0584・コウジ達のゴールダーム観光 その3
ゴールダームのダンジョンとはいえ、第1エリアの魔物は特に相手になるようなものではない。長閑な風景の中を歩いていくが、コウジ達は6階で息があがり始めた。残念ながら体力がそこまでついた訳ではないらしい。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ………。流石に厳しいよ、これほどの距離は。歩いているだけとはいえ、明日筋肉痛になりそうだ。まさかここまで長いなんて思ってなかった」
「浅い階層で魔物を倒して稼ぐなら良いんだけど、攻略しようと思ったら長い距離を歩かなきゃいけないんだよ。更にはボス戦の場所は閉じ込められるしね。ボス部屋から出るにはボスを倒すしかないんだよ。だって生きるか死ぬかしかないから」
「そうなのよね。ボス部屋ってそういうものだから、覚悟して進むしかないの。向こうはドレイクが出て大変かもしれないけど、こっちは第6エリアまで攻略しないとガイアへの魔法陣は使えないのよ」
「ハァッ、ハァッ、そりゃ大変だ。こんな、歩くだけで大変な道を、越えてボス戦とか……やってらんねえ」
「ほんま、やな。流石に、コレはないで……。1階層、20キロは……伊達やない、わ」
随分と息が上がっているようなので、7階への階段の途中で休憩にする。ミクは適当な飲み物を出して休憩をとらせるが、ガイア組の全員が疲れているようだ。
ミク達はそこまででもないし、3人だけなのであれば【身体強化】で走って移動するぐらいである。
「それだけでダイエットには十分だと思うけどね? 第1エリアのボス部屋まででも、多分20キロぐらいは距離がある筈。本気で痩せたいなら1日1回ボスを倒しに行くだけで済むよ。第1エリアのボスは弱いし」
「ボスはブラウンボーア10頭と大きな猪が1頭ね。ブラウンボーアは猪系の魔物の中でも最下級だから、あんた達なら適当に戦っても勝てるわよ。ボス猪もちょっと大きいだけだし、ザコよザコ」
「だからこそ歩くのがメインになるのです。とはいえ移動距離は最後まで大敵ですし、途中の階層では強烈に牙を剥きます。特に第7エリアの雪山と第8エリアの火山、そして第9エリアの断崖は……」
「有り体に言って地獄よね。第7エリアは猛吹雪の雪山で後半は氷に乗って移動、落ちれば極寒の海。第8エリアは灼熱の火山地帯、後半は火山の中みたいな感じで更に温度が上がる。しかもその中でマジックキラーを掘り出さなきゃいけない」
「第9エリアは足下の幅が狭い断崖の上を移動。魔物は飛べる者が大半で、更に【風魔法】を使って吹き飛ばそうとしてきます。落ちた事は無いですが、落ちれば即死でしょう。そんな中を進まなければいけないうえ、ボスはドラゴンです」
「「「「「「「「………」」」」」」」」
余りの過酷さに絶句するガイア組。第6エリアまでとそれ以降に差があり過ぎるとも言えるのだが、第6エリアも蜂の群れとモグラのダブルコンボなうえ、間違えると上の階に戻される非常に面倒臭い場所である。
ちゃんと段階を踏んで難易度は上がっているのだが、それでも話を聞くだけで攻略する気が失せてくる程なのだ。
「お金を稼ぎたいだけなら第5エリアまで行くと良いよ。そこに出てくるマッスルベアーとスチールディアーがエクスダート鋼の材料だから、この2頭は結構高値で売れる。最近は値下がりしたかもしれないけど、それでも十分な高値がつくよ」
「名前がアレだけど強そうな魔物だなぁ。俺達だと勝てるか分からないから、まだまだ先の話だろう。良い武器とかも持った方が良いんだろうし、そろそろドラゴン素材の武器を返さないと」
「別にそのまま持ってていいけど? ちょっと前にドンナをマルチスライムにする為にドラゴンを乱獲したから、今はドラゴン素材が余りまくってるんだよね。解体所にも持ち込めないし、適当に作って渡しても問題無いよ」
「それはそれでどうなんだろうな? 実力に相応しくない武器を持つっていうのも、何か違う気がするんだけどさ」
「そんな遠慮をしてたら死ぬよ? 生きたければ利用出来るものは利用した方がいい。そもそも良い武器を持っていても使い熟せなきゃ意味ないしね。それが本当に出来るのって話」
「それを言われると痛いな。良い武器を借りてるのに、使い熟せている気はしない。とはいえ毎日練習できる訳も無いし、そんなものなのは仕方ないのかもしれないけど」
「そろそろ休憩を終わりにして進もうか。今後の事もあるんだろうけど、話を続けててもダラダラするだけだしね」
アレッサの一言により立ち上がった面々は、階段を下りて7階へ。その後も歩いて移動していき、遂に10階へと辿り着いた。ボス部屋の前で休憩し、十分に回復したらボス部屋の中へ。
床に魔法陣が現れ、そこからブラウンボーア10頭と大きな猪が現れる。それを見たコウジが声を上げた。
「散開! 突進してくる猪を避けて攻撃だ。慶子さんだけは【怪力】で弾き返して下さい。残りはチャンスがあれば足を潰す。いくぞ!!」
「「「「「「「おお!」」」」」」」
ブラウンボーアが地面を足で掻いた後に突進してくる。コウジは【浅穴】を使うも、ボス部屋の床は弾いてきた。これに驚いたものの、突進自体は盾で受け流すことに成功。怪我をする事は無かった。
「このボス部屋の床、【浅穴】が使えない! 地面に対する魔法は使うな」
コウジがそういったからか、慌てて回避だけをするヤエやセン。どうやら【浅穴】を使う気だったらしい。サクラは避けると同時に足を切り裂き、突進ができないようにしていく。それはジロウエモンも同じだ。
タケルも挑戦したが1度目は失敗。しかし2度目には成功したので、やはりそこまで下手な訳ではない。今までは色々とあって実力が出せなかっただけなのだろう。
長柄組は短く持って攻撃し、足を切り裂こうと頑張っている。途中、ヤエに突進しかけたボス猪をコウジが体当たりで転倒させており、その足を素早くサクラが斬っていた。
それとミドリが斬られた足に引っ掛かった際にブラウンボーアに牽かれそうになり、そいつはタケルが蹴り飛ばして事なきを得ている。尚、ミドリはちゃんとお礼を言っているので、それで終わりだ。
「結局聞いていた通り大した魔物じゃなかったな。それでも数は多いと思うけど。俺達は持って帰れないから、ボスはここに置いていこう。それに多分だけど持って帰っても然したる金額にはならないだろうし」
「そうだね。第1エリアのボスだし、然したる金額にはならないよ。それでも新人なら持って帰るんだけど、コウジ達ならその必要はないか。特にお金に困ってるわけじゃないし」
そう言ってボス部屋を出ると、奥にある魔法陣で転移する。疲れた顔をしながら<妖精の洞>へと戻るガイア組を、周りにいたベテラン連中が温かい視線で見る。皆、最初はこんなものである。
それでも五体満足で帰ってこれただけマシなのだ。それすら叶わない者が新人の中には居る。それもまた知っている以上、どうしても若い連中には温かい視線を送るのだろう。もちろんそういう者が全てではない。
とはいえミクやアレッサやティアが居る以上、喧嘩を売ってくる者はいない。流石にゴールダームに常駐している探索者は、喧嘩を売ってはいけない者ぐらい理解している。
そうでなければ命が無くなる恐れすらあるのだから、自分の命を投げ捨てたりはしない。そういう事をするのは決まってゴールダームの事を知らない者達である。
「〝おい、そこの女ども。ちょっとオレ達についてこいや。そこのガキと爺はいらねえからよ!〟」
「〝またバカなゴミがいちいち絡んできたか。鬱陶しいからさっさと失せろ〟」
こういう事はある意味で避けられない事でもあるのだ。




