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0578・帰宅後




 ヤエを先頭にして本邸へと入り、案内されるのについていく。いつもの応接室に案内されると、そこでは執務を終えたハルカがシャルと将棋を打っていた。どうやらハルカが若干優勢らしい。


 部屋の中にはイリュとカルティクもおり、イリュは漫画を、カルティクはラノベを読んでいた。ミクが適当に置いていった物だ。


 イリュが読んでいるのは女性のパンツを仮面にする主人公の漫画で、カルティクが読んでいるのは<鋼の後継>と呼ばれる主人公の外伝本となる。



 「おかえりー。で、どうだったの? 上手くいった? まあ、ミクが居るから心配してないけどね」


 「ただいま。上手くいったけど、最後の階の魔物だけは倒せなかったよ。もちろん私達じゃなくてコウジ達や<鮮烈の色>がね」


 「そっちの若者はともかく、<鮮烈の色>が倒せないってどういう事だい? 余程の魔物でもない限りは十分に倒せるだけの実力はあるだろうに」


 「最後の階層で出てきたのはドレイクだったんだよ。ドラゴンの若いヤツ」


 「………あー、それは無理ね。おそらく武器の問題で無理でしょ。私達みたいにミクからドラゴン装備を貰ってなければ切るのは難しいわ。幾ら腕があっても武器が悪ければどうにもならないし」


 「私が最後に首を切り落として倒したけど、解体所に持って行ったら値段が付けられないってさ。だから書面を貰ってきたけど、本当に払うのかは疑問だね。公的ダンジョンだから渡すしかないけど、ズルズル伸ばすか買い叩くか。どっちかをしてくる気がする」


 「私もそう思います。【精神感知】でも汚い色が出てましたので、アレを見てから疑いしか持てません」


 「そうかい。なら下らない事をしてきたら、キッチリと落とし前をつけてもらおうかねえ。それはともかく、報告をしてもらっていいかい?」



 将棋を途中で止めて、皆の方を向くハルカ。しかし、そのハルカに対し言い難そうに話すヤエ。



 「お祖母様、冗談でもなんでもないのでお聞き下さい」


 「なんだい改まって急に。何かあったのかい?」


 「はい、荒唐無稽とおっしゃられるかもしれませんが、千芭君は転生者でした」


 「はぁ?」



 その後、千芭が口を開いて話していく。ミクとシャルだけは、ハルカが【精神看破】を使っている事に気付いていたが、敢えて何かを言う事は無かった。実際、シャルも【精神感知】と【精神看破】を使っているからだ。


 そして話し終わった後、本当だと分かったからこそ呆れていた。まさかそんな事が本当にあるとは思わない。まさに荒唐無稽な話である。



 「つまり何かい? この世界はゲームの中で、お前さんはそのゲームをしていた事があるって? そんな馬鹿な事……と言いたいんだけど、ミクが黙ってるのがねえ。ちょっと怖い」


 「私はそいつが嘘を吐いてないって分かってるからだよ。だから何も言わない。嘘を吐いてたら指摘ぐらいはするけどね。それをする必要も無いし、嘘は一切吐いてない」


 「やっぱりか。私のスキルでも嘘という判定は出てない。まさか本気で転生者なんていう者が居るとはねえ」



 その後タケルの話を詳しく聞き、ハルカは微妙な気分になる。何故ならゲームのちょっとしたイベントに、ハルカが死ぬイベントがあったからだ。とはいえ老衰と言われると分からなくはないので、何とも言えないのであろう。


 更に言えば公的ダンジョンの何処に何があるかも知っている。武具やお金になるアイテム、更には重要なアイテムまで。おそろしく網羅しているうえに、アイテムのある場所は間違っていないと思われる。



 「彼女が登場してから様々な物がズレていってるんです。そこまでは記憶にある<ダンジョン暮らし>と同じだったんですけど、どんどんとズレていってしまい……。下らない事をした所為で死にかけまして、上級ポーションの対価として洗いざらい喋りました」


 「成る程ねえ。まあ、転生者としてゲームの中の登場人物と誤解していたというか、錯覚していた訳だ。知っているゲームそっくりなら、そうも思うのかねえ」



 ハルカがそう呟くと、タケルは早速頼みを言い出した。自分は何処に何があるのかも知っている、でもそれを有効活用はできない。何故なら千芭家に取り上げられるから。だからこそ協力をお願いしたいと。



 「ほう。いったい何があるのか聞こうじゃないか。事と次第によっては協力してやらなくもない」



 タケルは鑑定の石板や万能薬、それに若返りの薬や特級ポーションの場所などを話す。それを聞いて顔色が変わるハルカ。特級ポーションなんて何処からも発見されていないうえ、どれほどの回復力を持つか分からない。



 「それで、代わりに私に何を求める?」


 「半分か3分の一を取り分として、成人した後に貰えませんか? それを元に家を出て独立してやっていきたいので」


 「成人したら独立するも自由だろうけどねえ。今だと千芭のヤツに金を取られるからかい? どうもそれだけじゃ無いような気がするんだけど?」



 タケルは千芭家の内情、特に兄の酷さと悪辣さに嫌気が差している事などを伝える。それを聞いたハルカは眉根を寄せつつ、慎重にタケルから聞き取りをしていく。その結果、冗談ではないだろう事が分かった。



 「流石に犯罪スレスレを頭が良いと思うなんてヤツは、トチ狂ってるとしか言えないねえ。千芭のヤツめ、完全に子供の教育に失敗してるじゃないか!」


 「いえ、ある意味で成功してると思います。前世は一般人でしたし、そんなオレから見ても狂ってるとしか思えません。実際あの男も似たような事をやってますし」


 「面倒な事をしてくれる。千芭だけならどうでもいいけど、こっちまで名家として痛くもない腹を探られるじゃないか。全くもって先代から進歩の無い連中だ」


 「先代から?」


 「千芭の先々代は人があまりにも良すぎる人でね。その所為で結構な負債を負ったんだよ、千芭家はさ。それを取り戻そうと躍起になったのが先代と今代だ。だけど奴等は代わりに信用を切り売りした。その負債は今後、重くし掛かってくる」


 「信用とは砂上の楼閣のような物ですしね。何とか頑張って積み上げても、崩れる時は一瞬で崩れます。今の千芭家の当主がそういう方だったとは知りませんでしたが……」


 「あいつは鉄面皮なだけさ。中身は先代や先々代を恨んでるだけの無様な男でね、己の力を過大評価しているだけの憐れなヤツなんだよ。というか、他の5名家の当主は全員その事を知ってるからねえ」


 「………」


 「あの男も自分は賢いと勘違いしたヤツなんだよ。他の奴等を心の底では見下してる。子供の頃は非常に分かりやすいヤツだったし、今もそれは変わってない。あいつは表情を隠す事を覚えたが、目を見りゃ分かるんだよ。目は口ほどに物を言うっていう言葉を知らないのかねえ」


 「こういう名家の色々っていうのは前世では全く分からなかったですけど、とてもじゃないけど自分が居られるような場所じゃないです。ですので、どうかお願いします」


 「ふむ。まあいいけど、1つ聞かせな。お前さんの前世の事を。もちろん話したくない部分は話さなくていい」



 タケルは少し悩んだが、話しても特に問題ない事だと思い直し、少しずつ話していく。そして最後に差し掛かると……。



 「中学3年の修学旅行の1つが富士山だったんですが、登っていく途中で地震が起きたのか揺れて、大きな岩が落ちてきてバスに直撃したのは覚えています。その後、浮いているような一瞬があったので、多分転落したんでしょう。気付いたら4歳の千芭尊になっていました」


 「まさか前世が中学生で止まってるとはねえ。そりゃ性欲旺盛で猿みたいな年代で死んだんじゃ、八重達に〝そういう目〟も向けるかい。ゲームのキャラクターに対する目だけじゃないのは分かってたよ。ありゃ完全に性欲だったからさ」


 「………」



 確かにそうかもしれないが、ハッキリ言われても困ると思うタケルであった。


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