0052・第5エリア
既に第4エリアの攻略は終わったので、カルティクは午後から第3エリアへと行くらしい。いつものお仕事だが、今日は休んだ方が良いのではないかとミクは聞く。
「いつもと違うから自分の疲れを認識していない可能性はある。ハッキリ言うと疲れてるよ? でもそれを認識できてないのは、ツインヘッドフレイムの時の緊張が抜けてないから。部屋に戻って休んでごらん。緊張が抜けたら一気に疲労がくるよ」
「………分かった。ミクがそう言うくらいだから、たぶん本当に認識できてないんでしょうね。流石にこういう時が危険なのは分かってるから、大人しく部屋で休ませてもらうわ」
「あれ? なになに? カルティクが神妙な顔をしてるね」
ちょうどイリュが来たので説明すると、第4エリアを攻略してきた事に呆れていた。しかし、カルティクが疲労を認識していないという話になると、すぐに理解して見張っておくと言い出す。
「この子は昔から頑張りすぎるところがあるから、無理矢理に休ませるくらいで丁度良いの。そうでなければ頑張り過ぎてしまうのよ。いつもの仕事だって午前だけとか午後だけにすれば良いんだけど、両方どころか徹夜もするのよねー」
「………」
「心配をかけたくないなら、もう少し大人しくしてくれると助かるんだけど……」
「今日は! 今日はちゃんと休むから、お説教は勘弁してくれない? ……なにか本当に疲れてきたから部屋に戻るわ」
「ちゃんと休むか分からないから、私が部屋まで連れて行くわね」
「私、子供じゃないんだけど?」
「だったら、手間をかけさせるのは止めなさい」
「………」
イリュがカルティクを連れて行くのを見送り、ミクはダンジョンへと出発する。当然行くのは第5エリアだ。ここから先は地図が公表されていないので、ミクは1階ずつ攻略していく必要がある。
それでも楽しそうにしているのは、ようやく未知の場所に挑戦できるからだろうか? ダンジョン前のショートカット魔法陣。その魔法陣の中でも、殆ど誰も近寄らない第5エリアへの魔法陣に乗る。
着いた先は山の中。そこにポツンと開けた場所があり、そこが入り口となっていた。前を見れば登りの斜面、後ろを見れば下りの斜面。30度くらいだろうか? 思っているよりも角度が深いように思う。
(この地形じゃ、荷車は左右に進む場合にしか役に立たないね。これが第5エリアの素材が少ない理由かぁ……。実際にここに来ると納得は出来る。私のような本体空間か、アイテムバッグでもないと持って帰るのは難しい)
ミクはとりあえず現在地を360度見回して記憶し、まずは右へと進む事にした。この場合は登りの斜面を前と考えての右である。東と呼称しても良かったのだが、ぐるっと一周回ってくる可能性もあったので右としたようだ。
とりあえず登りの斜面を左に見ながら歩いて行くと、早速魔物を発見した。それは武具屋にあった高級品のスケイルアーマーに使われていた素材の元であり、名前はアイアンアント。その名の通り、鉄のような硬い甲殻を持つ蟻である。
(とりあえずウォーハンマーで殴ってみようかな? 駄目なら近付いて無理矢理に頭を捻じ切ればいいね。甲殻だけ持って帰れば、どうやって倒したかなんて分からないでしょ。聞かれたら素直に答えればいいし)
どうやら聞かれたら本気で捻じ切ったと言うつもりらしい。どれ程に考えなしなのかと言いたくなるが、肉塊にとっては簡単に捻じ切れるので仕方ないのであろう。
いつも通りウォーハンマーを振り下ろし、ドゴォン!! という音がすると、アイアンアントの甲殻は潰れていた。ただしウォーハンマーの円錐部分が少し歪んでいたので、予想以上の耐久力はあったようである。
(まさかウォーハンマーが先とはいえ歪むとは思わなかったよ。本体で慌てて作り直しているけど、これはちょっと考えた方が良いね。証拠としてこれは置いておこう。さて、代わりに槍で戦うかな?)
ミクはウィリウム鋼の槍を取り出して2~3度振ると、カイトシールドを仕舞って出発する。アイアンアントの甲殻は潰れてしまったので売り物にはならない、更には血も無いので死体は放置した。
そのまま右へと進んで行くと、今度は少し下からアイアンアントが2匹来た。ミクにとっては敵ではなく、首の付け根の部分に槍を刺し込み、捻じって引き抜く。後は隙を見て頭を蹴り飛ばせば、簡単に頭が飛んでいく。
ミクの人外パワーであれば蹴りだけでも勝てるのだが、その際にどう飛んでいくのか分からないのと、この方法なら人間種でも出来るのでやっている。実際、【身体強化】が使えれば、そこまで難しくはない方法だ。
アイアンアント2匹を倒したミクは、売れる部位である背中の大きい甲殻を引っぺがし、さっさとアイテムバッグに入れたら立ち去る。
再び右へと進んで行くと、今度はオークが出てきた。どうやら第5エリアでもオークは出てくるらしい。
ちなみにオークは素材として売れる。売れるのは肉と皮だが、皮がそれなりの値段で売れるのは強靭だからだ。
それなりの品質のマントの素材であったり、ブーツや革鎧の素材として使われている。そんなオークの死体を見つつ、せっかくなのでミクもオークの皮を素材に色々作ってみる事に決めたらしい。
とりあえずオークを倒して素材として売り、その後に店でオーク皮を買うようだ。
(私は皮をなめす方法とか知らないし、無理に本体空間でする気にもならないしね。何か色々と必要みたいだし時間も掛かる。いつかやるかもしれないけど、今じゃない)
今ではないらしいが、いつかはやるようである。それがいつになるかは誰にも分からないが。
とにかくオークの喉を穿ち、蹴り飛ばし、石突で腹を切り裂く。このウィリウム鋼の槍の石突はナイフ型にしてあるので、十分な切れ味は持っている。短いものの突き刺すも切り裂くも可能だ。
穂先と違い刺突に限定していないので、上手く使えば色々出来るようにしてある。もちろん意図的にこうしてあるのだが、元々の槍の穂先が細長い両刃のタイプだったので、隠す意味でもこうした。
その石突と穂先を使い分ける姿は、1種、踊っているようにも見える。そんな舞もすぐに終わり、オークはあっさりと死体になり果てた。
ミクはオークの死体の血抜きをレティーに任せ、終わったらアイテムバッグに収納する。
再び進み始めると、ウォーハンマーが本体空間で出来上がったので転送し、ウィリウム鋼の槍をウエストポーチ型のアイテムバッグに仕舞う。今回の物は前回の物より一回り槌頭が大きい物となっている。
ミクにとっては大した重さではないので気にせず、カイトシールドを取り出して進んで行く。再びアイアンアントが出てきたが、ウォーハンマーを首に叩きつけると、ドゴォン!! という音と共に首が千切れ飛ぶ。
どうやらこの方法が、アイアンアントの倒し方としては正しいようである。ミクはそう解釈した。
(一撃で終わるならそれに越した事は無い。槍なら蹴りも含めて2回だけど、ウォーハンマーなら一撃で終わる。前の物より大きいけど、私にとっては大した重さじゃないね)
【身体強化】を使っている時ならともかく、通常時に振り回せるようには見えない。実際に振り回せば認めるだろうと思っているようだが、【身体強化】も無しに振り回す事がそもそもおかしいのだ。
怪物は怪物であり、肉塊は肉塊だと分かる話であるが、本格的に怪しまれたらどうするつもりであろうか……。
神はバレても構わないと言っていたが、本当に大丈夫かは定かではない。




