイイ笑顔をしながら千芭家の当主を圧迫している。その顔とは裏腹に相当のプレッシャーを撒き散らしており、これこそが葉月家の総帥と言わんばかりの圧力だ。
千芭家の当主は顔が引き攣りそうになるのを堪え、必死に鉄面皮を装っている。しかしながらその仮面は最早剥がれ落ちる寸前だ。
「大陸の連中の金欲しさに売り渡すやと? お前どこまで腐っとんじゃボケェ! 今すぐ総攻撃して千芭の家潰すぞ!!」
「これは駄目だ。我々もそんな事まで考えているとは思わなかった。今すぐ潰さないと駄目ですね、でないと蝗どもが我が国に入って来かねない」
「奴等は他国を食い荒らす事しかしない。蝗民族とはよく言ったものだと思う。だからこそ水際でも何でもいいから食い止めるしかないんだ。千芭の家には交代してもらうか潰れてもらうかしかないだろう」
「この男が真面目に反省して今までのやり方を改めるなら考えなくはないけど、あの息子を見ていたらそれも無いね。次代も駄目だとなれば引き摺り下ろすしかない」
「貴様ら何を勝手な事を……! お前達如きに千芭の家は勝手にさせん。あの男の所為でどれだけ苦労したと思っている! 私と父が方々に頭を下げて回って必死に何とかしたのだぞ。あの男は何もせずに勝手に死んだのだ!!」
「先々代が病で亡くなった所為で伝えられなかったというのもあるんだろうけど、最大の原因は先代さ。あの男は覇気も無ければ、やる気も無い。ただ自分が楽して豪勢に暮らせれば良かっただけの人間だ。その浪費に付き合わされたんじゃなかったのかい?」
「………」
「お前が苦労しとったんはワシも聞いとるし知っとる。せやけどな、お前が苦労したんと蝗どもに日本の技術売るいうんは全く別の問題や。蝗を勢いづかせるだけで誰も得をせん。ほんまに技術を売ったんなら、お前は戦犯や。家の名が潰れるまで叩き続けるたるからな、覚悟せえよ」
「……チッ」
「ここまで言われて未だにその態度ですか。それは千川家も匙を投げる筈だ。筆頭分家に噛みつかれながら尚もそれとはね。呆れて物も言えない」
「何だと!?」
「何やお前、気付いてへんかったんか。こらお笑い種やで。筆頭分家の当主にそっぽ向かれとるっちゅうのに、暢気にしとるとは……何処までアホやねんコイツ。幾ら名家でも、家臣が居らなやっていかれへん事ぐらい知っとるやろうに」
「その家臣すら信用が無い為に統制できていない。何処まで無様を晒せば気が済むのか……。本当に掛ける言葉が見つかりませんね、ここまでだと」
「き、きさまらぁぁぁぁぁ!!! ッ!?」
激高したように見えた千芭家の当主が一転して倒れた。その事で慌てて声を掛ける周りの当主達。実は善人化を受けると気を失う事は知っているので、そこまで動揺していない。
その後、千川家の者が奥方と長男と当主を病院に連れて行ったようである。もちろん、そこにはハルカの〝優しさ〟が溢れていたからだ。
「〝優しさ〟ってなぁ……物は言い様やで。御大が病院に連れてったんは、その方がおかしい感じがせえへんからやろうに。気を失のうて病院で目覚める、そこから心機一転善人になるんやろ? エゲつない筋書きやで」
「普通はそんな漫画みたいな事は起きないんですが……。強制的に起こせる人が居ますからね。世の中とは不思議で満ちていると思いますよ。本当に」
「不思議で済めばええけどな。何かそれを通り越しとる思うわ。それで、千芭のヤツはほんまに大丈夫なんか? 変わっとるんやろな?」
「既に終わってる。流石の私でも神どもの力だ、喰う事は簡単だが扱うのには慣れていない。御蔭で変えるのに30秒ほど掛かった。慣れてくればもっと早く変えられるだろうが、今は無理だな」
「十分過ぎるやろ。人が30秒で善人になるって何やねん。……いや、マジでなんやねん。何回聞いても意味分からんわ」
「それはともかく、これでパーティーでやる事は終わりですね。千芭家の当主が変わるので、最後に今までの鬱憤をぶち撒けておきましたが……やはり彼は自分が賢いと思い込んでいたようです」
「ええ、そのようですね。本心から頭が悪いと思いましたよ。捻じ曲がっていたのかは知りませんが、幾らなんでもアレは無い。先代の影響を受けすぎています」
「儲かりゃ何でもええ。普通はワシら大阪の商人の考え方やで。それでも通さなあかん筋はようけあるし、やったらあかん事はあかんねや。それが当たり前やっちゅうのに、ほんまフザけとるわ」
「まあまあ。もう終わったのですから愚痴は止めましょう。新年のパーティでそれはねえ。それより2人の事は認めたんですか?」
「ん? ああ、せやで。今さらどうこう言うてもしゃあないし、翠の奴はあかん言うたら逃げ出しよる。ウチのおかんそっくりやからな、行動力が異常にあんねん。あれは認めるしかないんや、認めへんかったら好き勝手始めよるからな」
「それは、また……」
「せやから放任しとるのが正直なトコや。まあ子供だけは早う作れ言うといたから、頑張ってヤりまくっとるやろ。若いんやしすぐ出来る思うわ。おかんがどう動くか怖いけどな」
「おとん、そういう事ハッキリ言うん止めてんか。最近は妊活いう便利な言葉があんねん。そっちにしてーや」
「そらちゃうやろ。いや、意味は通じるかもしれへんけどや、向こうは産婦人科に相談したり色々しとるんちゃうんか? なかなか子供が出来へん家庭もあるみたいやしな。お前らそういうのとはちゃうやろ。ヤれは出来る年齢やろうに」
「せやから、こんな場でハッキリ言うな!」
「分かった、分かった。ワシが悪かったから、そない怒んな。悪かった、悪かった」
全く謝罪にもならない言葉を発して終わりにした夏沢家の当主に対し、相当にお冠なミドリ。そのミドリを必死に宥めるタケル。既に将来の形が見えており、それを見て安心する夏沢の当主。
他の4名家の当主も温かく見ていたが、矛先はそちらからコウジ達へと移る。




