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0001・プロローグ

この作品は前回の作品の続きではなく、新規に書いております。類似点は多いですが、前作とは別の作品とお考え下さい。




 「………言われた通り、ここは森の中。………で、あっちにある人間種の反応が多い町がゴールダーム。この星最大のダンジョン国家であり、金と欲望に塗れた夢の場所。まあ、私にとっては何でもいい。肉が喰えれば、それで十分」



 鬱蒼とした森の中、1人の美女が立ったまま目を閉じている。


 周囲では魔物が美女に襲いかかり、今にも喰らおうとしているにも関わらず、その美女はただ立ち尽くしているだけだ。


 普通ならば悲鳴を上げるか、目を背けるか。もしくは救援を呼ぶ為に逃げるか、はたまた美女の金品を得る為に見殺しにするか。


 誰か居るならば、そのどれかの反応であろう。しかしどんな行動をしようが、美女の結末は変わらない。


 何故なら……。



 「高々その程度の実力で私を喰らうなどあり得ない。とりあえず最初の肉は決定した。襲いかかる相手を間違えた自分を恨むといい」



 美女は自らの腕を数本の触手に変え、その全てが狼の魔物の頭部を貫き串刺しにしていく。ほんの僅か、一瞬にも満たない時の中で、彼らの意識は完全に破壊された。


 更に美女は触手から血を吸いとり飲んでいるらしく「ゴクッ、ゴクッ」という音がしている。美女の顔色は何も変わらない。


 団子状に連なっている狼の魔物に対し、自らの腕を肉の塊に変えて貪り食っていく美女。


 「ゴリボリバリ」という音がしている以上、おそらくは肉の中に牙か何かがあるのだろう。それで咀嚼しているから「ボリボリ」という音が出るのだ。


 死体を綺麗に喰らい尽し、血の跡一つ残さなかった美女は、先ほど言っていた町の方角へと歩き始める。


 まるで深淵の如く、光すら吸収しそうな黒暗い色のショートカット。そんな奇妙な色の髪と、赤黒い目を持つ美女。その女性の名は「ミク」といった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「お前に行ってもらう星が決まったから、そこに転移させる。向こうに行ったら、すぐに始めろ」


 「私は肉が喰えればそれでいい。どうせお前達に反抗したところで滅ぼされるだけ」


 「それが分かっていれば構わん。少々派手にやらかしたところで、お前ならば何の問題もあるまい。どんな存在だろうが気にするな、ゴミは全て喰らっていい」


 「また貴方がたはそんな事を。出来るだけ他への被害は減らしなさい、貴女は生物として強すぎるのですからね?」



 ここがどのような空間なのかは全く分かっていない。分かるのは話をしている人型の光が沢山あるのと、中央に巨大な肉の塊が浮いている事だけである。


 他には空間が広がっているだけで何も見当たらない。



 「その星は乱れに乱れておる。唯、それ自体は特に問題の無い事だ。……では何が問題なのか? それは酷く簡単な事であり、一向に発展せぬ事だ」


 「どれほどに発展せぬかと言えば、既に1000年を超えて碌に発展しておらん。あまりにもお粗末で話にならんのじゃが、理由は乱れ過ぎておる事だ」


 「<出る杭は打たれる>という言葉があるらしいが、その星では<出る杭は抜いて焚き火に放り込む>が正しい。星の文明を進ませたり、秩序を齎す者を悉く殺害しておるのだ」


 「己らの権力を失うのが耐えられぬらしいの。本来ならば打倒されて然るべき者どもが、亡者の如く生き続けておる。それが、お前を送る星の状況だ」


 「お前はその星で腐った者どもを貪りなさい、私達<根源の神>がそれを許す。須らく貪り喰えと言いたいけれども、それはそれで星の文明が壊れすぎるでしょうから、程好く貪りなさい」


 「貪るのに程好いも何もないだろうが、各種のスキルや<星の神>どもの加護を持つ者もおろう。お前の邪魔をするのであれば、<星の神>も喰らうがいい。それもまた、我々<根源の神>が許そう」


 「きゃつらなど所詮は創り出せば済む存在じゃ。幾らでも喰ろうて構わんわ。気に入らぬというだけで喰らってもよい。星の管理一つまともに出来ん、愚か者どもだからのう」


 「さて、ここで<ミク>に愚痴を言っていてもしょうがない。人目に付き難い森に下ろした後、近くにある人間種が多い所が目的地。ゴールダームというダンジョン国家だ。その星で最大のダンジョンを有する国」


 「そこに行って腐った愚か者どもを貪ってくるがいい。探索者とやらになって迷宮に潜れば愚か者も釣れよう。まともな者は喰ってはならんが、愚か者には容赦をするな」


 「後は実地で学ぶが良かろう。お前さんも暴走せぬようになったしのう。ほほほほほほ……」


 「お前は知識自体は容易く覚えるが、人間種の感情や情緒を我らで教えるのは無理であったからな。まあ人間種の中で生活すれば、そのうち理解出来るであろう」


 「多少の装備と金銭ならば持たせてやる、後はお前の好きにせよ。能力を見られても、お前が肉塊である事に気付かれても構わん。腐った汚物どもを喰らい尽くせ。それがお前の使命だ」


 「最後に、お前の名は<ミク>だ。私達に名前など要らないが、星に下りるならば必要だ。ミート・クリーチャー、頭文字をとってミク。何処かの星の言語で、肉と怪物を意味する。お前には相応しい名だろう? では送るぞ」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 美女。つまりミクはそういう経緯でこの星に送られた肉の怪物である。神から言われた愚か者を貪り喰う為、そして何より、彼女自身が肉を貪り喰う為にやってきたのだ。


 厚めの麻のシャツとズボン、そして革のサンダルに剣帯。左腰にあるのは何の変哲も無い青銅のショートソードであり、右腰には青銅のダガーが差してある。


 背には革製の背負い鞄を背負っており、その中に多少の金銭の入った小袋と革の水筒が入っていた。それを確認したミクは、先ほど食べた狼の魔物の体内にあった魔石を掌から出す。



 「これは売ってお金に出来ると、神どもが突っ込んできた知識にあった。とにかく人間種に紛れる為には金銭が必要、だから溜めておいて損は無い。持てなさそうなお金は<本体空間>に置いておけばいい」



 そう口にするとミクは確認した鞄を背負い、町の方角へと歩き出す。森の中を散策しながら進み、知識の中にあった薬草などを丁寧に抜いて鞄に入れていく。


 町に入る時に、これらを持っていれば不審に思われないだろう。ミクが薬草を抜いていたのには、そんな計算もあった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 森を出たミクはそのまま歩き続け、町の前まで辿り着く。


 少なく見積もっても高さ10メートル以上、厚さ5メートル以上の石壁が町を覆い、更に7メートルほどありそうな空堀が囲っている。さながら難攻不落の巨大な要塞のような町であった。


 この町が国家であり、その中心にダンジョンがある。この星最大のダンジョンを持つ国であるゴールダーム、それがこの町であり国の名前だ。


 これからミクが数多の者を貪り喰う国。それは悲劇なのか、それとも喜劇なのか、誰にも分からない。何故なら彼女自身にも分からない事なのだから。


 順番待ちの列に並んでいたミクの順番が回ってくる。彼女が来訪した理由と入国税を門番に払おうとすると、ニヤニヤと好色な表情をする兵士が話し掛けてきた。



 「お前の理由は信用ならん。取調べをするから横の詰め所まで来てもらおうか!」



 そう言って兵士は無理矢理ミクを連れて行く。どうやら早速愚か者が見つかったようである。


 ミクは内心の肉を喰える喜びを隠し、無表情で兵士についていく。横の詰め所に連れて行かれ、建物の中に入った直後、声を掛けられた。



 「いったい何をしている! その女性を連れてきてどうするつもりだ?」


 「……(チッ」



 ミクを連れてきた兵士の舌打ち。人間種ではないミクにはハッキリと聞こえていたが、他の誰にも聞こえていなかっただろう。


 兵士は新たに現れた、服の色が違う男に対し口を開かない。この者は何者なのだろうか?。


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