0055・雪原の餓狼からの依頼
会話をしている横で大麦粥を食べているミク。そのミクに対して呆れるイリュと<雪原の餓狼>。とはいえミクにとってはどうでも良く、興味も無い話など聞く気も無いし、聞くに値しないのだ。
そんな雰囲気を隠そうともしないミクに対し、<雪原の餓狼>がふと口に出す。その一言で様々な事が動き始めるのだった。
「あたしもミクと呼ばせてもらうけど、ミクは探索者だったよね? もしあたしが依頼したら、その依頼は請けてもらえるのかい?」
「依頼内容によるね。私が神どもから命じられたのはゴミを喰らう事だけど、裏を返せばゴミでなければ喰えない。私自身、人間種を喰う事は食事に等しい。あくまでも人間種の料理を食べてるのは言い訳の為だけ」
「ああ、うん。つまり私達が食べる様な食事をとらなくてもいいと。食べなくても生きていけるのかい?」
「そう。そもそも私の本体は無限に増える肉の塊。ただし増やすには人間種を喰う必要がある。それ以外の食事は本来私には必要が無い。食べているのは人間種に似せる言い訳の為」
「ついでに言うと、ミクはそもそも眠る必要も無いのよ。だからずっと起きてるし、警戒を続けてる。私達みたいに眠らなければいけない者では、絶対に勝てないのよね」
「………」
「あまりにも、あまりに過ぎるねえ。でも<鮮血の女王>は神の怒りだと言ってたし、それならここまでの怪物を創られるのも分からなくはない。私達だってゴミどもの所為で苦しんでる訳だしね」
「まあ、そうなんでしょうけど。それで<雪原の餓狼>。貴女はミクに何が言いたいのかしら?」
「依頼の事かい? それなら簡単さ、フィグレイオ獣王国にあるダンジョン。それを攻略してほしい。王都の近くにあるダンジョンなんだけど、まだ一度も攻略された事が無い場所さ」
「未攻略のダンジョン? それを私が攻略して、何のメリットがあるのか分からない。ここに惑星最大のダンジョンがあるのに、他に行く理由は?」
「まずメリットに関してだけど、依頼を請けてくれるなら、私が喰ってもいい人間種の情報を渡そう。もちろん私にとっても国にとっても、居なくなってくれた方が都合が良い連中だから問題無い」
「肉が喰えるというのは、確かに私にとってはメリット。それだけでも依頼を請ける意味はある、しかしそれだけじゃ私に依頼する意味は無い。それこそ暗殺組織にでも依頼すればいい事」
「そう。そこでダンジョン攻略だ。ゴールダームの第5エリアと聞いたけど、実際の実力じゃ第5エリアどころじゃないんだろ? もっと先に行ける筈。我が国のダンジョンを攻略してくれりゃあ、箔が付くよ?」
「確かに箔は付くでしょうけど、それだけミクが狙わ……むしろミクにとって望むところか。それなら私からどうこうと言う事は出来ないんだけど、ミクはどうする気?」
「私? 私は人間種の肉が喰えるなら何でもいいよ。さっきも言ったけど、神どもの命はゴミのような奴等を喰い荒らせ、だ。ゴミを喰う事は私の使命でもあるからね、それに沿うなら依頼を請けてもいい」
「なら、私からの依頼を請けてもらいたい。表向きの依頼は我が国に招いてのダンジョン攻略。裏の依頼はゴミどもの抹殺。その条件でお願いする」
「分かった、請けよう。とはいえ、いつからなのか知らないけど」
「できれば明日の朝に依頼して、そのまま国に出発したい。ギリギリになってやっと見つけたんだよ、ミクの常宿を。本当ならもっと早く交渉するつもりだったんだけど、まさかスラム近くの宿を使ってるなんて思わなかったからね」
「ミクの場合はスラム近くの宿の方が都合が良かったという事よ。スラムには多くの者が入り込んでるし、そいつらの中にはゴミが多い。まだ大して食べてないでしょうけど、こっちは情報を整理してる最中なの。ミクが帰ってくるまでに情報を精査しておくわ」
「お願い。それじゃ私は部屋に行くから、明日の朝、ギルドで待ってるよ」
「ああ、こっちも朝にギルドに行くよ」
そう言ってミクはいつもの一人部屋に戻る。男性騎士を一人喰ったが、それは<雪原の餓狼>が処理するだろう。どのみちミクを招き入れるという事は、喰い荒らす怪物を招き入れるという事である。
<雪原の餓狼>とも呼ばれる女将軍がそれに気付かぬ筈も無く、ミクに期待しているのは自国のゴミを食い荒らす事であり、自身も含めて国を綺麗にする事である。
少なくとも、その気概が無ければ女将軍として上り詰めてなどいないのだ。ある意味で強烈すぎる愛国者。それが<雪原の餓狼>である。
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部屋に戻ったミクはさっさと分体を寝かせ、本体に意識の殆どを持ってくる。そしてお楽しみのオーク皮3種を使った物作りを始めるようだ。
柔らかく作る部分には皮を、それ以外には革を、そして防具として使う部分には硬革をそれぞれ使っていく。まずはブーツを作り、皮の具合と感触を確かめつつ作る。
底は硬革でその上は革、そして足を入れる部分や、曲がり捻る部分には皮を。そうして作られたブーツは、どこかの星で軍人が履くようなブーツになっていた。もちろん細部は違うが、オーク革だからか丈夫そうである
次に作るのは鎧だが、ミクは思い切って肩鎧を無くしてしまおうと考えている。正しくは分厚いローブを作ればいいと、考え方を変えたのだ。
盗賊の服は余っており、それを解いてミクは編んでいた。全ての服を糸に解き、それを大量の触手を使い大きな1枚布へと変えていたのだ。それを3重にして縫い、フード付きのローブに仕立て上げた。
これを上から着るのであれば肩鎧は邪魔になる。そもそも肉塊は汗を掻いたりなどしないので、分厚いローブを夏の真っ盛りに着ていても問題無い。まあ、流石に怪しまれるので脱ぐだろうが。
肩鎧も骨で作ったゴミ箱に切り刻んで入れ、オークの革で剣帯を作ったら、元の剣帯と交換する。武器も新しい剣帯に差しなおし、最後に作るはバルディッシュだ。
これはカムラ帝国の小隊長であった、年をとった男が使っていたのを思い出し作る事を決めた。ハルバードでも良かったのかもしれないが、わざわざ多機能にする理由が無いと思い止めたのだ。
槍なら槍、斧なら斧として作るべきであり、多機能にすると中途半端になる。そういう思いがあってバルディッシュにしたのだ。
相変わらずだが、肉塊は剣を作る気は無いらしい。
グレートソードなどであれば十分な武器として使えるだろう。とはいえプレートアーマーを叩き切れるかといったら難しい。しかしバルディッシュであれば断ち割れるだろう。
そこの違いがあり、ミクは剣という武器に作る意義を見出せないのだった。携帯性ならば剣なのだろうが、アイテムバッグがあるのに携帯性を考える必要があるのか? という話である。
剣を作るなら剣身の非常に長い剣となるだろう。例えば長く太い首を持つドラゴン。そのドラゴンの首を切り落とすならば、剣身の長い剣は有利となる。しかし長いという事は折れやすいという事なのだ。
そういった意味でも、剣を作る気にはなれない本体。鉄を溶かして型に流し込み、冷えたら取り出して整える。柄が太く、その太い柄に相応しい分厚い斧の刃。
2メートルの柄に縦50センチの半月刃が付いたバルディッシュ。断ち割るには十分な威容であろう。本体空間で別の分体を作り振り回すものの、やはり人外パワーにとっては小枝のように軽い。
太くした柄も使いやすく、せっかくなのでウォーハンマーの方も変える事にした。更に太くした柄と、もう一回り大きくした槌頭。もはや人外パワーを隠す気も無いのだろうか? そう思える凄まじさである。
全てを終えた本体は満足し、分体の方に転送させて要らない物を戻させる。そして鉄は溶かしてインゴットにし、革などは切り刻んで燃やしてしまうのだった。




