0577・千代田ダンジョン その7
ドレイクに向かって走っていった面々は、その迫力に若干怯えつつも戦闘を開始する。どのみちコイツを無視して階段を探す事など出来ないのだ。全力で倒すしかない。
まずは顔の近くの正面にセティアン、コウジ、ケイコが集まって視線を固定する。適度に【水弾】を放つコウジがヘイトを稼ぎ、噛みつきにきたら横の2人がブン殴る形だ。完全にコウジが主力の盾士扱いである。
コウジ本人はセティアンにしてほしいと思っているが、セティアンはあまり魔法が得意ではなかった。その所為で視線を固定化するのが難しい。また、ケイコもそこまで戦闘をしながらの魔法は得意ではなかった。
そして【魔力操作】を持つコウジは他の2人に比べて上手かったのだ。という事で真ん中で敵の攻撃を集め、横の2人はそれをフォローする形で戦う。年上の女性に援護されつつの戦いだが、戦闘に集中しているコウジにとってはそれどころではない。
他のメンバーはダメージの与えられそうな所へ攻撃していくのだが、堅い鱗に阻まれて武器が弾かれてしまう。どうしたものかと困っていると、鬱陶しそうにしながら翼を動かして攻撃してきた。
翼で攻撃してくると思っていなかった面々は、慌てて下がった事で無事に済んだ。翼もそれなり以上に大きく、骨なども当然あるので立派な凶器だ。あれで殴りつけられるとかなり厳しい。
そうなると余計に踏み込めずに困る一行。コウジ達がある程度の相手をしてくれるからいいが、それが無ければ今ごろ蹂躙されている可能性が高い。どうしたものかと困っていると、仕方ないなと諦めたのかミク達が出てきた。
アレッサがウォーアックスを持ち、ティアが薙刀を持って側面へ。右前足と左前足を切断した直後、長巻を持ったミクが素早く首を落として終わる。右手1本で振られた長巻は、右手1本であるにも関わらずコウジ達には見えなかった。
あっと言う間につけ根から切り落とされた首を見つつ、コウジ達はドラゴンの強さを改めて思い知ったようだ。
「やっぱりドラゴンって強いなぁ。結局何も出来なかったし、ここまでとは思わなかった。それでも若い個体っていうんだから、本物のドラゴンとか考えたくもない」
「確かにね。北条君の言ってる事はよく分かるわ。そもそも全くと言っていい程こっちの攻撃は効いてないし、向こうはやりたい放題の状況だったもの。武具から見直さないとどうにもならないわね。これ解体所に売らなきゃいけないんだけど」
「それならゴールダームのダンジョンを攻略したら? 向こうならそもそも探索者の取り分だからね、幾らでも稼げるし武具の素材として使える。ただし1階層が20キロ四方だけど」
「お疲れー。相変わらず一撃でぶった切るとか、普通にやるよね、ミクは。当たり前過ぎて忘れるけど、右手1本でやるとかおかしいからね? しかも肩から先が見えないし」
「お疲れ様です。ある意味でいつも通りですから、見慣れた光景ではありますけどね。マジックキラーを刺せば彼らでも倒せたでしょうか?」
「そうかもしれないけど、あれゴールダームの第8エリアまで行かないと手に入らないし、使うなら自分達で手に入れるべきでしょ。そもそも第7エリアの雪山はともかく、第8エリアは灼熱の火山地帯だよ? 今のコウジ達じゃ耐えられないだろうね」
「あそこシャレにならない暑さだもんね。私達が氷結系の魔法をブッ放すくらいには暑いし、それが出来なきゃ熱で死ぬかも」
首から噴出する血をレティーが吸い取り、血抜きが終わったらユヅキのアイテムバッグに仕舞う。19階の魔物はドレイク1頭だったので階段を探し、発見したので下りる。
次の20階は……と思っていたら、大きくない部屋の床に魔法陣が描かれているだけだった。試しにアレッサが魔法陣の中央に行くと消える。その光景を見て迷ったが、ティアも他のメンバーも乗り、最後にミクが乗って全員が千代田ダンジョンの最奥から消えた。
転送された場所は千代田ダンジョンの入り口外であり、つまりアレは脱出の魔法陣だったらしい。何故コアが無く脱出の魔法陣だけだったのかは分からない、しかしながら脱出したのが現実である。
ジロウエモンとユヅキのアイテムバッグに入っている魔物を解体所に持って行くも、トカゲ、ワイバーン、ドレイクは値段が付けられないらしい。そうは言われても買えないとなれば持って帰る事になる。
解体所の者と散々やりとりし、更にここの所長まで出てきて話をした結果、後日改めて査定結果と金額を出すとの事。一応3匹の未知の魔物を納品した事と、査定の結果の金額を支払う事を書面で交わし、実効性のある契約書として作成した。
今まで持ち込まれた事が無い、しかも明らかに強者だと言える魔物なのだ。安値を付けると葉月家から攻撃され、高値を付けすぎると売り捌く際に問題が出る。一時ならいいが、恒常的に売り買いするなら安値にも高値にも出来ない。
「それでも早めに向こうは結果を知らせてくるでしょう。あまり遅いと持ち逃げだと思われますし、早いと間違った際が怖い。ギリギリまで粘るでしょうから、3日くらいですかね。それ以上は伸ばせないと思います」
「3日って結構早くない? そこまで早くは難しいんじゃないの? だって方々と連絡をとったりしなきゃいけないし、見てもらわなきゃ無理でしょ」
「ですが3日以上掛かると、おそらくお祖母様からクレームが行きますよ。このまま済し崩し的に無かった事にするつもりかと。それの期限が大体3日ぐらいです。そもそも本来は一定程度は支払わなければいけない筈です。そのうえで足りないなら後日追加で支払いでしょう」
「今回のはどれだけ支払わなきゃいけないか、皆目見当もつかないけどね。それでも探索者の収入的には暫定で出さなきゃいけないのよねえ。それか正式な書面を交わすか」
「書面は正式な物ではなく、その場で作成した物ですからね。最悪は突っぱねられる事でしょうけど、突っぱねられたりゴネられるなら2度と千代田ダンジョンには行かないだけよ。後は軍が何とかすればいいわ」
「そうですね。それが1番良いでしょう。私達が命を懸けて得てきた物を奪うのですから、こちらが後でどうしようともこちらの勝手です。まともな頭があるならば、きちんと対応してくるのでしょうが……」
「ちょっと信用できませんでしたね。ここの所長は胡散臭そうな感じでした」
そう言いつつも車に乗り込んで千代田魔法陣に向かう一行。大事なのはこちら側の者が、向こう側に転移できるか否かだ。そこが政府の依頼の1番重要な部分なのだ。
そしてコウジ達が千代田魔法陣の中央に進むと、コウジ達は転送されて消えた。もし転送されたらすぐに戻ってくるように言ってあるので戻ってくるだろう。そう思って待っていると、すぐに戻ってきた。
「向こうの星に行けましたけど凄いですね。初めて見る景色は驚きでしたよ。とはいえドレイクを倒さないと見れないんですよね……」
「それでも、ゴールダームのダンジョン第6エリアまでを攻略するよりはマシなんじゃない? 向こうは1階層20キロだし、ツインヘッドフレイムや透明トカゲを倒さないといけないしさ」
「結局どちらも簡単ではないという事でしょう。とりあえず1度我が家の本邸である、お祖母様の家に戻りましょう。報告せねばなりません。……色々と」
その色々にタケルの事も含まれているのは誰もがすぐに理解した。なので適当な会話をしつつ車に乗り、すぐに出発して葉月家の本邸へ。まだ後ろをつけてくる記者が居るが、ミク達は無視してそのまま戻る。
当たり前だが葉月家の本邸はデカい。敷地に入る前の門で、既に記者たちはついてこれなくなる。ミク達はそのまま敷地内を走るのを見つつ、本邸前に着いたらすぐに降りた。特にセティアンを解放する為には、すぐに下りる必要がある。
ようやく解放された一行は背伸びをして体を伸ばしつつ、皆が集まったら本邸へと入っていくのであった。




