0493・軍人への魔法指導 その7
他の5人の軍人にも戦わせたが、特に問題なく倒して終了だった。最初の山崎中尉と違って残りの5人は武器の事など気にせずに振り回したが、その程度でドラゴン素材がどうにかなる筈もなく、【清潔】を使えば元通りである。
「そもそも【身体強化】を使って振り回しても問題無いのに、唯の素の能力しか使えない連中が振り回したところで壊れるなんて事はありえないの。そんな強い力は使えないんだから、心配する必要なんて何処にもないよ」
ここで言っている【身体強化】はミクの【身体強化】ではない。幾らドラゴン素材といえど、ミクの人外パワーには耐えられないのだ。しかしその耐久力は高く、少なくとも人外パワーの7割近くまでは出せる。それほどの素材がドラゴン素材なのだ。
「そういえば確かにそうか。【身体強化】というものをすれば、我々が想像できない程の怪力が生み出せるんだったな。それでは【身体強化】の訓練をした方が良いのでは?」
「【身体強化】は元の肉体を基準にして強化される。不摂生して運動もしていない体と、毎日運動して鍛えられた体。それが同じになると思う?」
「成る程、確かに言われる通りだ。何も運動などしていない者が、我々と同じような強さを得るなどおかしい。結局は鍛えている者が有利というのは当たり前の事だな」
「そもそも【身体強化】は疲れるうえに、栄養を大量に消費する。使いすぎると痩せ衰えるから注意が必要で、維持する為には結構食べなければいけない」
「「「「痩せる!!!」」」」
「そこに喰いつくのは同じ女性としてよく分かりますが、【身体強化】を綺麗に使えるようにならないと変な痩せ方をしますよ。まずは使い熟すのが……って聞いてませんね」
女性4人、つまり西島、後藤、仁藤、横川の4人が何処をどういう風に痩せさせたいか話していると、山崎中尉と河越少尉がゲンコツを軽く落とす。他人の話を聞いていないのだから仕方ない。
「「「「痛たたたた……!」」」」
「話を聞いていないお前達が悪い。話も聞かずに内輪でお喋りを始めるとは何事だ。基地内なら罰として5周程度は走らせるところだぞ」
「「「「すみません」」」」
「さっきも言ったけど、多くの栄養を消費するのと疲労が大きくなるから長くは使えない。そもそも魔素による肉体の強化と活性化が【身体強化】の本質」
「魔素、ですか?」
「魔素は魔力になる前の物と考えれば分かりやすい。大気中には魔素があり、それを肉体に取り込んで自分の魔力に変換している。その魔力になる前の物を直接使用するのが【身体強化】」
「魔力になる前の物、ですか……。それってつまりどこにでもあるんですよね?」
「何処にでもあるね。でも体の一部に【身体強化】を使ってピンポイントで痩せようとすると失敗するよ? 人間種の体だって、そんな単純に出来ている訳じゃないからさ」
「そ、そうですか……ピンポイントで痩せるのは難しいんですね。でも全体に使って痩せる事は出来るんでしょう?」
「それは可能だけど、場合によっては筋肉も付くよ? 当然大きな負荷が掛かる訳だから、当然と言えば当然なんだけど」
「「「「………」」」」
「痩せようと思って【身体強化】を使ってたら、いつの間にかボディビルダーみたいな体に仕上がってたりしてな!」
河越少尉が面白そうに言うと、女性4人から睨まれた。その瞬間、明後日の方向を向いて口笛を吹く河越少尉。
「しかしそうなると体を鍛えるには良さそうだな。短時間の運動でかなりの効果が出そうな気がする。その分だけ多い疲労の蓄積をどうするかが問題か」
「【身体強化】にも段階はある。軽いものから強いものまで。ただし慣れていないと体が強化されすぎて使い熟せない。それに集められる魔素にも限度がある。それ以上に集めると死ぬ可能性があるので気をつけてほしい」
「「「「「「死ぬ!?」」」」」」
「体への負担が増えすぎて、内臓類が損傷する。強化具合には限度があるけど、死を覚悟すれば1度だけ強い強化は可能。その後はどうなるか知らないし、死んだとしても自業自得」
「まあ、そうだろうな。【身体強化】というのは確かに凄いが、何でもそうだが限度があるという事か」
「俺達も教えてもらって使える様になりましたが、今は軽くしか使いません。そもそも全身に正しく強化を施すって、思っているよりも難しいんですよ。何たって全身を強化しながら走ったり戦ったりしなきゃいけないので」
「アレをやりながらコレをするっていう感じか、そりゃ難しいだろうな。戦闘を熟しながら強化もしなきゃならないんだ。しかも最初は強化だけで精一杯なんだろう?」
「ですね。【身体強化】をする事だけで精一杯。その後は歩いて、今は走る事まで出来るようになりました。でも戦闘はまだ無理ですね。多少なら可能ですが、ミクみたいに戦闘しながら当たり前のように強化し続けるのは無理です」
「それって本当に強化できてるのよね? 嘘だとまでは言わないけど……」
「そもそも【身体強化】の最中は周囲を威圧しますから、使っていない時と使っている時の違いは非常に分かりやすいのです。皆さんも味わってみれば分かります。私達は慣れる為に色々とさせられましたので……」
ヤエはニッコリと笑っているが、目が全く笑っていない。激しく嫌な予感がした軍人6人は、ヤエの提案を丁重に断るのだった。
「いや、我々は魔法を使うのが先です。アレもコレもと食指を伸ばす訳にはまいりません。まずは魔法をじっくり習わせていただきます」
「そうですか、残念です」
「「「「「「………」」」」」」
内心「巻き込めなくて残念って事だろ!」と軍人6人は思っているが、余計な事を言うと何かをされかねないのでジッと黙っていた。流石にヤエも巻き込めないと思ったのか諦めたようである。
「まあ、代わりに威圧に関しては強制的に慣らされたので、普通の人の威圧には何も思わなくはなりましたね。ミクの本気の威圧を受けると、体から出るものを全部出しますから」
「「「「「「………」」」」」」
コウジの言葉に顔が引き攣る軍人6人。やはり予想した通り碌でもなかったらしい。それにしても体から出るものを全部出す。それは無いにしても、涙を含めて大半は出るんだろうなと思い、心底受けなくて良かったと胸を撫で下ろす。
「しかし、葉月家の方にそういう事をされたのですか? それは本当に大丈夫だったので?」
「お祖母様、つまり総帥が乗り気になられましてね。ここで威圧に慣れておいたら、この先の将来の為にもなる、と。そう言われたら断る事など出来ないんですよ……」
「「「「「「うわぁ……」」」」」」
「ただし言い出したお祖母様を巻き込む事には成功しましたけどね。その結果、心臓が止まったりとか色々とありましたが、ミク殿があっさり蘇生させたのでセーフです」
「いやいやいやいや。葉月家の総帥の心臓が止まるってシャレになってませんよ? 治ったのなら良いですけど、大問題な気がするのですが?」
「あまりにも威圧の効果が高くショックを受けられただけです。だいたい私達に受けろと言っておいて、ご自身はショックで心臓が止まるなど……。私の方が「軟弱な」と言いたいですよ」
「御嬢様。言いたいのではなく、言っておられましたよね? 色々と出しながら」
「そうですけど、最後の一言は余計でしょう!」
「全員が出したのですから、全員アウトでしょう。私も耐えられませんでしたからな! ハッハッハッハッハッ」
いったい何の話をしてるのかという事と、近付いてくるファングウルフの処理を手伝えよと思うミクであった。尚、コウジとセンも戦っている。




