0488・軍人への魔法指導 その2
新宿ダンジョン1階。そこは草原であり、出てくる魔物はビッグラビットとある程度戦いやすい。背丈の低い草しか生えておらず、ビッグラビットは見えやすいのだ。噛みつきは強力だがそれだけであり、長柄の武器ならあっさりと倒せる。
ミクの鞄の上にセリオとレティーは乗っており、それでも形が潰れないアイテムバッグは流石である。コウジ達は一応警戒しているが、最近は魔力を関知する事で魔物の位置をだいたい把握する事が出来る様になった。格段の進歩であろう。
そんな草原をラノベを読みながら歩くミク。今読んでいるのは古い時代のラノベで一世を風靡したものである。ドラゴンを跨いで通る女性が主人公のヤツで、当時物凄く人気だったらしい。
それの一巻を読みつつ向かってきたビッグラビットを蹴り飛ばすミク。その一撃で吹き飛んでいき、落ちた後ピクリともしないビッグラビット。ミクに対して怒りのあった軍人5人は何も言えなくなってしまう。
「相変わらずミクは情け容赦なく蹴り飛ばすよねー。あれが武器も消耗しない一番良い方法だっていうけど、絶対にザコの相手が面倒臭いのが理由だと思う」
「まあ、そうだろうな。昨日支給されているハコで公開されている地図は見てきたって言ってたし。一瞬見ただけで暗記できる能力ってスゲーよ。俺なんて絶対に無理だ」
「その割には直観像記憶ではないようなのですよね。一瞬で普通に記憶していると言いますか、訳が分からない記憶法だと思います。それが別の星の方の記憶法なのか、それともミク殿だけなのかは分かりませんが……」
その時、軍人6人が示し合わせたように頷き合い、ミクに対して自己紹介を始めた。
「私は山崎中尉です」
「私は川越少尉です」
「私は後藤少尉です」
「私は仁藤曹長です」
「私は横川伍長です」
「私は西島少尉です」
「……聞いていますかな? 我々は自己紹介しましたが、聞いておられたのならお願いしたいのですが?」
「……私はミクだが、下らない事をするな山崎中尉。そっちが川越少尉でそっちが後藤少尉。そして仁藤曹長に横川伍長、そして前にも会った西島少尉。一度聞けば分かっている、私はそれほど愚かではない」
「「「「「………」」」」」
「一度聞いただけで顔と名前が一致するのかよ。相変わらずだなぁ……そのうえ聞いてないようで聞いてるし」
「この国の者も昔は頭が良かったと聞く。教科書など使わず皆が教師の一語一句に耳を傾け暗記したらしい。最近の日本人は記憶能力が低下していると書いてあったけど、その所為じゃない? 私が賢い訳ではなく、日本人が劣ってきているのが正しい」
「それは……まあ教育界の一部で言われている事ですな。教師の言葉に耳を傾けさせる為に、授業中は教科書を使わない方が良いのではないかという意見です。ま、子供達が授業に集中しなければ意味が無いので、結局立ち消えになる話ですが……」
ミクは仕方なくラノベに栞を挟み、アイテムバッグを下ろして仕舞うのだった。とはいえこんな浅い階層では危険などありはしないのだから、読んでいても問題は欠片も存在しない。
「私にとっては後ろからつけて来ている奴等も含めて何の問題も無いよ。キョロキョロと魔物を探すフリをしながら、こちらを確認してはついてきてるでしょ?」
「私も【気配察知】で分かっていましたが、キョロキョロしているなどは知りませんでした。どうやって、と聞いて良いですか?」
「単に目の端で確認しているだけだよ。たまに横を向いたりとかしてたでしょ? 本を読んでようが警戒を怠るほどマヌケじゃないしね。それほど平和ボケした生き方なんてしてきてないよ」
「「「「「「………」」」」」」
「ぬるま湯に浸かっておいて「自分達は強い」なんてマヌケもいいところ。厳しい環境に身を置かずに強くなったヤツなんていないよ。どんな環境でも最後には慣れる。生き物なんてそんなもの」
「言っている事はサッパリだが、言いたい事は何となく分かる。我々の置かれている環境も、貴女からすれば生温いのだろう」
「当然。コウジ達には既に話したけど、私が元いた星では闇ギルドがある。奴等は当たり前のように犯罪を犯す組織だ。当然そこの奴等にはスキル持ちも罠を仕掛ける奴等もいる。この国の言葉で言えばブービートラップというヤツだよ」
「何という事を……」
「そんな連中とも戦ってきた身としてはね、お前達は平和ボケし過ぎだ。いつ、どこで、誰が襲ってくるか分からない状況で耐えられるのか? 周りは敵かそうでないかは不明だぞ? そこで当たり前のように生きていけるのか?」
「「「「「「………」」」」」」
「言葉は悪いかもしれませんが、軍の方々でも無理でしょう。そこは敵が入り乱れる戦場と何も変わりません。相手が一般市民かテロリストか分からないのです。そしてそんな事が当たり前の時代も、かつての<ガイア>にはありました。その頃に比べて弱くなっていると言われれば、返す言葉がありません」
「まあ、そうですな。私とてもう70ですが、それでも私の祖父の世代はもっと治安も悪く厳しかったでしょう。治安が良くなるのは大変に良い事ですが、その所為で危機意識も含めて薄くなっているのは事実。治安が良すぎるのも考え物ですな」
「諸外国よりも治安が良い反面、諸外国よりハングリー精神が足りないという事ですね。それは人としての差ですから、当然ながら軍人の質の差となって現れるでしょう。同じ数では明らかに不利ですね」
「我々はその為に高度な武器を扱う訓練を欠かしていない!」
「でも、これからはそこに魔法が加わってくる。戦場で簡単に敵の骨まで焼き尽くす魔法が、芯から凍らせる魔法が、戦闘機やヘリを落とす竜巻の魔法が、基地を地面に沈める大地の魔法が……。それに対して今のまま、お行儀よく対抗できるの?」
「「「「「「………」」」」」」
流石に魔法というものを舐めていた訳ではない。流石に未知のものを軽く見るような者は選ばれていないが、まさか魔法というものがそれ程だとは思ってもみなかったのだ。いきなり使われると対抗するのは難しい。そこまで考えた西島少尉は気付く。
「あれ? もしかして少人数で基地破壊なども可能になる?」
「だろうね。私の予想では、ある程度の年数を経れば出てくると思うよ。特にエリート教育を施せば出てくるだろうね。ただし、出てきたとして果たしてそいつは軍に従うのか疑問だけど」
「それは……」
「そこまでの力を持って、果たして抑圧される事に納得するのかな? この国は民族性でそこまでではないようだけど、他の国には我が強い民族も居るみたいだしね。案外と独裁的な体制が引っ繰り返ったりして」
「「「「「「………」」」」」」
どうやら軍人6人は魔法が日常にあるという事の意味を段々と理解してきたらしい。そしてそれが当たり前になった時代、果たして治安は守れるのだろうか?。
「勘違いしているね? その時にはそういう国に変わるだけだよ。元の星でも力のある者は探索者か軍だった。そして騎士団に行って騎士になるのがエリートコースだね。近衛騎士団は流石に殆どが貴族だったけど、その中でも実力者しかなれないのも事実だ」
「「「「「「近衛騎士団!!」」」」」」
「何で嬉しそうな顔をするの?」
「えっ? やっぱり近衛騎士団って格好良さそうな感じがするじゃないですか! ラノベとかでも颯爽と現れる格好良いイケメン騎士と恋に落ちるんですよ」
「「そうそう!」」
何故か仁藤曹長と横川伍長が声を上げる。どうやら女性2人もそういうラノベか漫画のファンかオタクなのだろう。急に話を始めたが、そこに待ったをかける山崎中尉。
「ここはダンジョンだぞ。緊張感を持て!」
「「ハッ!!」」
急に言われても反応するのは鍛えられている証……としておこうと思うミクであった。




