0048・第4エリア・ボス戦前
「オルハウル侯爵家は少なくとも伝統とか柵の所為で、正しくあらねばならない家なの。良い意味でも悪い意味でもね。元々ダンジョン国家だけど、その前身となるのはダンジョン発見者と攻略チームよ」
「ダンジョンを発見した者が王で、攻略チームが貴族?」
「元々はね。今は国家になってから長いけど、元々の始まりは発見者と攻略チームなわけ。そして、オルハウル侯爵家は攻略チームのリーダーだった家なのよ。だからおかしな事をする訳にはいかない家柄なの」
「もしかして、ゴールダームという国にとっては最古参の家がオルハウル家?」
「そう。他にもエスペラルダ家やアストラード家に、ロントバール家があるわ。それ以外の家は時の中に埋もれて潰えた筈。元の攻略チームは全員で22名いた筈で、うち17家が貴族家になったんだったと思う」
「どうして5人は貴族になれなかったの?」
「なれなかったんじゃなくて、単に結婚したりで自分の家を立てる必要がなかっただけよ。その17家も今や4家しか残ってない。権力闘争や暗殺に御家断絶。それでも残ってるって事は、その家は優秀なんでしょうね」
「まあ、生き残るのは重要だからね。何で私に突っ掛かってくるかな? と思うよ。私に突っ掛かってこなきゃ死ななくて済んだのに」
そう言っているミクの前には、頭を潰されたオークが大地に沈んでいる。ウォーハンマーの一撃で容赦なく頭を潰されたオークは即死だった。それを見て呆れるカルティク。
「本来オークって筋肉の塊だし、その前には脂肪があるしで強いのよ? 耐久力が高いしスタミナもある、更には筋力が強いから殴られただけでも相当の威力。ハッキリ言って、普通の探索者なら人数を掛けて倒す相手なの」
「それを言われてもね? 私なら一撃で潰せるし、その程度の強さでしかない。正直この程度なら幾ら出てきても解放の必要すら無いね。最悪は左手を槍に変えれば皆殺しに出来る。たとえ100単位で出てきても」
「まあ、ミクなら当然そうでしょうよ」
オークの死体も放置して先へと進む。第4エリアは東西南北に階段があり。そして中央を経て、再び東西南北に階段がある。結構な距離を進まないといけないが、階段の位置自体は非常に簡単である。
そんな面倒な距離を進んでいると、4階に来ていた。3階には僅かに居たが、4階には人間種の気配が全くしない。ここからは完全に間引かれていない中を進まなくてはいけないのだが、ミクは面倒というより、むしろ楽になったと喜んでいる。
ミクはカルティクを止めて、お姫様抱っこをすると、一気に走って進み始めた。
「いや、速い速い! ちょっとミク、思っていた以上に速いんだけど!? こんな速度で進む気!?」
「これでも速さは抑えてるよ。カルティクの足に合わせてゆっくり進んでもしょうがないでしょ。誰も見てないなら一気に進むのは当たり前の話。いちいちゆっくり進む理由が無い」
「それはそうでしょうけど! 本当に速い! 速すぎるーーーー!!!」
ドップラー効果を生み出しつつ、ミクは爆走していく。正直にいってダラダラと歩く必要もなければ。無駄に体力を使っても仕方がない。色々な意味で、時間を掛ける価値が無いのだ。
一気に10階まで下りてボス部屋前、いまはぐったりしているカルティクの休憩中である。ミクは休憩をする必要も無いので、本体から色々と転送して並べていく。
盗賊団の拠点で色々な食べ物も見つけたので、それの試食をしていくようだ。
「これがラクダの干し肉で、こっちが雪ウサギの干し肉。意外と言ったら何だけど、ラクダの干し肉って美味しいねえ」
「確かにそうね。無駄に騒いで疲れた体には美味しいわ。慣れるまで時間が掛かったけど、あんな速さなんて体験した事ないんだから、少しは手加減してほしいわね。今さら言っても仕方ないけど」
「そこまで速さに弱いとは思ってなかったんだよ。ただ速いだけなのに、あんなに叫ぶなんてさ。おかげで気付いた魔物以上に速く走る羽目になったよ」
「それに関しては本当にゴメン、流石にあれは私が悪いわ。それでも怖くて声が止められなかったけどね」
よほど怖かったのか結構しつこく話に搦めてくるので、ミクはスルーしつつ色々な物を食べていく。流石に少し落ち着いたのか、カルティクも食欲は出てきたらしく、ミクに貰って食べていた。
「この山羊のチーズ美味しい。何処の国の物かは知らないけど、これは当たりね。大麦のパンと食べると美味しいけど、保存食としては高価な物なのよ、チーズは」
「盗賊が持っていたのは何処かの商隊を襲ったからかもね。可能性としては、襲うよりも仕入れた可能性の方が高そうだけど。カムラかエルフィンでしょ、出所は」
「ドルム以外は山羊を飼っているだろうから、何処かは分からないわ。でも大規模に飼っているならジャンダルコは除外できる。あそこは大量の山羊が飼える程の牧草地が無いし」
「フィグレイオは寒い地方だから、牧草の無い期間は長い。少数なら飼われてるだろうけど、大規模に飼える場所は多くない。となるとカムラかエルフィンしかない」
「まあ、それで間違いないとは私も思う。美味しければ何でも良いけどね。それより、食事を終えたら休憩してボス戦でしょ? どういう作戦でいくの?」
「どういう作戦も何も、出てきたら私が喰らって終わり。後は言い訳用に色々考えおくぐらいかな? 私の【身体強化】は強力らしいから、カルティクが物を投げながら撹乱、その隙に私が潰して回ったって感じでいいでしょ」
「まあ、それで良いんじゃない? どうやって倒したとかは聞かれないと思うわ。聞かれるとしたら第5エリアを突破したらでしょうね。前人未到の快挙となる以上、第5エリア突破は必ず聞かれるわ」
「何だか面倒臭いと思うけども、第5エリアを突破出来ないって何でだろうね? それほどに強い魔物が居るのか、それとも地形が厄介なのか」
「第5エリアは山だと言われてるわね。起伏が激しく森というか木々だらけ。更には熊の魔物だったり、木々の隙間から梟の魔物が奇襲してきたりして大変だって聞いた事がある」
「熊や梟ねえ……。そこまで厄介だったり強そうには思えないし、人数を掛ければ攻略できそうなのに、ボス部屋にまで辿り着いてない。何だか不思議な感じがするけど、もしかして階段が見つけられてない?」
「さあ? もしかしたらボスまで行ったチームもあるのかもしれないけど、ボス部屋は死んだら終わりだからね。そこを越えられていないのは確定してる」
「ああ、成る程。別に46階が最高と言う訳じゃないか。あくまでも生きて帰ってこれたのが46階なだけで。もしかして黙っていれば……いや、駄目か。ショートカット魔法陣でバレる」
「そうね。だから黙って攻略し続けるのは無理よ。それに素材を売るにも何処の魔物か聞かれるから駄目ね」
「しょうがない。騒がれるのは面倒だけど、手を出される為には有名になるしかないし。諦めて策を考えようっと」
「奴隷を買うのも手かしらね。戦闘奴隷を買えば攻略の言い訳は立つわよ。そうす……いや、駄目ね。真偽官が出張ってきたら、鬱陶しい事になるわ。ミクなら問題無いでしょうけど、奴隷として買った者達が聞かれたら答えざるを得ないでしょうし」
「まあ、第5エリアでも十分騒ぎにはなるかな?」
「それは確実でしょうね。そもそも、ここのボスを2人で突破する事が初めての出来事でしょうし。初めての突破者は20人以上連れて入って、8人が死んだって言われてた筈」
「それは流石に死にすぎじゃない? 高々火を吐くだけの狼でしょ?」
「頭が2つで噛み付いてもくるわよ」
そういえばそうだったと、今さらながらに納得するミクであった。




