0576・千代田ダンジョン その6
「このトカゲ思ってるよりも強いね? 倒せなくもないけど、思ってる以上に大変かな。もっと早く倒せる方法があるなら、その方法で倒すべきだと思う。ブレスが結構大変みたいだし」
「ブレスを吐いてくる魔物は大抵大変だよ。こいつだってそれなりには厄介な部類に入るし、上手く戦わないと被害が出たら生死に関わる。それぐらいにはブレス持ちって厄介だからね」
「そもそもブレス持ちが簡単に倒せるなら、誰も苦労はしないよねー。だからこそツインヘッドフレイムは厄介なんだし、あそこで散る探索者も居るんだしさ」
「まあね。何だかんだと言っても、舐めちゃいけないよ。ブレス持ちは」
「それぐらいに警戒する魔物なのね、ブレスを吐いてくる魔物は。私達としてはこれが初めてだし、私達の番でも同じように手足を潰しましょうか。それが一番安全みたいだし」
「そうね。私が前で盾を使って敵の目線を集めるから、皆は側面や後ろに回ってくれる? こっちには二郎衛門が居てくれるから、首が落とせるなら任せるわ」
「かしこまりました」
そのまま階段を探して歩いていると2匹目のトカゲを見つけた。ケイコ達のグループは即座に陣形を組むと、トカゲに近付いていく。トカゲの方もこちらに気付いていたらしく戦闘になるが、上手く敵の気を逸らして攻め、簡単に勝利した。
「やはり二郎衛門が居てくれると楽ね。1度で首を切り落とせなかったけど、致命傷を与えてくれたのだから十分過ぎるわ。これの素材で良質な武器が作れそうだけど、どうかしら?」
「出来るとは思うけど、止めた方が良いんじゃない? この先にどんな魔物が居るか分からないし、最奥まで行ってから改めて考えたら?」
「確かに早くから決めても仕方ないかもね。もっと強力な武具の素材になる魔物が居るかもしれないし、それならここのを使うだけ損かもしれない。全てを確認してからの方が良いわ」
ミクの言い分に納得した面々は先を急ぐ事にし、階段を探しながら移動する。ブレスを吐くトカゲだからか、それともそれなりの大きさだからか、この階の魔物の数はそこまで多くないようだ。
そんな中、階段を見つけた一行は18階へと下りていく。次はどんな魔物だろうという緊張感も持ちながら。
18階に辿り着いたコウジ達は、上を見て唖然としている。何故なら、とある魔物が空を飛んでいるからだ。コウジ達は初めて見るので余計に驚いたのだろう。
「あれって…………あれってどう考えてもワイバーンだよな? シャレにならないと思うんだけど、俺の気のせい?」
「そもそもワイバーンって千代田ダンジョンに出るような魔物じゃない。明らかにおかしいだろ、そもそも千代田ダンジョンって序盤で攻略するダンジョンの筈だぞ」
「こういうところもゲームと違うって事? それとも千代田魔法陣があるから、千代田ダンジョンがゲームと違ってるのかしら? 異なる星に行く為のダンジョンだもの、おそらくは」
「可能性としてはあるかもしれないけど、そもそも千芭君のゲーム知識が当てになるかは別よ。ここは現実だもの、おかしな事があるのが現実でしょう?」
「そうやね。<事実は小説より奇なり>って言うし、せやったらゲームより奇怪でもおかしないわな。あれや、現実舐めんなって感じやろな」
「それよりも、ワイバーンなんてどう戦えばいいのでしょうか? 私達では戦い方すら分かりません。本当にどうすればいいのやら……」
「落として戦えばいいじゃん。そもそも私がフィグレイオのダンジョン最奥で戦ったワイバーンに比べれば遥かに小さいよ。あれ、縦に2メートルくらいしかないじゃん。楽勝、楽勝」
「えっと、楽勝って言われても、どう戦えばいいのか分からないのですが……」
そういうサクラの言葉をスルーし、ミクは手頃な石を拾うと【身体強化】をして投げつける。それは狙いを過たずに直撃し、小さいワイバーンは墜落していく。
そもそもダンジョンボスとして出てくるワイバーンと、階層のザコとして無限に出てくるワイバーンが同じ筈はないのだ。あれはボスに相応しい個体であり、それだけの素材であったとも言える。
墜落したワイバーンはヨロヨロと起き上がろうとするが、到着したコウジ達に袋叩きにされて終了。憐れな最後を遂げた。
「とはいえ飛び上がらせたら自分達じゃ攻撃できないし、一気に倒してしまう方が正しいと思うんだけど……。飛ばれたらどうにもならない、だろう?」
「そうなんだけど、一切戸惑いとか躊躇いが無かったからね。正しいんだけど、動きは速かったと褒めてるのさ。探索者はチャンスと思ったら一気に動かないとね。そういう時に動けない奴は殺されても文句は言えないのさ」
「チャンスで動けないのは致命的だからね。それじゃ死んでも仕方ないんだよ。何故ならチャンスは一度しかないかもしれない。それでも、そのチャンスを掴まなきゃいけないのが探索者だから」
「命を懸けるというのは、そういう事なのよ。それが出来ない者は探索者を止めるか、命の危険の少ない仕事をするべきね。でないと生き残れないもの」
一応小さなワイバーンの血抜きもしつつ、神妙な面持ちで<鮮烈の色>の話を聞くコウジ達。血抜きが終わったのでジロウエモンのアイテムバッグに入れ、一行は更に先へと進んで行く。
小さいと言ってもワイバーンだからか、そこまでの数は階層に居ないようであり、一行は階段を見つけたので素早く下る。次は19階だが、20階で終わりならここがラストの階層だ。
降りた先で見たのは、何とドラゴンだった。それも若いドラゴンなので、名前的にはドレイクとなるのだろうか? それが1頭居るだけである。
「ゲームじゃ、ラスダンの港区ダンジョンにしかドラゴンは居なかったのに……。何で千代田ダンジョンにドラゴンなんかが居るんだよ……!」
「ドラゴンって言っても体は小さいし、まだ若い固体だね。ドラゴンと言うよりドレイクと言った方がいいかな? さて、私達も駄目なら手助けしてあげるけど、あれ1頭しかいない。全員で戦って倒そうか?」
そう言ったミクの顔を見て愕然としている他のメンバー。<鮮烈の色>やリュウレンまで愕然としているが、そんなに驚くほどの事かと首を傾げるミク。若い固体という事は、そこまで苦戦しない筈である。
「それはそうかもしれないけど、それでもドラゴンよ?」
「文句言ってる暇なんて無い筈なんだけどね? 相手はこっちを既に捕捉してるしさ。そろそろブレスを撃ってくるんじゃない?」
そうミクが言ったのと同時くらいにドラゴンはその首を動かし、口を開いてブレスを吐いてきた。トカゲとは比べ物にならないそのブレスは大きく、コウジが前に出て全力で上へと流す。
「何だあのブレス!? 1メートルとは言わないけど、間違いなく70~80センチはあったぞ! 幾らなんでも大き過ぎるだろ!!」
「若い固体といえども、それがドラゴン系だよ。そーら、頑張れ、頑張れ。全力を出さないと死ぬよ?」
その一言により、一気に走るミク以外。ミクが力を貸さないという事は、自力でどうにかしなければいけないのだ。慌ててドレイクに突っ込んでいくものの、アレッサとティアはミクと一緒に居る。
彼女達は第9エリアのグリーンドラゴンを倒している為、ミクが【念話】で話しておいたのだ。他のメンバーに倒させろと。彼女達もそうするべきだと思ったので戦闘には参加していない。
それでも3人が後ろに控えているので倒せはするだろう。後は大怪我が無いように気をつけてやるだけだ。




