0592・タケル達の変化
コウジ達のゴールダーム観光から2ヶ月ほどが過ぎた。ミクはガイアに常駐しており、アレッサ達5人は向こうに戻ったり日本に来たりを繰り返す生活だ。流石のマスメディアも騒がなくなり、他のニュースを流している。
ミク達を叩いていた反動が今も返ってきているので、早々に無かった事にしつつ通常のニュースに移行したようだ。他人は無いこと無いことで叩く癖に、自分達が叩かれ始めるとすぐに逃げる。相変わらずの卑怯者っぷりであろう。
この2ヶ月は様々な事があった。何と言っても大きいのはタケルが若返りの薬を2つ見つけてきた事だ。もちろん千芭家にはバレていない。何故なら売り上げの全ては葉月家が管理しているし、千芭家にはビタ一文渡す気が無いからだ。
他にも鑑定の石板や幾つかの装備も見つけてきており、これらは葉月家の研究所に預けられている。その御蔭かタケルも今は随分と余裕を持って生きているようだ。お金に不自由はしなくなったからだろう。
1つ目の若返り薬は12億、2つ目の若返り薬は9億で売れたらしい。その3分の1、つまり7億がタケルの取り分だ。そこから半分の3億5千万がミドリの取り分らしく、葉月家本邸の応接室でホクホク顔をしている。
「そらせやろ。もうすぐ誕生日で20歳やけど、その時点で3億5千万やで。これから自分1人でも十分暮らしていけるんやし、尊の分を合わせたら7億や。余裕で暮らしていけるやんか」
「何でオレの金を混ぜるんだよ。そこは個人の分ずつだろ」
「あん? 何か言うたか? 毎日毎日飽きもせんと、人様の体を猿みたいに貪っとるんは何処の誰やねん。手え出した以上は覚悟しいや、逃がしたりせえへんで」
「いや、まあ……今さら逃げる気はないし、逃げるなら手を出したりはしねえよ」
「そんならええ。ええか? 他の女にホイホイついて行ったらアカンで、それなりに狙われとるんやからな。千芭の家っちゅうより、アンタがそれなりの腕になったからや。各企業も結構活発に水面下で動いとる。何やったらハニートラップ仕掛けてくるくらいにはな」
「ゲッ!? 何でオレなんだよ、狙うならアイツの方だろうが。ここ最近また実力が伸びてきたとかで、結構注目されてるじゃねえか。最近思うんだけど、派手なのは全部アイツに任せるべきだろ。目立つと面倒でしかないし」
「アホやな。北条君かて同じ考えに決まっとるやろ、せやから御大は半々ぐらいで動画流しとんねん。アタシらの方まで来たら面倒な事になんねやから、男2人で目立ていう事やな」
「勘弁してくれ。いちいち鬱陶しいのなんて要らねえよ。オレは主人公じゃなくなったんだから、あっちに全部任せれば良いだろうに」
「北条君は一般人やで? 名家ちゃうんやから今で精一杯やろ。幾らアカウントが彼のもんや言うても、名家映さんと五月蝿いのがようけ居るからな」
「くっそ、主人公を諦めたら名家の立場がウザすぎる。正直に言ってアイツの立場の方が絶対に楽だろ」
「そら諦めるしかないな。それよりウチのおとんが顔出せ言うとったで、帰りにウチ寄りや?」
「うげっ!? あのヒト怖えんだよなぁ……何か蛇みたいっつーか、真綿でじわじわ締め上げられる感じがして、スゲー居心地が悪いし」
「ははははははは……そりゃ諦めるんだね。夏沢のヤツはそこまで根に持ったり策謀を張り巡らせるヤツじゃないけど、娘の相手だ。そりゃ見定める為に色々と無茶振りしたりしてくるさ。そこは男として諦めるしかないねえ。少なくとも稼げる男だとは分かってる筈さ。あんた達でドレイクも倒せたんだしねえ」
「そういう御大かてドレイク倒したやん? ミクが一緒に居ったけど、それでも御大かて活躍してたし。動画のコメント欄が凄かったで。ジャパニーズ・ナデシコガールとか言われてたやん」
「アレもねえ……。そもそも日本女性が大和撫子なんて唯の幻想だし、誰かが言い出した事でしかないんだよ。そもそも大和撫子なんて生きるのには弱過ぎるだろうに。生きるって事は、そんな甘いものじゃないからねえ」
「確かに。それはそうと北条君らはともかく、お姉さん方はどないしてるん? 最近は尊とダンジョン巡りばっかりしとったから、詳しい事は知らんのよ」
「あの2人なら普通にダンジョンを巡って戦ってるね。意気投合したからか、2人で会社の女性を連れてパーティー組んでるよ。あの2人は両方女子校の出だから……」
「あー……お姉さん方はそういう……」
「なんだ?」
「女子しか居らん学校やと、そうなる人も居るって聞くんやけどなぁ。多分やけど百合の花でも咲いとんちゃう? もしくは両刀か」
「ああ、そういう事か……。ゲームではそんな事もない感じだったから、両刀なんじゃないかと思うけどな?」
「どのみち好きにさせりゃいい事さ。両家とも後継ぎは居るんだし、娘くらいは好きに生きる事を許すだろ。相手が女性でも山雅家と四宝家でくっついたなら、そこまで目くじらは立てないんじゃないかねえ」
「女性同士でも家の繋がりは家の繋がりやからね。そら両家としては微妙な気分でも、賛成には回るやろうなぁ。くっついて悪い事ないし」
「おっと、そろそろ帰る時間じゃないかい? 報告は受け取ったから後はこっちでやっとくよ。若いんだし、さっさと帰って猿の相手でもしてやりな」
「そこまでハッキリ言わんでもええんちゃう? いや、まあ、ヤる事はヤるんやけど」
「はっはっはっはっ、歯に衣着せようが着せまいがヤる事は変わらないよ。若いんだからそれぐらいで良いのさ。特に名家の女性ってなると遊べないからねえ。それにお前さんは八重達と違って、自分の体を〝使える〟女だ。だから言ってるのさ」
「そらな。アタシはアタシの価値を正確に把握しとるで。せやからこそ、高う売りつけられる相手に売ったんやしな」
「それでいい。女ってのはそんなもんだ。八重達はどうにもその辺が甘いからねえ、名家の女には名家の女の戦い方があるっていうのに……」
「ははははは……アタシはこう見えてお婆ちゃんっ子やったから古臭い女なんよ。せやから売り時に売るんやけど、今の子らはアレでええんちゃうかと思うで。お姉さん方は知らんけど。おっと、流石に早う戻らんと我慢でけへんみたいやから、これで失礼させてもらいます」
「最後にオレをネタに使うなよ。では、失礼します」
そう言ってミドリとタケルは葉月家の本邸を後にした。2人でダンジョンに行っている内にああなったらしいが、何がどうなってああなったかは本人達のみぞ知るといったところだ。
それでも2人が幸せそうだから良いとは思うのだが、ハルカは少々引っ掛かるらしい。
「難しい顔をしてるけど、それって千芭家のこと? それとも2人に何かあった?」
「あの2人に問題は無いさ。問題なのは千芭家の方でねえ………信用を切り売りしてきたツケが最近一気に噴出してきたらしい。どんどんと千芭家から離れ始めたみたいなんだよ。まだ露骨な動きにまではなってないんだけどさ」
「下っ端が親分から距離を置き始めた、と? それって崩壊の始まりな気がするけどね。だって下っ端がこの親分だとマズいって思い始めたって事でしょ?」
「そうさ。こういう時に下っ端を繋ぎ止めるのは信用なんだけど、千芭の奴は先代と2人でそれを切り売りしちまってる。つまり、繋ぎ止められるだけの信用がもうない。あいつは勘違いしてたんだよ。先々代は確かに人が良すぎた、しかしその反面信用は大きくあったんだ。だから下っ端も仕方ないなと助けてくれた。でも、今はそれが無い」
「足下がグラついている以上、崩れるのは早くなる。となると、そんなに保たない?」
「そこまで千芭家も脆くはないが、いつまで保つのかは分からないねえ……」
「ふーん……」
と言いつつ、喰えるかどうかを慎重に吟味するミク。徹頭徹尾、怪物のやる事は変わらない。まだ状況は変わる可能性が高いので、今は保留にするミクであった。




