0490・軍人への魔法指導 その4
「とりあえず、まずはこの魔法を教える。これは【生活魔法】の【清潔】。効果は汚れを浮かせる。使える対象は色んなもの。自分の体でも武器でも何にでも使えるけど、効果は浮かせたり剥がすだけ」
「つまり浮かせたり剥がした汚れは取らないと綺麗にならないって訳か。それでもありがたい魔法である事に変わりはないな。銃のメンテナンスが楽になりそうだ」
「この星の兵士は銃とやらを使うけど、何故それを使うのかは分からないね。ある程度まではそれでどうにかなるけど、一定以上の魔物はどうにもならないよ? 多分トレント辺りで既に駄目だと思う」
「トレントって、でっかい木の魔物ですか?」
「そう。ゴールダームのダンジョン第3エリアのボス。トレントは木材としても優秀で、私は何度も第3エリアを踏破して木材を手に入れてた。とはいえその銃って武器じゃ、トレント相手だとおそらく弾かれる」
「そのトレントというのは斧で戦って、それ以外は銃で良いのでは?」
「魔物は魔力を使って皮膚などを強化する。それが当たり前の魔物になってくると、その銃の弾は弾かれて碌に効かない。むしろ強力な魔物はそれが当たり前で、こっちも魔力を篭めて武器を強化しないと切れないし刺さらない」
「……つまり魔力で強化出来ない銃は、強い魔物には何の効果も無いと?」
「そう。後、軍の敷地内にダンジョンは無いって言ってたけど、それはマズい。ゴールダームが何故ダンジョン国家と呼ばれるかというと、ダンジョン内で食べる物が手に入るから。つまりダンジョンは食料庫でもある。最悪は肉でも食えるだけありがたい」
「……ご存知ないかもしれませんが、ダンジョンが出来た当初、いきなり溢れたモンスターの所為で亡くなった方が多いのです。その出来事があったので、ダンジョンは危険な所という認識ばかりなんです。食料庫という考え方はありません」
「ふーん。でも強力な魔物を倒して皮を剥ぎ、それを革鎧なんかにしないと先に進めないよ? さっき言ったけど、魔物の皮膚は魔力で強化して硬く強く出来る。それは言い換えると防具にも使えるという事」
「もしや、革鎧にしても強化できる? そうなると銃弾を弾く防具が出来るという事になるのだが!?」
「そもそも私が着てるジャケットがそうだけど? 私が着ているのはドラゴンの皮のジャケットだし」
「「「「「「ドラゴン!?」」」」」」
「あー、それ言っちゃうのか? いまライブ配信してるから多くの人が見てるぞ?」
「私から奪おうというなら叩き潰される覚悟があると見做す。他人の物を奪おうなんて泥棒と変わらないからね。犯罪者に容赦をする必要なんて無いよ」
「ミク殿が着ているジャケットを含めた一式、つまりブーツまでドラゴンの物で出来ているそうですよ。それはつまり、ミク殿がドラゴンに勝てるという事です。そこまで強い相手に喧嘩を売る人は……居るでしょうね」
「御嬢様の仰る通り、居るでしょうな。己の力を過信するマヌケが。そもそもミク殿の居た星は、闇ギルドなる組織が当たり前にある所です。スキルを駆使したりするマフィアみたいなものですな。それが各国の闇に居たのです。言い換えれば、その中を生きてきているのですからな。我々とは経験が違うのですよ」
「「「「「「闇ギルド……」」」」」」
「とりあえず、その銃ってヤツじゃ大して意味無いから別の武器を持ってくるといいよ。ダンジョンで戦う事も必要だし、殺し合いの実戦はダンジョンでしか出来ないでしょ? ゴールダームでも騎士はダンジョンで殺し合いの練習をしてたし」
「騎士がそんな事を?」
「当然。そもそも命を懸けた殺し合いは、何度も経験しないと咄嗟の時に動けない。殺し合いも知らない者がどうやって戦うのさ? 無駄死にさせるだけだよ?」
「………まぁ、おそらく正論なのでしょうな。我々も訓練をしていると言ったところで、殺しの訓練などしていない。銃を撃つだけならばそこまで苦労は無いのだろうが、スタンピードの事を考えるとそれだけでは駄目か」
「それを考えると、ダンジョンを無理して破壊したのはマイナスですね。基地内にダンジョンがあれば、そこで訓練できるのですが……」
「今は仕方ないだろう。また出来た時には、そこで訓練できるように上に具申するしかない。軍としては、確かに対人訓練だけしておけばいいとは言えないからな」
「なら5階まで行けばいい。ここの5階はゴブリンだった筈。あいつらを近接武器で殺す訓練をすればいい」
そう言って、ミクは階段へと歩いていく。有無を言わせないミクの動きで、仕方なく後をついて行く軍人達。コウジ達は既に経験済みなので、然したる問題も無いのでついていくだけだ。
3階はブラウンスネーク、4階はウィンドクロウ、そして5階がゴブリン。ここでお金を稼いでいるものは疎らにしかいない。ゴブリンは臭いから嫌われているのだろう。
「10階がオークだから、実力者はそこまで行ってるんじゃないか? それと、お金稼ぎなら6階のチャージボーアらしいから、余計にこの階は少ないんだろうな」
「ゴブリンの魔石は澱んでるから綺麗にしないと厄介だしね。そういえば【真偽判定】のスキルを持ってる人は居るのかな? あれがあると便利だと思うんだけど」
「しんぎはんていってなに? 初めて聞いた」
「本当か嘘かを見破るスキル? 【真偽判定】用の紙を用意して、そこに相手の手を置かせる。そして真偽官と呼ばれるスキルの保持者が相手の肩に手を置き、もう片方の手を紙の上に置く。これで完了。後は真偽官が質問をすると、その結果が紙に出る」
「それで、嘘か本当か分かると?」
「そう。それが【真偽判定】のスキル。紙が赤く光れば嘘、青く光れば本当、紫だとどっちにもとれる。そういう反応を返すスキルだね。犯罪者の嘘を暴く為に使われてたし、それで犯人を捕まえてたよ」
「絶対に嘘を許さないスキルか……使われると困るヤツはいっぱい居そうだなぁ」
「それは居るでしょうね。突きつけられると困る者も沢山居るでしょう。ですがとても有効なスキルです。ミク殿、そのスキルの所持者は多かったのですか?」
「いや、多少は居るけどそこまで多くは無いかな。私の仲間だった、元ヴァンパイア・ロードのアレッサが使えたよ。アレッサは<犯罪者の天敵>と呼ばれてたからね。何たって【悪意感知】【罪業看破】【真偽判定】のトリプルだったし」
「スキルを3つ持つとトリプル、ですか。【悪意感知】というのは何となく分かりますが、【罪業看破】とは何でしょう? おそらくの想像はつきますけども」
「まあ、その想像の通りだと思うよ。【罪業看破】は見ただけで犯罪者かどうかが分かるスキル。ちなみに罪を償っていると犯罪者という判定にはならないから、罪を償っていないヤツだけが見えるんだ。だから<犯罪者の天敵>と言われてたんだよ」
「見ただけで犯罪者かどうか分かるというのも凄いですな。その分だけ危険な気もしますが」
「そうだね。【罪業看破】持ちは歴史上、幾度と無く殺されてきてる。それだけ生きていられると都合の悪い連中が多いんだよ。アレッサに関しては元ヴァンパイア・ロードだけに、手出しをするのは難しいけどね。むしろ襲っても殺される可能性の方が高い」
「ヴァンパイアじゃそうでしょうねー。会ってみたい気もするけど、眷属とかにされるのはゴメンかな?」
コウジやセンにヤエ達も「元」という部分にずっと引っ掛かっているが、ミクに質問をした事は無い。何だか嫌な予感がしているのだ、知っている者達は。




