0049・ツインヘッドフレイム戦
休憩も終了し、そろそろボス部屋に入ろうと思うミクだったがカルティクに止められる。
「ちょっといい、ミク? できれば、なんだけど……普通に戦ってボスを倒すって出来る? ミクが普通に食べて終わらせたら、咄嗟の時に言い訳できないと思ってね。少しの苦労で倒せるなら、そっちの方が良いんじゃないかと思うのよ」
「問題はないけど……カルティクは自分の身を守れるの? そこが問題ないなら私は何でもいいよ」
「………な、何とか頑張ってみる。とりあえず逃げ回る事になるだろうけど、それでも時間は稼いで見せるわ。後、私も戦ってる事にしたいから、魔法は使わせてもらうわね」
「あれ? カルティクって魔法使えたの?」
「流石に魔法ぐらい使えるし、こう見えて一通りの属性は使えるのよ? 強力なものは無理だけど、それなりの魔法までは使えるわ。だからこそ今まで生き残ってこれてるんだし」
「そうなんだね。まあ、魔法を適当に撃ちつつ、私が倒して行くって形が一番良いかな? 【身体強化】の事も知られてるし、それなら私が前衛で何ら不思議でもないしね」
「そうなの? まあ、了解。流石に全く役に立ちませんでしたじゃ話にならないし、真偽官への対策でもあるのよ。こんな事でギルドが真偽官を呼んだりしないけど、貴族関係が絡んでくると、どうなるか分からないから」
「ああ、そっちね。それで一緒に戦うって言い出したんだ」
「私もギルドに潜り込んでる身だからね。言い訳できないっていうか、私のしている事がバレるような事にはなりたくないのよ。最悪の事態になったら、ミクの本体空間に逃がしてもらおうかなー、とは思ってるけど」
「それは別に良いんだけど、生活を長く続けるのは難しい……のかな? よく考えれば、あの空間でも人間種が暮らしていく事は可能だと思う。たまに神どもが来るけど」
「………うん。出来得る限り、お世話にならない事にしておくわ。神様が来るなんていう、怖すぎる空間に居たくないし」
「別に怖くはないけどね? あいつらその辺りも自在にコントロールするからさ。もし怖いって思ったのなら、最初から怖がらせようとしてるって事だよ。神どもはこっちの精神なんて好き勝手にするから」
「ああ、うん……そうなんだ………」
神々が云々と聞かされても、普通の者は困るしどうしていいか分からないものである。この辺り、とっくに諦めているミクと、そもそも理解できないカルティクには大きな溝がある。
とはいえ、溝があったからなんなんだ? という話ではあるのだが……。
カルティクも気を取り直し、ボス部屋に入っていくミクの後ろをついていく。中に入ると大きな魔法陣が地面に出現。そこからツインヘッドフレイム5頭が出現した。
ミクは既にウォーハンマーと盾を構えており、万全の戦闘態勢をとっている。カルティクはいつも通り大きなナイフを両手に持ち、構えながらも緊張で手が震えているようだ。
右手は逆手で左手は順手。その姿で大きなナイフを構えているカルティクは、ミクが無造作に前に歩いている事に驚きを禁じえなかった。
一方そのミクは構えもせずに無造作に前に歩きつつ、隙無く敵を窺っている。当たり前だが無造作に歩いているように見えるだけで、一切の隙など存在していない。
その事はツインヘッドフレイムも分かっているのか、5頭も簡単にはミクを攻めない。そんな奇妙な状況を見て、カルティクは自分がどうしていいのか混乱していた。
(いや、待って。何故ミクが無造作に歩いているのか分からないけど、何故ツインヘッドフレイムも攻撃しないの? なんで両者とも静かなのよ。でもミクがそろそろ攻撃の届く範囲に……!?)
ミクのウォーハンマーが届く範囲に入る。そう思った瞬間、1頭のツインヘッドフレイムがミクに噛みつきに行き、その瞬間に片方の頭を潰された。
僅か一瞬、その場の誰も反応できない速さで振り下ろされたウォーハンマーは、当たり前のようにツインヘッドフレイムの片方の頭を潰す。それは熟れた果物のように潰され、原型を止めない程にグチャグチャだ。
誰が一撃で弾け飛ぶと思ったであろうか? ミクがウォーハンマーを振り下ろし、ドゴォン!!! という音が響き潰れた後、ボス部屋の中は静寂に包まれている。誰も一言も発さない。
だがそんな状況で敵を待つ事も手を止める事も無いミクは、追撃でもう片方の頭も潰す。再び熟れた果物が潰れるが如く、残った頭も弾け飛ぶツインヘッドフレイム。これで残り4頭。
事ここに至って、ようやく彼らは目の前の美女が怪物だと認識した。自分達が食う食料などではなく、自分達を簡単に殺し得る怪物だと、自分達が食われる程の者だと分かったのだ。
ミクの左から迫ってくるツインヘッドフレイムは噛みつきにきたものの、ミクは冷静に盾でシールドバッシュ。弾き飛ばす。まさかの表情をしながら飛ばされるツインヘッドフレイム。
ボスの体高はおよそ1.5メートル、胴の長さは2メートルほど。そこに大型犬よりも大きい顔が2つ付いている。それがツインヘッドフレイムという狼の魔物である。
それが身長185センチの美女に盾で体当たりをされたとはいえ、弾き飛ばされるなど想像の埒外であったのだろう。心の底から驚いた表情をしている。
ところが、このくらいならばミクの【身体強化】で十分に可能な事だ。陽炎の方で可能なのだから、【身体強化】というのも凄い技術である。もちろん、あれ程に濃密な【身体強化】でなければ飛んだりなどしないのだが。
ミクの右からツインヘッドフレイムが迫っていたものの、弾き飛ばされたのを見て横に逸れようとする。しかしその行動は怪物にとって遅い。
逸れようとする方向を先読みし、その胴体に向けてウォーハンマーを振り抜く。ドゴォン!! という音がすると、ツインヘッドフレイムは飛ばされ、ボス部屋の壁に叩きつけられた。これで残り3頭。
それを見た別の1頭が慌ててミクに接近し噛みつこうとするも、そこにカルティクの【水弾】が直撃。大したダメージではないものの、驚いて動きが止まるツインヘッドフレイム。
その瞬間、頭の上に振り下ろされるウォーハンマー。片方の頭は潰されたが、その隙を狙って別の1頭がブレスを吐く。しかしこれはミクがカイトーシールドで防ぐ。
弱い火炎放射器のようなブレスを防いでいると、カルティクが【水槍】の魔法を発射し、ブレスを吐いているツインヘッドフレイムの口の中に直撃させた。流石にコレは効いたらしく、ブレスが止まる。
その隙にミクは、片方の頭を潰した奴の、残りの頭もウォーハンマーで潰してしまう。これで残るはブレスを吐いてきた個体と、最初から様子見をしていた固体のみだ。
ミクとしては様子見をしていた個体が一番気になっている。何故なら攻める事も守る事もしないからだ。
(アイツ、まるで味方を捨て駒にして私を探ってるみたいなんだよね。私に隙なんて無いんだけど、いったいどうするつもりなんだか)
ブレスを吐いてきた個体も口の中の痛みが薄れたのか、こちらに対して唸り始めた。とはいえ既に2対2。ボスが有利な状況は既に過ぎてしまい、こちらと同数しかいない。
この状況にボスがどうするのかは知らないが、ミクは軽く構えて敵の出方を待つ。いちいちこちらから動いてやる義理は無いし、攻撃の瞬間とは一番隙をさらす瞬間でもある。
怪物の速度なら余裕で間に合うので、後の先で十分勝てるのだ。だからこそ相手が動くのを待っている。ハッキリと言えば強者の余裕である。




