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0579・千芭尊のこれからについて




 「しっかし半分から3分の1ねえ……。あんた1人で取りに行けるならいいよ、でも良い物が手に入る所っていうのは魔物も強いんじゃないのかい? 人数が増えればその分だけ取り分は減るだろう。まさか全部1人行く気かい?」


 「やってやれなくはないんじゃないかと思っています。最悪は情報提供だけしか出来ないでしょうけど、出来るなら自分1人で取りに行きたい」


 「まあ、気持ちは分からなくもないけどね。沢山稼いでおいた方が将来安泰だろうし、こっちとしては千芭の家を出るっていうなら、金の管理ぐらい然したる手間でも無い。それは良いんだけど……」


 「お祖母様、何か引っ掛かる事でもあるのですか?」


 「引っ掛かるっていうか、こいつが千芭の家を出るのにも一悶着ありそうな気がするんだよ。ゲームの中ではどうだったんだい? 千芭の家を継いだのは誰だった?」


 「えっと、千芭家を継いだのは主人公でした。ですが主人公は、さっき聞いた先々代とそっくりの人物なんです。今思えばそこでエンディングだからゲームとしては良いんですが、現実だったら主人公は上手くいったんだろうかと……」


 「成る程。本来の千芭尊という人物は先々代と同じなのか。人の良さは素晴らしいんだけど、上に立つような器じゃない。それでもあの鉄面皮が選んだなら、長男の方じゃ駄目だったという事だろう。もしかしたら信用が無い事に気付いたかね?」


 「御大は先ほどもおっしゃっていましたが、千芭家はそんなに信用が無いのですか? それでも名家なのですから、そこまで酷いとは流石に……」


 「思えないって? まあ、知らなきゃそうなんだろうけど、先々代は人が良くて負債を負ったと言ったろ。その所為で千芭家は傾いたのさ。しかし今の千芭家は傾いていない。それだけ急速に家を建て直す為には相当の無茶をやる必要があるんだよ。そしてその無茶を信用を切り売りする事で成し遂げたのさ。それは諸刃の剣だと理解しているのか、それともしてないのか……」


 「諸刃の剣ですか?」


 「商売において信用というのは非常に重要だ、それが無ければ常に警戒されて上手くいかない。千芭の家は何とか経済状況が回復したが、代わりに本業で苦しんでる。何故なら信用を切り売りする事をしたからだ。その所為で千芭の名を出しても信用されなくなった。これは大きいんだよ」


 「薄い氷の上に立っているようなものですか?」


 「そうだね。今の千芭家はまさにそういう状況だ。かつては城だったのが砦になっちまったが、再び城に戻った。しかしその城は薄氷の上に立ってる極めて危険な城になっちまってる。急速に家を良くしようとしなければ、信用を切り売りしなければ分厚い氷だったのにねえ」


 「だからゲーム中の千芭家当主は危険な長男ではなく、先々代に似ているとはいえ次男の方がマシだと判断した。長男では薄氷が割れて城が沈むから……!」


 「多分そうなんだろうさ。ま、ゲームの事だから現実とは関係ないけどね。とはいえ、そういう理由なら長男じゃなく次男が継ぐのは分からなくもない。流石にあの鉄面皮も家が滅ぶのは望んでないだろうし」


 「せやけど現実では泥舟から逃げようとしとるで千芭は? そうなったら逆に捕まえとこうとせんか? なんか嫌な予感っちゅうか、碌な事せんような気がするんやけど」


 「可能性としてはあるだろうね。あの男の事だ、次男の方がマシだと気づいたら無理矢理にでも当主に据えようとするだろう。……そういやゲームの中では長男はどうなったんだい?」


 「それが………。長男が居るっていう情報は出てくるんですけど、スチルも無ければ何処かで出てくる事も無いんです。父親の方は数回だけ出てくるんですが、それだけですし……」


 「たった数回だけかいな。せやったら、よう分からんいうんが正しいんやな。それにしても主人公の割には徹底的に自分の家の事が出てこうへんみたいやし、そこはゲーム本編には要らんって事かいな?」


 「というよりストーリーに必要ないって事では? そもそも主人公の母親の話が無いのですよね」


 「主人公である千芭尊の母親なんて、テキストにすら出て来ないよ。現実に千芭尊になって、あんなクソッタレだとは思わなかった。あまりにも酷い女だよ、アレは。ジャラジャラ宝石着けてるわ、どこそこで買った物だとかばっかりで、そもそもあの女が育児をしてるところを見た事が無い」


 「ベビーシッター含めて雇えば良いとはいえ、流石に育児を全くしないっていうのはマズいと思うけど……。あら? そういえば千芭家の奥様って殆ど見た事がないような? ……記憶に無い、ですね」


 「滅多に出て来ないよ。まあ、重要なのは当主だから無理に出てこなくてもいいんだけどねえ……。そういう女じゃ出せないだろ。とはいえ歴史的にはあった事だから、何処の家もいちいち突っ込んだりしないけどさ」


 「歴史的にはあった、ですか……?」


 「当主の一目惚れで大失敗とも言える女を嫁にしたとか、最初だけでいざ家に入ったら碌でもなかったとか、そういう話なら何処の家にもあるんだよ。何せ古いから名家な訳でねえ」


 「そんな家に付き纏われる可能性が高いって事ですか? いっそ高く売れる物を手に入れて売り、お金をお祖母様に預けたら向こうの星に行ったらどうです? 向こうなら追い駆けられないでしょうし、お祖母様にお金を預けておけば大丈夫でしょう」


 「ふむ。まあ、それでも構わないけどね。確かに向こうの星に行って生きるなら、千芭の家からは確実に逃げられるだろうさ。そもそも千芭の家の人間ではあれ、千芭の家にこだわりは無いんだろ? 家が無くなるぐらいなら継ぐという気持ちがあるかい?」


 「無いです。前世のオレは一般家庭でしたし、名家っていうのはいびつすぎると思うんですよ。ウチだけかもしれませんけど、あんな家なら潰れてしまえばいいとしか思いません」


 「まあ、今の千芭の家は特筆しておかしいとは思うけどね。長子相続が基本なんだから、あの鉄面皮にはお守を頑張ってもらおうじゃないか。信用の無さは先代と今代、親子二代の責任なんだ。甘んじて受け入れるしかないだろう」


 「後は色々ダンジョンに行って高く売れる物を回収してくる事と、向こうの星の言葉を頑張って覚える事だな。俺も卒業までにはマスターしておかないと……」


 「うん? 向こうの星に行くのかい?」


 「ええ。将来は探索者になろうと思ってますし、向こうの方でも稼げそうなら頑張りたいですしね。それに向こうでは頑張ればアイテムバッグが手に入るそうですから」


 「ゴブリン500体とゴブリンリーダー4体とゴブリンキング1体ね。私達もやった事は無いけど、出来るのならアイテムバッグが手に入るそうよ。そこまで危険を冒して手に入れなきゃいけないのか、とは思うけど」


 「でもあった方が何かと良いのでは?」


 「それはそうだけど、探索者なんて基本荷車を牽くものよ? 毎日荷車屋で借りて引っ張っていき、魔物を倒して血を抜いたら載せて戻る。で、解体所で売ったらその日の仕事は終わり。あとは飲んだり騒いだりね」


 「天然の魔物を狩るのも同じよ。依頼を請けて狩りに行き、荷車に載せて戻ってくる。余程の事がなければ持って帰って売るのが基本よ。とはいえ遠い場合と安値でしか売れない場合は、その場で穴を掘って埋めて終わりね」


 「「「「「「へー……」」」」」」



 向こうの星での生き方が、少し分かったガイアの面々であった。


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