0487・軍人への魔法指導
軍との話し合いも終わり、軍人5人が帰ってからライブ配信を終了させるハルカ。これからは軍の連中に魔法を教えるとはいえ、一日の長はコウジ達にある。もしかしたら軍に入れようと個別に接触してくるかもしれないが、拒否しておくようにと話す。
「警戒し過ぎて何ら悪い事は無い。軍っていうのはそういう連中さ。前にも語ったけど、奴等は国家権力を盾に今までは圧力をかける形で交渉してきた。だがウチが後ろに控えている以上、勝手をさせる気は無い。とはいえ自分から行くのはどうにも出来ないからね、注意しておくれ」
「そこまで警戒しなきゃいけない理由でもあるんですか? 何かヤバいスキルを持ってたり……?」
「それが冗談じゃないんだよ。世界的に持ってるんじゃないかとして投獄されてるのも居るのさ。犯罪スキルをね」
「「「「犯罪スキル?」」」」
「正確には犯罪に利用できるスキルだね。洗脳したり誘導したり、あるいは誘惑や魅了したりするスキルさ。どうもそうとしか思えない問題がちょこちょこ起きているようなんだ。もしかしたら2つ目のスキルがそういうもので、経験から使えるようになってるのかねえ?」
「可能性としては否定できませんな。現に大奥様は2つ目のスキルを持っている訳ですから、何をキッカケにして2つ目を手に入れるのかは分かりませんが……」
その時、全員が一斉にミクを見るが、ミクはあっさりと否定する。
「私を見ても知らないものは知らないよ。そもそも私はスキルを持ってないし、必要だとも思ってない。だからスキルの事に関して詳しく知ってはいないんだよ。どのみち元いた星じゃ、下らない事をするヤツは死ぬしね。こっちと違ってやりたい放題できる訳じゃない。おかしなスキルを持ってたら囲われるか殺される」
「無法地帯と思わなくもないけど、逆に言えばそういう危険なヤツが好き勝手に暴れる事も無いのか。力を持ってるヤツに使われるか、それとも危険だとして殺されるか。危険なスキル持ちのヤツが自制するしかないなら、それはそれで悪くないような……?」
「確かにそうも言えるけど、言い換えれば必死で隠さない限り、危険なスキル持ちは平穏には生きられないね。見つかった段階で利用されるか消されるか……。我が国なら永遠に監視がつくか、それとも軍に取り込まれるかってトコかい」
「軍が危険なスキルを利用すると?」
「当然だ。あいつらがまともな神経をしてるなら絶対に利用する。最悪の時を考えれば必要なスキルでもあるんだ。言葉は悪いけど、どんな物も使う側次第なのさ。最悪の殺人者を洗脳して真人間にする事も可能なんだよ。だからこそ必要でもある。ただし監視は相当厳しいだろうけどね」
「もし不穏な気配を出せば、それだけで〝コレ〟ですな」
ジロウエモンは首の横で首を切るように手を振る。危険なスキル持ちだからこそ、兆候が見えた段階で殺さなければいけない。それに、この国だけではないのだ、人間が生きている国は。
「大陸の国はバカげた国民の数が居る。あそこなら高い確率でそういうスキル持ちも居るだろう。中にはミクを確保する理由で我が国に入ろうとしているかもしれない。皆も気をつけな、ミクに近付く為に手を出してくる可能性がある」
「確かにそうですな。しかしミク殿にそれが通用するかは分かりませぬが……」
「ミクの持つ権能ですか? 確かにあんなものを持ってる以上、効かない気もしますね」
「洗脳とか魅了系? 効く訳ないんだけどね、そんなもの。コウジ達には効くだろうけど、私には絶対に効かないよ。そもそも僅かでも権能が使えるという事は、神と同じ<神力>が使えるという事だからね。高がスキル程度が効く筈ないんだよ」
「八重から聞いていたけど、本当に神の権能なんてものが使えるとはね。何があったのか知らないけど、尋常じゃない。ミクが神様だって事は無いだろうね?」
「そんな事がある訳ないじゃない。そもそも神なら複数の権能を持ったりしないよ」
「よく分からないけど、そうなんだね。それはともかく、明日から軍の奴等のお守だけど大丈夫かい? 周りの連中も含めてだけど、軍の連中が居たら手は出して来ないか」
「でしょうね。俺達で居たら手を出してきても、軍人が近くに居て手を出してくる奴はそうそう居ないと思います」
「なら問題なさそうだね。何かあったら遠慮なく言ってきな。早い方が対処もしやすい」
「はい」
そう言ってハルカや弁護士達も帰っていった。ミクはそこまで考えていなかったが、思っているより軍は信用されていないらしい。過去の事を掘り返されていたが、どうもその事よりも現在の体制に問題があるような感じである。
今日も私有地ダンジョンに行く仕事は入っていないので、ミクはコウジやセンにヤエ達にも魔法を教えていくのだった。
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翌日。朝から連絡があり、新宿ダンジョン前で軍と合流という形になったようだ。どうやら葉月の新会社である、<ダンジョン暮らし>に連絡があったとの事。
会社名はどうにかならないのかと思うも、ダンジョンに入る仕事だから<ダンジョン暮らし>となれば、確かに間違ってはいない。間違ってはいないが……とミクは思うが、コウジいわく「こんなもの」なんだそうだ。
それはともかくヤエ達が来たので車に乗り、ミク達は一路新宿ダンジョンへと行く。
相変わらずのハイエースに揺られながら到着したが、軍はまだ来ていないようだった。
ちなみに会社用のハコは持たされており、ミクも1つ渡されている。使い方は教えてもらったので、適当に過去のニュースや歴史などを調べている。その使い方に関しては特に問題ないらしく、咎められてはいない。
公的ダンジョンの周りにはスタンピードが起きた時用にコンリート塀で囲いがしてあり、その中に受付であったり情報センターがあったりする。受付で探索者証を見せなければ入れないが、それはダンジョンに入った者を記録する為だ。
これは、帰ってきていない探索者を救助する為であったり、探索者の身に何かあった場合の為の記録である。その為、不正に公的ダンジョンに入る事は認められていない。
そんな受付近くへと歩いて行くと、周りがザワザワし始めた。おそらくミク達を知っているのだろうが、ミク達は無視して受付に行き手続きを終わらせた。その後は軍を待つ為椅子に座って適当に雑談をしつつ、ミクはハコで調べものを続ける。
そんな中、軍の迷彩服とプロテクターなどを着けた6人組が入ってきた。1人は西島少尉らしいが、残りは知らない連中だ。そいつらはミク達を見つけた後で受付に探索者証を見せ、手続きが終わったらミク達に近付いてくる。
「こちらの手続きは完了した。そちらは?」
「こちらは既に終えています。で、どうします?」
「どう、とは?」
「ある程度人の居ない所まで行って練習をするのか、それとも1階の人が芋洗い状態の中でやるかです。1階でするなら不特定多数に見られますが、それで宜しいので?」
「む……分かった。ある程度は進もう。では行くぞ」
ミクは立ち上がったものの、ハコを使っているままであり一言も発していない。特に興味がないらしく、そのまま歩いていく。ダンジョンに入った段階でハコは通信できなくなるので電源を切り、代わりにアイテムバッグからラノベを取り出した。
今度はそれを読み始めたミク。徹頭徹尾、今回の軍への指導に興味が無いらしい。とはいえミクとしては創造物に溢れた日本という国は興味深いのだ。だからこそラノベを読んだり、漫画を読んだりしている。ちなみにミクは紙派であり電子書籍派ではない。
電子書籍だと電気が無くなれば使えなくなるので、ミクとしては選択肢に入らないのである。どうせアイテムバッグには腐るほど入るのだし。
軍の5人からの視線は厳しいのだが、ミクはどこ吹く風と完全に無視している。それを気にも留めないコウジ達。何故ならここ最近は、いつもこんな感じなのだ。




