0489・軍人への魔法指導 その3
1階を歩いて進み2階へと突入する。2階の魔物はビッグアントだ。北条家の庭のダンジョンでも出てきたが、大した魔物でもないので倒すのは簡単である。そんな中を一気に進んで行き、3階への階段近くまで来た。
「後ろの奴等はまだつけてきているのか、面倒な。ああいうのが湧いてくるならば、魔法を集中して習う事すら出来んぞ。我々の任務としては、魔法を習うという事をせねばならんのだが……」
「軍の基地内で習うという事は出来ないのかい? ここでは一般人が必ず見ていると思うよ。基地ならば多少荒らしたところで問題にはならないし、誰も見ていない中で練習できると思う」
「軍の基地に民が入る事は問題だと思うんだけど、この星では簡単に入れるの? だからここでの練習なんだけど……」
「ああ。そういう理由で公的ダンジョンでの練習だったのか。確かに機密が無い訳じゃないが、高が練習をする為だけなら特に問題は無いと思う。とはいえ撮影の許可が下りるかは分からないけど」
「上も撮影の許可ぐらいは出すと思うぞ。それよりも後ろの奴等は本当に鬱陶しいな。そもそも魔法の使い方講座は流れてるだろうに、何故いちいち追いかけてくるのやら」
「もしかしたら私達が魔物を倒しているから、安全に進めるとか思っていそうですね。一旦止まってやり過ごしますか?」
「私も賛成です。真っ直ぐに行くと階段だった筈なので右に曲がりましょう。そっちに行ったところで何の問題もないでしょう。これでついていきたら、軍の名前を出せば良いと思いますよ」
「そうだな。そうするか」
真っ直ぐ行けば階段があるものの、敢えて右に曲がって進んで行くミク達。そのまま右に曲がって真っ直ぐ行くと、やはり後ろからつけてきている連中も曲がってきた。それを確認した後、軍人6人はすぐに来た道を引き返す。
後ろからつけてきていた連中は慌てて知らないフリをするものの、軍人6人はそいつらに話しかける。
「君達は何故我々の後ろをつけてきている? 事と次第によっては、上へ連れて行き話を聞かねばならなくなるが?」
代表して山崎中尉が話しかけると、5人組の若い男パーティーは突然の言葉に動揺しつつも反論してきた。その内容は実にマヌケなものだったが。
「何を言われてるのか分かりませんね。オレ達が行く方向とたまたま一緒だっただけじゃないですか?」
「こちらは次の階への階段は無い。更に言えば君達がつけてきているのは1階から知っている。そのうえドローンカメラでも記録されているが? 我々が何の証拠も無しに話しかけると思っていたのか。随分と我々陸軍を舐めているようだな?」
「お、おれたちは別に軍を舐めてる訳じゃ……」
「では何故後ろからつけてきた? きちんと説明してくれないと困るんだがな。ちゃんと正当な理由があればいいんだよ、正当な理由があれば、さ」
そうやって山崎中尉と河越少尉が凄むと、若い連中は走って逃げて行った。この階層では疎らに探索者が居るが、そこまで多くはない。理由は儲からない階層だからという単純なものである。
「バカが逃げて行ったしちょうど良いね。今の内に魔力の知覚を始めよう。コウジ達も頼める?」
「魔力を流すヤツだな。それなら問題ないよ」
そう言ってそれぞれが魔力を流して魔力を知覚させる。ミクは山崎中尉に、コウジは河越少尉に、センは後藤少尉に、ヤエは仁藤曹長に、ユヅキは横川伍長にそれぞれ魔力を流し、それを何度か行う事で魔力を知覚させた。
「……これが魔力か。我々軍人としては、とにかく信頼出来る武器を望む。何故なら信じる事が出来ない武器など、戦場では危なくて使えないからだ。だから魔法というのを信用していなかったんだが……」
「暴発したりするし、使い方が複雑で面倒臭いと咄嗟の時に困るとか聞きますね。だから軍人は最新武器より、少々古いけど安心して使える武器を好むとか……」
「そうだ。我々だって人間でな。訓練はしているし有事の際に戦う覚悟は当然あるが、信じられない武器を使って自分の身を危険に晒す気は無い。無いのだが……」
「魔力はそもそも自分の体の中にある。たとえ今まで知覚できていなかったとしても、元々誰の体の中にもある以上、安全だ危険だという以前の話なんだよね。今まであったものを改めて知っただけだし」
「成る程、そういう事ですか。今までも我々の体の中に当たり前にあったと。ただ、我々がそれを認識出来ていなかっただけだったとは……」
「ですが、そういうのも含めて魔法が使えなかったのも事実です。今は分かりますけど、先ほどまでは分からなかったのですから、言っても始まりませんよ?」
「話はともかく、次は循環の練習に入る。これが長く掛かる練習になるのでしっかり励むように。ただし何処ででも出来る練習だけどね」
そう言ってミクは循環の練習方法を教える。といっても、今知覚したばかりの魔力を動かすだけだ。体全体に行き渡るように動かすのだが、そのロスをなるべく少なくする。
「魔力を巡らせる事自体はそこまで難しくない。しかし重要なのはロス無く体中を巡らせること。これが魔力循環の練習となる。最初は循環させるだけで魔力を消費する事になるから、できれば寝る前に循環の訓練をするといい」
「循環の練習は俺達も続けてますが、いまだにロスなく循環させる事は出来ません。ミクはロス無くって言ってますけど、多分それって達人レベルの技術だと思います」
「そ、そうなのか……。少なくとも今の我々には絶対に無理だな」
「それは置いておくとして、次は放出の訓練。先ほど知覚した魔力を今度は指先から放出する。これは放出の訓練だけど、できるだけ細く少なく放出しないといけない。一気に放出すると一気に魔力が抜ける」
「放出というのは分かりますが、何故放出の訓練などする必要があるのですか? 魔力を出す事に意味があるとは思えないのですが」
「魔力を放出して、その魔力で魔法陣を描かないと魔法は発動しない。つまり魔力の放出が出来ないと魔法は使えない。当たり前の事だね」
「あの動画の魔法陣、魔力で作ってたんですか!?」
「そうだよ? この星では紙に描かれた魔法陣が見つかるらしいけど、それを紙に描いたって使える訳が無い。魔法を使うには魔力を使って魔法陣を描くしかないんだよ」
「魔法ってそういうものだったのか……。通りで世界中が調べても使い方が分からない筈だ。魔法の使い方さえ分かれば、早速ブッ放すヤツとか出てきそうだなー」
「魔法にもよるけど、攻撃魔法なんかはいきなりやっても成功しない。そもそも魔法は放出して魔法陣を作る魔力だけじゃなく、更にそこに魔力を注がないと発動しない。魔法陣を作る魔力と魔法を発動させる魔力は別」
「何だか結構な魔力を消費しそうですね。そうなるとポンポン使える訳じゃない?」
「そんなにポンポン使えたら誰も苦労しないよ。魔力は使えば使うほど総量は増えていく、そこは体を鍛えるのと同じだから分かりやすいと思う。もちろん限度はあるけどね」
「という事は、これから魔法の訓練も増えていきそうだな。ちなみに我々がしてもらった魔力の知覚というのは、我々でも出来るのかい?」
「あれは手を持って魔力を相手に放出しただけ。放出が出来るなら誰にでも出来る。魔力を知覚する方法としては、アレが一番分かりやすい」
「成る程。基地に戻ったら絶対に自分にもやれって騒がれるな。それで魔力が無くなったらどうすんだと言いたくなる」
「魔力枯渇は気分が悪くなり、とんでもない吐き気に襲われるので気をつけて下さい。地獄ですよ?」
「「「「「「………」」」」」」
今から絶望の顔をする6人であった。




