0693・コウジ達の変化
Side:北条光時
さて、この私有地ダンジョンでいったい何個目だったか……。既に覚えてないけど、それなりには潰してきたなぁ。最近は二郎衛門さんと夕月さんも居ないし、何故か3人での攻略だけどさ。
「ハァッ!!!」
「てぇぇぇい!!」
気合いが入りまくってるなぁ。もはやファイアリザードじゃ相手にならないみたいだ。今は冬休みだからそれなりに時間があり、だからこそ最近八重も桜も腕が伸びてる。自分が強くなってるって分かると楽しいんだろう。
俺も実力が伸びてるから楽しいんだけど、最近妙な人達に声を掛けられる事が増えたんだよなー。御大はハニートラップもあるから気を付けろって言ってたけど、俺みたいな一般人にそんな事を本当にするのか?。
「お兄ちゃん、どうかした? なんだかボーッとしてるみたいだけど」
「いや、御大が言ってたろ? ハニートラップが云々ってさ。あれってマジだと思うか? 俺は一般人なんだし、やるなら千芭に対してだろ。流石に一般人相手にそんな事はしないと思うんだが……」
「甘い、甘いですよ光時君。そんな脇の甘さではハニートラップに引っ掛かります。名家ではそういう事を教えられますが、一般家庭で教える事はありません。ですからこそ、むしろ光時君が狙われるんです」
「ええ、そうです。敵は確実に弱い所、もしくは弱いと思っている所を狙ってきます。ですから光時君もセンも気をつけて下さい。ハニートラップというのは何も男性に対してだけではありませんよ?」
「うぇぇぇぇぇ、私にまでそんな事してくるの? 面倒臭いなぁ、何でそんな事するのか意味が分からない。お兄ちゃんが引っ掛かってフラれればいいじゃん」
「何でフラれる事が決定事項なんだよ。そもそも引っ掛からないっつーの。それよりセンの方は大丈夫かよ、イケメンが来たらコロッとやられたりしないだろうな?」
「ないない。イケメンなんて全部悪徳ホストみたいにしか見てないから。むしろイケメン見た瞬間そういうヤツとしか思わないし」
「それはそれで酷いな、偏見だらけじゃん。とはいえそっちの方が安全なのかな? いや、でもそういう人ほど騙されすいって言うしなぁ」
「そうですね。自分は大丈夫とか、他人を疑って掛かる人ほど騙されやすいそうです。ですからフラットな物の見方をする方が良いんですよ。一番良いのは無関心でしょうけどね。何をやっても関心が無いと諦めるそうですから」
「引っ掛からない相手に続けると警戒されるだけなので、騙そうとする側は見切りが早いそうです。駄目ならすぐに撤収するそうですが、別の者を向かわせたりするとも聞きますし……そう簡単には終わらないでしょうね」
「えぇー……面倒臭い」
「本当にな。なんで一般人の俺達をターゲットにするんだろう? こうなったら【身体強化】からの威圧で追っ払おうか、それが一番良いと思う」
「そうだね。一応は色々な【身体強化】を教えてもらったし、私も2つ目のスキルが手に入ったし」
「センの2つ目のスキルは【繊細】でしたっけ? 力の入れ方などを含めて非常に有用なようですね」
「そうそう。このスキルが手に入ってから、凄く力を篭めたり抜いたりが楽になったんだよね。色々な事に応用が効くし。それでも2人のスキルよりはショボいけど……」
「それでも2つ目のスキルが無い俺よりマシだろ。センは発現したんだからさ」
「まあねー。ほら、私はお兄ちゃんと違って出来る子だし? やっぱり違うんだなー」
「にも関わらず手合わせすると、毎回出来ない俺に苦戦してるけどな」
「………」
兄妹だからか、相変わらず俺達は笑顔で睨み合う。そんな俺達に慣れたのか八重も桜も何も言わない。まあ、すぐにこんな下らない睨み合いは止めるからなんだけど。
「……そういえば、お母さんが言ってたんだけどさ」
「うん? 何だ急に?」
「孫の顔が早く見たいって」
「ブッ!!」 「「!!!」」
「母さんは何を言ってるんだ? 俺達はまだ高校2年生だぞ。仮に孫が見れるとしても、高校卒業して<ダンジョン暮らし>に入ってそれからだから、まだまだ先だろうに」
「えっ? お兄ちゃんも私もそうだけど、もう十分にお金持ってるじゃん。鑑定の石板も3つ見つけたし上級ポーションだって4つ、それに魔剣も3本手に入れたじゃん。あれで私とお兄ちゃんの通帳3億超えてるよ?」
「全部御大に預かってもらってるけどな。なぜか俺達も千芭と同じように扱って貰えてるけど、本当に良いのかね? 俺達は唯の一般人なのにな」
「それは良いんじゃない? だって遥さんだって早く曾孫の顔が見たいって言ってたし、千芭と夏沢みたいにヤる事ヤれって言ってたよ」
「「!!!」」
「何でこう……周りの人がグイグイ攻めてくるんだろうな? 当人達に任せるっていうのは無いのか?」
「流石にそれは無いですよ。光時君はともかく名家の者である私達は、早く次代の子をと求められるのが普通ですから。良い悪いは別にして、歳をとる毎に子供が出来る確率は減ります。それが現実である以上は……」
「ですね。私もそういう教育を受けてきています。桜さんも言いましたが、良い悪いは別にして、子供が出来ないと色々と言われるのですよ。名家の家の者は男であれ女であれ周りから言われる。これは仕方のない事としか言えません」
「そうなのか……。しかしそういう事もしてないのに子供が出来る訳ないしなぁ」
「だから遥さんもお母さんも早くヤれって言ってるんじゃん。なんかね、妊娠してても出産しても学校には通わせて卒業させるから心配するなって。葉月家の力でどうにでもするって言ってたよ?」
「色々怖いんだが!? むしろそこは冗談だと言ってほしい! 物凄く怖いから! 後、妊娠してたら色々と言われるだろうし、2人が肩身の狭い思いをするから駄目だ」
「??? ……特に肩身の狭い思いなどしませんが? むしろ五月蝿く言われる事が無くなりますので助かります。それに子供は好きですし」
「私も八重さんと同じです。名家の娘は年頃になると家族や周りから言われますからね。高校生で産んだのなら褒められこそすれ怒られる事はありませんよ」
「一般人の感覚と違いすぎる……」
「そうは言っても、周りからそれだけ言われるという事は金銭面でのサポートはきっちり有るという事です。でしたら特に問題ないのでは?」
「ですよね? そもそも高校生で子供を産んでも困るのは、将来の事と金銭的な事です。その両方は既に解決しているのですから、早くて喜ばれる事はあっても怒られる事はありません」
「あー、それは確かに。私もお母さんから「孫が見たいなー」とか言われたから」
「センもかよ……。いや、まだ高校1年の娘に何言ってんだって思うのが、どう考えても普通の感覚だろ」
「普通なんて有って無きが如しものです。普通という幻想など捨てて、これから私達と溺れましょう?」
「しないよ!? 流石に若いのは問題があるから、負担を掛ける気は無いよ」
そう俺が言うと、八重も桜もセンも笑い始めた。どうやら俺は揶揄われていたらしい。安堵の溜息を吐きつつも、心臓に悪い話をダンジョンの中でするのは止めてほしい。
「もう19階で次がラストだから良いけど、あんまり心臓に悪い会話はしないでほしい」
「あらあら。でも先ほど言っていた事は本当ですよ。光時君が私達を大事に思って手を出さないのは知っていますが、手を出しても問題は無いという事を伝えたかったのです」
「ついでに周りから望まれてるのも事実だしね? お兄ちゃんは頑張らないといけない立場なんだよ?」
「そうですよ。今はまだ大丈夫ですけれど、そこまで猶予もありません。それだけは覚えておいて下さいね。私達名家の女性を手にするという事は〝そういう事〟ですので」
………どうやら気合いを入れて覚悟をして、これからの人生を生きなきゃいけないらしい。




