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0056・フィグレイオ獣王国へ




 朝日が昇る時間に起き出したミクは、準備を整えてレティーを抱き、食堂へと移動する。朝早くに起きているにも関わらず、いつもこの食堂は食事が出来る。


 少々不思議ではあるものの、大銅貨1枚を払い大麦粥を注文したミクは、席に座って料理を待つ。周りには誰もいないものの、それだけ気楽とも言えるので、この雰囲気が嫌いではないようだ。


 食事後、宿を出発して探索者ギルドへ。中へ入って椅子に座り、ゆっくりと<雪原の餓狼>が来るのを待つのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 「すまないね、少々遅れたかい? 一応関係各所を回ってからだから、時間が掛かってね」


 「それなりには待ったけど、その間に情報収集をしてたから問題ない。時間は無駄にしてないから気にしなくていい」



 ミクはギルドに屯している連中に対し、1人小銀貨1枚を払って色々な情報を聞きこんでいた。別に嘘であっても気にしないので情報を仕入れているが、ミクに嘘を吐いた者は実はいない。


 屯している連中は、ミクがヤバイ奴だと分かっているうえ、ツインヘッドフレイムを2人で倒して突破した猛者だという事も知っている。つまり敵に回してはいけないヤツの情報、その事は屯している連中ほど敏感なのだ。


 ここに屯している奴等もバカではない。仕事をしていない訳ではなく、休みの日に情報収集をしている奴等が大半なのだ。なのでバカな事はしない。



 「さて、依頼が出来上がったんで、後は請けてもらうだけかい」


 「心配しなくても請けるよ。ダンジョン攻略をさせたいっていうのも不思議ではあるけどね」


 「なーに、我が国の探索者のケツを蹴り上げてくれればいいのさ。どうしても自分の行ける範囲を決めて、その程度で済ませちまう。それじゃあ、いつまで経っても完全攻略なんて無理だからね」


 「発奮させる、またはやる気にさせる為の依頼って訳か。そんなにフォグレイオの連中はやる気が無い?」


 「やる気がない……。まあ、間違ってはないけど、向上心が無いのが正しいね。金が稼げりゃ、それ以上危険な事はしない。当たり前っちゃあ、当たり前なのかもしれないけどねえ。全員がそれじゃあ、困るって事さ」


 「本当に全員って事は無いんだろうけど、それでもそこまで言うくらいだから相当なんだろうね。とはいえ、ここでも第5エリアに行こうっていう連中は多くないから微妙な話かな」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」


 「第5エリアまで行けてるから言えるんだろうけど、あまり言うと嫌味になるよ? それはともかく、この国のダンジョンで言えば、第4エリアに居るのが極僅かってぐらいかね」


 「それは少ないと言うか、その程度しか居ないの?」


 「ミクはここのダンジョンしか知らないだろうけど、他のダンジョンの難易度はもっと緩やかなんだよ。ここは1エリア毎に変わりすぎだけど、そこまでの変化が無い代わりに長いのさ。っと、手続きも終わったし、そろそろ行こうか」


 「了解」



 ミクは<雪原の餓狼>と共にギルドを出ると、ギルドの前に止めてあった馬車に乗り込み出発する。その後はゴールダームの門を越え、一路フィグレイオに向けて出発するのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 周囲の護衛も馬に乗っている為、ミクも馬車の中に入れられている。何故か<雪原の餓狼>が乗っている馬車に同乗している訳なのだが、これはいいのだろうか?。



 「あたしの名はスヴェストラ・オルネイ・カロンヴォルフと言ったろう。好きに呼んでおくれ」


 「ならヴェス……で決まりかな。それはともかく、フィグレイオに着くのはいつぐらいになる?」


 「一月も掛からないさ、あたし達が到着したのも20日ぐらいだったかねえ。ゴールダームは各国の中心にある。そこまで距離が離れている訳じゃないよ」


 「それでも結構な時間が掛かるね。仕方がないんだろうけど、面倒な事だよ。私一人だけなら、あっと言う間なのにね。とはいえ諦めるしかないか」


 「まあ、馬車の旅なんてそんなものさ。尻が痛くなるし時間は掛かる。とはいえ、仕事なら致し方なしって言って耐えるしかないんだよ」


 「そういえば何しにゴールダームまで来てたの? 別に長居してた訳じゃないみたいだし、その割には一月近くかけて来た訳でしょ?」


 「1つはエクスダート鋼の輸出依頼だね。大量に輸出してくれとは言ったけど、まあ無理だろう。こっちもそこまで期待はしてない」


 「なら何で?」


 「今度、新たに近衛騎士の総隊長に任じられる者に対して、新しい剣を打つ事になってるのさ。その為にエクスダート鋼が要るんだよ。今までのは悪くなってるからねえ」


 「第5エリアのマッスルベアーの牙とスチールディアーの角。それがエクスダート鋼の材料だって聞いたけど、私はまだ2階に下りてなかったから会った事が無い。強いのかな?」


 「ミクにとったら、どんな魔物でも弱いだろうさ。普通の探索者からしたら相当強いんだろうけどね。あたしも戦った事は無いから、分からないよ。それはともかく聞いていいかい?」


 「なに?」


 「ウィリウム鋼の槍はどうしたんだい? 少なくともミクの戦利品だから取り上げたりはしないけど、あれが我が国で目に付くと少々問題があってね」


 「裏切られた家の象徴だから? それなりに有名な槍だったんだね、あれ。少なくとも見て分かるってぐらいなんだから、覚えてる人が多いって事でしょ?」


 「ああ。あの長細い穂先は特徴的でね、何となくでも知っている者は居るんだよ。噂で聞いた事があるとかね。だから持ってるなら出さないでほしいのさ」


 「……はい、コレ」


 「………なんだい、この槍?」


 「それがテリオルヴ家の家宝だよ。今は私が溶かして作り変えたけどね」


 「…………これが、ねえ。……ま、これじゃあ、誰にも分からないだろうさ。それはともかく珍しい穂先だね、初めて見る形だよ」


 「三角錐の穂先は珍しいみたいだね。私は神どもに色々教わったし、その中に三角錐の穂先の槍もあったんだよ。傷口を広げ出血を増やし、なるべく敵を殺せるようにした槍の事をね」


 「傷口を広げて出血を増やす、ねえ……。だったら断面が菱型の、普通の槍の方が良いんじゃないのかい?」


 「知ってるだろうけど、人間種だろうが魔物だろうが、肉に突き刺すと生きている限り収縮する。菱型のような対称型より、三角錐のような非対称型の方が抜けやすいんだよ」


 「どういう理屈とかは知らないけど、確かに剣や槍を突き刺すと抜けなくなったりするね。あれを解消する為にかい……」


 「更に言えば、幅広になっているから刺さりすぎを防げるし、広げて出血を促しているわけ。平面じゃない方を敵に叩きつけてもいいしね。それに溝を掘って血が流れ出やすく、空気の入る隙間を空けてるでしょ」


 「よく分からないけど、色々考えられてるんだねえ。溝を作るのは知ってるよ、抜きやすくする為だって聞くしさ。とはいえ、何故抜きやすくなるかなんて知らなかったけど」


 「肉が収縮して密着すると抜きにくくなるんだけど、空気の入る隙間があると密着できないから、収縮の力が穂先に行き渡らなくなる。だから抜きやすくなる訳だね」


 「ふーん、本当に色々考えられてるんだねえ」



 そんな話をしながらも馬車は進んで行く。今は北東に向かって進んでいるも、その速度は遅い。特に暇ではないし、ミクにとっては夜中の暇潰しと変わらない感じである。


 更にはレティーとも密かに会話しているので、それほど暇な訳でもない。そんな馬車の中で揺られていくミクであった。


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