0045・正義感
カルティクと別れたミクは、適当にゴブリンを殺しながらウロウロしている。それなりに探索者がいるので上手く賊だけを始末できない。困りながらも、隠れている連中を強襲する。
全て始末して喰らい、周りの気配や生命力を調査。誰もいない事をしっかりと確認してから歩き出すも、【気配察知】を持つ者に不審がられてしまう事はカルティクで分かっている。
どうしたものかとミクは思うが、これはミク以外の気配でバレる事なので、ミク自身にはどうにも出来ない。死んだ瞬間に気配は消えるので、気配が分かるなら何かがあったと気付くだろう。
現にカルティクは最初、ミクの事を怪しんでいた。後に問題なしと判断し、更に怪物だと知って納得していたが。
スキルというものは、それなりに珍しいものである。とはいえ、それなりでしかない。持っている者は持っているし、そもそも【気配察知】はそこまでレアなスキルでもないのだ。
それを考えると、いずれミクのやっている事がバレる可能性は高い。カルティクは協力者だからいいが、ミクの事を知らずに怪しんでくる者は居るだろう。それも下らない正義感とやらで。
それを考えた場合、どんな方法が最善かと考えるも、なかなか良い答えは出ない。そもそも死んだ奴をどうにか……考えたところで閃く。一定以上の大きさの生物にしか【気配察知】は反応しないのだ。
つまり、小さな蜘蛛になっているミクには反応しない。これを逆手にとれば、小さな蜘蛛の姿で接近し、反応できない速さで本体空間に転送すればいい。そうすれば気配の反応だけが消えた事になる。
気配の消えた場所にミクが居る。それが問題になるのであって、気配だけが消えていくとなれば、ミクに疑いが向く可能性は低いだろう。気配だけが勝手に消えているのだし。
この方法は森エリアなどの、他人の視線を遮れる場所でないと出来ないが、そういう場所の方が賊が多いので問題はない。
肉に包む瞬間を見られたら問答無用で怪しまれるので、見晴らしの良い場所では使えない方法なのだが、そういう所ではそもそも元の姿に戻るのも難しい。なので最初から変身という手段が使えないだろう。
『特に問題は無いと思います。蜘蛛の姿ですが、ここにはブラックスパイダーも居ますので、誤認されるか無視されるでしょう。小さい蜘蛛ですし』
『ダンジョンの中だからこそ、攻撃してくる可能性もあるけどね。しかし小さな体である以上、小さい隙間に逃げれば済む。見つかっても特に問題はないね』
『では、今から?』
『いや、今日はやらないかな。やるなら明日からだろうけど、そろそろ平原エリアもクリアしておきたいし、明日はさっさと突破してしまおうかな。言い訳用にカルティクも来てくれると助かるんだけど』
どうやらカルティクを巻き込んで、2人で攻略しましたという事にしたいようだ。流石に第4エリアをソロ攻略すると、悪目立ちし過ぎると判断したようである。……既に遅い気もするが。
賊も上の階にしかおらず、下の方の階には居ない。今までは殺して金品を奪う連中ばかりだったが、賊の中には<隷属の首輪>や<隷属の腕輪>を使う連中がおり、そういう奴等が探索者を奴隷として売り飛ばしたりする。
今のところミクはそういう賊を喰らってないが、なるべくならそういった賊の脳をレティーに食わせて情報が欲しいと思っていた。
しかし相手が居てこそなので、ミクにはどうしようもなく、今は探してウロウロする事しか出来ない。それでも、いつかは見つかるだろうと楽観的なミクであった。
ある程度の者を喰らったので帰る事にしたミク。順調に戻って1階。何やら騒がしい連中が居た。何をやってるんだと思ったら……。
「貴方達は罠を仕掛けて近くに隠れていたでしょう! ならば迷賊か何かでしょうが!!」
「何だと!? そもそも罠の近くに居たというが、それはお前が勝手に言ってるだけじゃねえか!!」
「ならばどうして地面に寝そべっていたんです! そんな事をする必要はありませんよ、それも男5人が固まって寝そべっているなんておかしいでしょう!!」
「そ、そりゃあ……。だ、だがな! それだっ「おい、行くぞ!」てお前がかっ……チッ!」
「待ちなさい!! 貴方達のような賊がいるから……」
先ほどカルティクに絡んでいた女の子だが、何故か1人で居る。もしかしたら愛想を尽かされたのかもしれないが、ミクは興味が無かったので気にもしなかった。
「あの子もバカだなぁ……ここじゃ、見て見ぬフリをするのが一番だっていうのに。自分の身は自分で守らなきゃ、待ってるのは奴隷か死か。どっちかしかねえんだが……」
「正義感を持つのと、身の丈に合うかは別だ。殆どの奴は正義感が暴走して身の丈に合わない連中を敵に回す。言いたい事も気持ちも分かるが、出来るなら他の奴が既にやってるっての」
「今までの奴等も軒並み潰されてきたからな。結局は闇ギルドとか裏組織の方が力が強い。というより、そういう連中に個人で挑む方がおかしい。正義のヒーロー気取りで自滅する奴なんて、今まで腐るほど居たしな」
「あのお嬢ちゃんも可哀想だが終わりだな。何処に売られるのかは知らないが、売られるだけマシか。殺されたらそこで終わりなんだ、生きてる方がマシだろうさ」
周りの探索者の言い分に内心で頷くミク。正しい事をするのは構わないが、潰されない為と反撃する力は必要なのだ。それが無ければ唯の妄想であり、奴隷にされたり殺されるのがオチだろう。
そんな事は人間種の世界では当たり前なのだし、だからこそ絶対に負けない自分がこの星に降ろされたのだ。にも関わらず大した力の無い者が吠えたところで意味は無い。
ミクとしては仲間の女性達の方が心配であり、報復として、とばっちりを喰う可能性が高いと思っている。愚か者に巻き込まれる事が無ければいいなと思うが、だからといって助けてやる気も無い。
レティーとそんな会話をしつつダンジョンを出たミクは、宿に戻って食堂へ。大銅貨1枚を支払って昼食を頼むと、何故か目の前にイリュが来た。なので大銅貨1枚と中銅貨1枚を払ってイリュの分も追加する。
「イリュが来るって事は何かあったの? 私の方は特に無かったけど」
「昨夜、カムラ帝国の作った闇ギルドを襲撃するって言ってたじゃない、<スワームル雑貨店>が拠点の組織。今日、王都守備兵の連中が走り回ってたんだけど、何でも女性兵士の部屋に証拠書類が置かれていたらしいわよ?」
「へえ……不思議な事もあるもんだね。誰かが親切にも届けてくれたのかな?」
「……ハッキリと聞くわ、何でそんな事をしたの? 秘密裏に潰しても良かったわよね?」
「そうすると、新型の毒の情報をこの国が把握しない恐れがある。昨日の夜の話で、証拠となる壊れた奴を食べたって話したよね。代わりに証拠書類があれば、その証拠になると思ってさ。ついでにあの女性兵士とは。ゴールダームに来た初日に話した事があったし」
「成る程。新型の毒の話は、国に知らせておく必要があると思った訳ね?」
「そう。それに初日に会った女性兵士は、侯爵家の三女だって言ってたしね。爵位的にも動くだろうという予想もしてた。侯爵家の者が解決したなら悪い話じゃないでしょ?」
「まあ、オルハウル侯爵家は私も伝手がある貴族だけどね。この話は……しない方が良いわね。問われても知らぬ存ぜぬか、それとも触りだけを話すくらいで済ませるわ」
「私はどっちでもいいよ」
「なら、それで決まりね。あそこの三女は正義感があるけど先走らないという、優秀な子なのよ。それ故に悩むんでしょうけど」
「ふーん」
それを聞き、あの時の女性兵士の評価を上方修正するミクだった。




