0495・軍人への魔法指導 その9
「脳の大きさに比例するとか言われますよね? 知能って。セリオの大きさって実際にはもっと大きいんですよ。どれぐらいかって言うと、体高が4メートルくらいです」
「は? ……4メートル?」
「ええ。実際俺達は見た事も乗った事もあるので、セリオの本当の大きさを知ってるんですよ。体高4メートルのサイが恐ろしい速度でぶつかっていくのも見ましたし、実際に魔物がグチャグチャになったのも見てます」
「「「「「「………」」」」」」
「ドラゴンライノという種族を軽く見ていたのでしょう。元々は違うとはいえ、今はドラゴンという名が付いているのですけどね? ドラゴンと名が付く者がそんな甘い筈が無いでしょう」
「セリオは硬くて柔らかいっていう不思議な皮膚をしてるんだけど、当然魔物だから魔力を流して強化できるんだよ。その皮膚で【身体強化】をした体当たりをするわけ。いきなり時速100キロとかいうレベルでぶつかってくるんだよ、体高4メートルのドラゴンライノが」
「実際に見た事があれば分かるのですが、いきなり0から100キロに加速するのです。あれは見た者にしか分かりませんが、心底味方で良かったと思えますから」
「魔物である以上、同じような魔物が現れる可能性があるという事では?」
「もちろんその可能性はあるけど、実際にはかなり低いね。何故なら元々はワイズライノだ。そしてワイズライノは体高2メートル程だよ、4メートルも無い。体高4メートルになったのはドラゴンライノになってからなんだ」
「ですから、ドラゴンラ「無い無い」イノに……」
「ドラゴンライノになったのは、ゴールダームのダンジョン第9エリアのボスを周回したからだよ。そこのボスがドラゴンでね、ドラゴン素材欲しさに何度も何度も周回したんだ。で、その時にセリオはドラゴン肉を大量に食べてる。その結果の進化と言っていい」
「ドラゴンの肉を大量に食べたから……」
「普通のワイズライノがどう頑張ったところで、ドラゴンに勝つのは不可能だよ。勝てるなんて事はありえない。最初にブレスを吐かれて、それだけで死亡する。実際に私が戦えたのもマジックキラーがあったからだしね」
「「「「「「マジックキラー?」」」」」」
「それ私達も聞いた事が無いんだけど? 鑑定の石板で遊んでた時にも言わなかったって事は、秘匿しておきたい物なんじゃないの?」
「別に? 単に興味が無かっただけだよ。どういう物かは知ってるんだしね。一応、鑑定しておこうか?」
ミクがそう言うと、センもヤエも鑑定の石版を使いたがったので、仕方なくミクはアイテムバッグから鑑定の石板を出した。そして剣帯に付けてある投げナイフを手に取ると、それをセンに渡す。
センは渡された投げナイフを鑑定の石の上に置き、魔力を流して鑑定してみた。
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<マジックキラーの投げナイフ>
魔力を乱す特殊な金属で作られた投げナイフ。元妖精女王のイリュディナによってマジックキラーと命名された。体に刺さると魔力の流れを掻き乱し、魔力や魔素の使用を完全に阻害する
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「元妖精女王のイリュディナって出てる」
「………本当だね? 確かにイリュがマジックキラーと名付けたんだけど、鑑定にそこまで出るんだ。まあ、私が持ってる物だから出るのかもしれないけどね。この星でマジックキラーが見つかったら別の名前になるのかも」
「それで、これがドラゴンとの戦いにどう役に立つんだ? ミクはさっきコレが有ったから戦えてたと言ってたけど」
「ゴールダームの第9エリアのボスって言ったけど、そのドラゴンは出てきてすぐブレスを吐こうとする。それも毎回必ず。だから毎回口の中に投げナイフを投げてやるの。で、口の中に刺さるとブレスが吐けなくなる。おそらくブレスは魔力を使ったものなんだろうね」
「成る程、ドラゴンのブレスを吐けなくさせられるのは大きいですね。ブレスなんて吐かれたら即死しても不思議じゃないですし、それを無効化できるなら大きいでしょう」
「ちなみにマジックキラーで作った枷もあるよ、こんな風にね」
ミクがアイテムバッグから取り出したのは長方形に丸い穴が開いている物で、手首を入れて嵌める枷だ。この星なら手錠があるが、ミクは見た事が無いので元の星の枷と同じような形の物となっている。
「漫画やアニメで見るような枷ですね。随分と古い時代に使われていたような……。昨今は手錠が使われますので、海賊王になりたい少年のアニメで見た事がある形です」
「海賊王? ……ああ、何かコンビニで見たね。リオの漫画コレクションに無かったから読んだ事は無いけど、人気なんでしょ?」
「何でお母さんの漫画コレクションを読んでるの? 私も子供の頃に読んでた事あるけど、ジャンルがバラバラなんだよね。何を思って集めてるのか知らないけどさ」
「北恋様の漫画コレクションですか? どんなラインナップなのか気になります」
「えっ! 北恋様!?」
「「「「あ………」」」」
先ほど口を滑らせたのはユヅキであるが、完全にプライベート状態の口の緩み方である。大失敗であるものの、取り返しがつかない。そして過剰に反応したのは横川伍長だ。どうやらユヅキの同類っぽい。
「横川伍長はユヅキの同類? リオの事を北恋様って言ってるって事はそうだよね?」
「まあ、そうだと思うけど、俺としては何とも言えないかな。関わってこなければ助かるけど、外野から五月蝿いと母さんの執筆が止まる可能性は高いと思う。昔それでキレてた事あるから」
「「「………」」」
何故かこの場で急に黙った3人。ここで黙っても何の意味も無いうえ、軍との関係がどうなるか分からなかったのでライブ配信中なのだ。録画しての編集なら切れるのだが、今の状況では取り返しがつかない。それもあってスルーする事を決める全員。
山崎中尉と河越少尉も何となく理解したらしく、先ほどの事については口に出さない事にした。
「さて、昼食も終わってるし、ドローンを一旦下ろして配信を一時終了しようか。バッテリーも交換しなきゃいけないし」
「そうだな。その間に色々な準備を終わらせておこう。それじゃ、一旦切るぞー」
画面の向こうで見ている人達に声を掛けつつドローンカメラを切るコウジ。配信も終了し、ミクは6階に上がって右の方に女性用トイレを掘る。左の方に男性用トイレを掘り、簡易テントのような物を立てて見えないようにした。
そういった物も購入してあるので、ミクのアイテムバッグの中身はそれなりに増えている。とはいえ前の星と違い、こちらの星では色々と必要なのだ。トイレを見られたところで大して気にしない者ばかりではない。
「とりあえずトイレを立てたから、今の内に済ませおいてくれる? 上を見て右が女性用で、左が男性用ね。終わったら回収するから」
「了解。最初は簡易テントみたいな目隠しも無かったから大変だったよなー。ミクいわく、元の星だと気にしないヤツばかりだって言ってたけど」
「トイレを見られてどうこうよりも、トイレの最中に襲われて殺される方を警戒するからね。本来用を足している時って非常に危険なんだよ」
「だろうなぁ。忍者だって雪隠隠れとか言って、トイレに隠れて暗殺したとか言われてるしさ。トイレの最中って思ってる以上に危険なんだよ」
トイレで用を足している最中というのは非常に無防備である。現在用を足している男女1名ずつは、その言葉を聞いて周囲をキョロキョロするのだった。
もちろん何も見えていないので意味は無いのだが、怖くなったのだろう。




