表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/614

0004・ギルドマスター登場




 「おら! 行くぞ、生意気な新人!! あっさり、くたばんじゃねえぞ!」



 試合が開始すると同時に走りこんできたオドー。思っているよりも綺麗な右ストレートを放ってきたものの、ミクは首を傾けて回避する。それと同時に、左膝で相手の右脇腹を狙う膝蹴りを放つ。


 しかしオドーは即座にバックステップ。ミクと距離をとった。予想外の行動だったのか、明らかにオドーがビックリしており表情が変わった。


 深呼吸をし、今度はゆっくりと歩きながら迫ってくるオドー。どうやらさっきまでの油断は無くなったようだ。たとえ油断が無くなったところで、ミクに勝つ事は不可能なのだが、彼にそれを知る術は無い。


 再び近付いてきたオドーは左でジャブを放ちつつ、ミクを崩そうと小技で攻めてきた。フェイントを混ぜながらの様子見であり、隙が見えたらさっきのストレートを打つつもりなのだろう。


 ミクは回避とパリィを行いながら様子を見る。チンピラ風の粗暴な狼獣人かと思ったらそうではないようで、戦闘に関しては思ったよりも真剣なようだ。しかしこの星の基準でどの程度なのかは分からない。


 この国の平均的な探索者も知らないミクにとっては、目の前の相手にどう勝つのが正しいのか見当が付かないのだ。仕方なく適度に手を出す事にした。



 「チッ! さっきまでのはお互いに様子見だったようだな。思ったよりもやるじゃねえか新人。だがな、このゴールダームじゃ通用しねえぞ!」



 お互いに回避やジャブの応酬となるが、ミクは上手く回避しているのに対し、オドーは喰らいながらも前に出る。しかしミクは上手く左右に流れ、バックステップを行い詰めさせない。


 両者の攻防は周囲の野次馬を完全に黙らせている。周囲の連中も、ここまでオドーが強いとは知らなかったからだが、そのオドーと対等に戦っている新人もまた驚きの目で見ている。


 例え手加減に手加減を重ねたジャブであっても、何発も受けていると苦しくなってくるのは当然だ。遂に目に見えるダメージと荒い息を吐きはじめたオドーは、切り札を使わざるを得なくなる。



 「クッソ! まさかオレがここまで追い詰められるなんてな。明らかに新人じゃないぞ、お前の強さ。ただな、伊達にゴールダームで探索者やってねえんだよ!!」



 突然オドーの体から”圧”が発生した。ミクはすぐに理解したが、オドーは<魔素>を取り込んで肉体を活性化させている。



 「流石にお前も【身体強化】は知らんだろう。これが使えなければ、ここじゃ一定以上先には進めねえ。これが一流とそれ以外を分ける技ってもんだ。大人しくこれ、なんだと!?」



 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽



 ミクはオドーが行っている【身体強化】に関して、すぐに理解して自分にも出来るか本体で試していた。


 生物の肉体の中には【魔力】という物があり、それを行使して魔法を使う。ただ、オドーが使っている【身体強化】というのは、【魔力】になる前の空気中にある物。つまり【魔素】を直接使用している。


 生物は己の体に【魔素】を取り込み、それを自分の物として練り合わせ【魔力】に変える。その自分の【魔力】になる前の物を直接使い、肉体を強化、そして活性化させているのだ。


 それこそが【身体強化】の根源であり、同時にミクには弱点も理解できた。なので、これで実験終了であり、それ故に分体で使用したのだ。【身体強化】を。



 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽



 「お、おまっ! な、何だそれは……?」



 既に【身体強化】を解除して呆然としているオドー。ミクから感じる”圧”は自分が出す”圧”の比ではなく、ミクの体の周囲は陽炎のように揺らめいている。


 あまりにも多く濃過ぎる【魔素】が、周囲の景色を歪めてしまっているのだ。そもそもミクの魔力というのは、通常の魔法使い100万人でも足りない程に莫大な量である。


 そんなミクからすれば、この程度の量の【魔素】を集めて使用するのは、大して難しくもない。しかし、それは常人とはズレ過ぎた考えである。


 ミクが動こうとした瞬間、ギルドの扉が盛大に開き、大きな声が響き渡った。



 「誰だこの圧を放ってるバカは!! さっさと引っ込めろ! 迷惑だろうが!!」



 獰猛な顔をした獅子獣人が現れ、ミクとオドーの間に入った。再び「引っ込めろ!」と言われたミクは、仕方なく【身体強化】を解除する。



 「いったい何でバカげた圧を放つ事になったんだ! オドー、説明しろ!!」


 「いや、ギルマス、それは……」


 「ぐちぐち言い訳すんじゃねえ! ワシと一対一の訓練をさせるぞ!!」



 そう言われたオドーは慌てて何があったのかを説明、拳骨を落とされたが結構な音がしていた。今は拳骨を落とされた場所を押さえて呻いている、余程に痛かったのだろう。



 「全く……新人の洗礼とはいえ、お前が追い詰められてどうする? 相手を見て実力の差を理解しろと教えてやったろうが。相手が新人だからと舐めた結果だ、反省しろ!」


 「おごごごごごご…………」



 あまりの痛みでそれどころじゃないらしい。返事も出来ずに呻いているオドーは無視し、獅子獣人はミクに声を掛けてきた。



 「お前も、お前だ! あんなバカげた【身体強化】を使うヤツがあるか! 【身体強化】というのは必要な量だけ使えばいいものだ。無駄に強化するのは三流のする事だぞ」


 「そもそも【身体強化】というのを知らなかった。さっき初めて使ったから」


 「は? ……お前、もしかしてオドーが使ってたのを見て使ったのか?」


 「そう。見本があるなら模倣するのは容易い。そこに答えがあるのと一緒」


 「……ウハハハハハハハハ!! こりゃオドーが勝てん訳だ、お前は天才タイプか。たまに居るんだよ、お前のように異常な才能を持つ者が。駆け上がって行くのか、途中で落っこちるのかは知らんがな」


 「………強いとそれだけ多くの者に絡まれる?」


 「そういう事だ。チンピラだけじゃないぞ? ダンジョン内の不良探索者や迷賊、それに怪しい奴隷商人に闇ギルドの連中、極めつけは貴族どもだ。全て碌なもんじゃない」


 「不良探索者は何故?」


 「証拠が無ければ潰せないからだ。流石に噂だけで潰すなんて事はできんし、捕縛するのも無理だ。嘘を吐かれりゃ分からんし、真偽官を呼ぶのは金が掛かる」


 「真偽官?」


 「それも知らないのか。真偽官っていうのは【真偽判定】というスキルを持つヤツのこった。このスキル持ちの前じゃあ、嘘は吐けねえ。吐いた途端にバレるからな。とはいえ真偽官が金で買われてたら、【真実の天秤】を使うしかないが」


 「それは、真偽を判定する道具?」


 「そうだ、ダンジョンで見つかった魔道具だな。どうやって出来てるのかサッパリ分からんが、【真偽判定】が出来る魔道具だ。ただ、かなりの魔力を使うんで魔石代が高いんだよ。真偽官の方が安いが、それでも結構な値はする」


 「だから簡単には使えないし、嘘を見破るのも難しく証拠が要ると。……もしかしてダンジョン内で襲われる?」


 「そうだ。ダンジョン内じゃ魔物だけが敵じゃない、同じ探索者だって敵かもしれない訳だ。決して安易に他人を助けたりするなよ? 中には怪我人を装ってる奴も居るからな。前に違法な奴隷商が、その方法で奴隷を集めていた事がある」


 「成る程、ありがとう。えーっと、ギルマス?」


 「今ごろか。ワシはギルドマスターのラーディオンだ。ちゃんと覚えておけよ。それじゃあ解散だ、解散。いちいち他人に迷惑掛けんじゃねえぞ」


 「「「「「「「「「「へーい」」」」」」」」」」



 どうやら戦いも勝手に終わらされたみたいであり、これでは勝っていた筈なのに儲けが無い。その事に納得のいかないまま、ミクは宿へと戻るのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ