0496・軍人への魔法指導 その10
トイレが終わったミク達はさっさと1階へと戻り、ビッグラビット相手に魔法と戦闘の練習をする。戦闘の練習は軍人が持っている戦闘用ナイフで行っているが、あまり上手くは行っていない。戦闘用ナイフなど役に立たないからだ。
「人間種相手なら役に立っても、魔物相手じゃ大して役にも立ちはしないよ。鋼鉄で出来たポールアックスでも、ギリギリでワイバーンが倒せるくらいだね。私が昔やったけど、それでも1戦でひしゃげて駄目になったし」
「それでもワイバーンが倒せるなら十分なんじゃないの? たとえギリギリでもさ」
「私が鋼鉄のポールアックスを使ってギリギリなんだけど? 元の星でも私以上なんてそうそう居ないよ。調子に乗ってた【剣神の導き】持ちだってあっさり殺したんだけどね?」
「【剣神の導き】?」
「特殊なスキルというのは幾つかあってね、その一つに神の関わるスキルというものがあるんだよ。その一つが【剣神の導き】。簡単に身体強化が掛かり、剣の扱いが上手くなるという特殊なスキル。それを使って調子に乗ってたけどブッ殺してやったよ」
「えーっと、元の星の事ですから殺人に関してどうこうとは言いませんが、何故殺す事になったので?」
「そいつはグランセンド連合国の4神将と呼ばれてた一人でね、潜入任務で闇ギルド<強欲の腕>に居たんだよ。内側から乗っ取るつもりだったらしいけど、私には知った事じゃないからね。<強欲の腕>と共に潰してやったんだ。自分は絶対に勝てるとか思ってたみたいだけどさ、スキルに使われて驕ってるヤツなんて私の敵にはなれないよ」
「スキルに使われる……ですか。良いスキルを持った者ほど、そうなりそうですな。とはいえ腐るか向上心を持つかは本人次第です。ですが良いスキルを持つ以上、驕る者は多そうですな」
「だからスキル持ちをバカにするような風潮があったんだけどね。努力で手に入らないスキルは尚の事その傾向が強かった。持っているというだけで驕るヤツも居るからさ。でも最後は本人次第なんだよ。努力して使い熟そうとしているヤツは馬鹿にされたりなんてしないし」
「だからこそ、余計に努力してないヤツがバカにされるんだろう。俺も【魔力操作】だけど、だからと言ってそこまで魔法が上手く使えるわけじゃないからなぁ」
「それはそうだろうね。だって【魔法操作】じゃなくて【魔力操作】じゃない。魔力を操作する事を補助するスキルだから、魔法が上手くなるのとは別でしょ。ただし魔力の関わるところはスキルの効果範囲だろうけどね」
「では魔力の関わるところというのは、主にどういうところなのでしょう?」
「魔力を循環する、魔力を練る、魔力を纏う、魔力を通す、魔力を放出する。これらが代表的なところじゃない? 魔力循環は既に教えてるけど、魔力を練るのはまだだね。これは魔力を体の中で一時的に増やす方法だよ」
「一時的に増やす?」
「そう。魔素を取り込んで魔力に変えると説明したでしょ。それを強制的に行うんだよ。そもそも人間種の体には魔力の入るスペースが残ってる。100%だと思っていても、120%ぐらいまでは無理矢理に入れられるんだよ。だから無理矢理に魔力総量を上げる事を、魔力を練ると言うわけ」
「それって何か意味があるの? 無理したところで得は無さそうだけど」
「魔力を練る技を習得すれば、強引にだけど魔力を回復できる。元々は自分の体に任せるしかなかった魔力の回復を、強引に手動で出来るようになるんだよ。ただし、強引に回復するといっても安全な場所でしか出来ないけどね。それでも安全を確保して貰えば魔力を練る事はできるよ」
「「「「「「おぉーっ!」」」」」」
「使ったらそれで終わり、回復まで待たなければいけないと思っていました。まさか手動で回復する方法があったとは……」
「100%の魔力を使いたい場合も魔力を練ってから使うんだよ。100%の魔力を使って魔法を使ったとしても、120%だった以上は20%残るでしょ? となると魔力枯渇は起こさない」
「そういう使い方もですか……益々【魔力操作】で良かったと思います。魔力関係のスキル持ちの大半が【魔力操作】スキルですからね。極稀に【魔力感知】スキルや【魔力隠蔽】スキルなどを持つそうですが……」
「魔力を感知して襲ってくる魔物も居るし、魔力を感知すれば魔物の居場所も分かるからね。そういう意味でも使いやすいスキルだと思うよ。私は気配、魔力、精神ともう1つ、実は生命力も感知してるけどね」
「生命力?」
「そう、生き物が生きている限り必ず持っているもの。とはいえ、これも【生命力隠蔽】スキルを持っていたら隠されるけどね。だからこそ4つを感知して確実に敵を発見しようとしているの。本気で隠れるヤツとか居るから、こちらも本気で探す場合はこれぐらいしなきゃね」
「本気すぎると思いますけどね。ところで魔力を纏うとは何でしょう?」
「それは分かりやすく言うと、魔力で自分の皮膚などを強化する事だよ。魔物の素材で出来た武具を強化するように、自分の体だって強化できる。ただし人間の体はそこまで強化率は高くないんだけどね。それぞれの種族によって強化率などは違うからさ。人間は平均的かな?」
「そうなの?」
「そう。例えば魔力での強化で一番強化されるのは獣人だよ。で、エルフは平均的ではあるけど、指の強化率が大きいかな? ドワーフは骨が強化されやすい。そういう風にそれぞれの種族によって違うんだよ」
「「「「「「へー……」」」」」」
「【身体強化】も違うね。獣人は下半身の強化率が高く、エルフは目の強化率が高い、ドワーフは腕の力の強化率が高いんだ。そもそも人間って種族としては弱い部類に入るからね? 寿命も一番短いし」
「えっ? そうなの?」
「そう。ちなみに寿命の長さと子供の出来やすさは反比例する。長寿の種族ほど子供が出来難い。それに関しては事実だから、人間は弱い種族でも絶滅してないね」
「あー、そっち系かー……」
「どうやらそろそろ限界そうだ。山崎中尉! そこで止め!」
「む? ……まだ出来るが?」
「他の5人はいいけど、山崎中尉は駄目。確か車を運転してきたのは山崎中尉でしょ? 既に魔力が枯渇に近い。枯渇した事が無いから分からないだろうけど、もうギリギリ。それ以上使うと帰りの車が運転できない」
「成る程、それはマズいな。すまない助かっ……早速か」
河越少尉が突然地面に座り込み、青い顔をしながら口に手を当てている。猛烈に気分が悪いらしい。そしてその後、西島少尉、後藤少尉、仁藤曹長、横川伍長も撃沈した。山崎中尉は檄を飛ばし、何とか外まで歩かせる。
「「「「「うぶっ……」」」」」
「頼むから基地に戻るまで吐くな。どこで吐いても掃除が大変なんだ、頼むからオレにやらせるな」
「袋使う? スーパーとかコンビニのだけど」
「すまない、助かる! おい、袋を貰ったから、吐くなら袋の中にしろ! 決して外に漏らすな! 分かったな!!」
吐き気に襲われていないのは山崎中尉だけなので、何かあると山崎中尉が掃除をするしかなくなる。なので必死なのは分かるのだが、5人は青い顔で碌に聞いていない。それ程までに気分が悪いのだろう。
結局ダンジョンを出た後、気分の悪い5人を連れてさっさと帰っていった山崎中尉。ミク達もさっさと帰るのだった。ちなみにダンジョンを出る前に配信は終えている。




