0044・探索者ギルドと傭兵ギルド
報酬が大銀貨1枚だったのは特に変な事ではないようだ。なので、その理由をミクは聞く事にした。
「ある程度の敵を倒すとはいえ、護衛依頼というのは基本的に守るべき方の命を守るのが仕事です。内容がどれほど過酷なものになっても、報酬は依頼者が増やそうとしない限り増えません。だから嫌われてるんですよ」
「成る程ねえ。依頼者が報酬を増やすなんてあり得ないし、どんな過酷な仕事になるかも分からない。だから護衛依頼なんかがあっても誰も請けない、と」
「それが傭兵ギルドなら違っていて、ちゃんと交渉しないと2度と仕事を請けてもらえなくなりますからね。だからこそ依頼者も内容に沿って報酬を増やしたりするんですけど……」
「探索者ギルドはしない?」
「しないというより、護衛の仕事は傭兵ギルドの本分ですからね。そちらに関わろうとはしません。言うなれば、探索者ギルドは傭兵ギルドの縄張りには踏み込みませんよ、という事になります。向こうもダンジョン攻略や魔物退治には口を挟んできませんし」
「ようするに、お互いの領域に踏み込んだりしない訳だ。まあ、普通というか、衝突しない為には当たり前といったところかな。仮にぶつかっても、何の得も無いだろうし」
「そうですね。ですから一応依頼があれば貼り出しますが、探索者ギルドにある護衛依頼は全て訳アリです。気をつけて下さい。本来なら請けようとする方には説明するんですが、今回は突発でしたので……」
「説明する暇も無ければ、私はゴールダームに帰ってくる途中だったしね。どうにもならない状況だった」
「ええ。ですので、これからは気をつけて下さい」
そこで話は終わったので、ミクはギルドを出てダンジョンに向かう。その途中、少々慌ただしそうに兵士が走り回っているのが見えた。ここは中央区画だが、もしかしたら昨日の<黒の右手>の事だろうか?。
そんな事を思いつつもスルーしたミクは、第3エリアへのショートカット魔法陣に乗り、ダンジョンへと進入する。目的は不良探索者や迷賊に工作員だ。
1階から順番にと思っていると、早速ゴブリンが現れた。特に興味の無いミクは三角錐の槍で胴体を突き、十分な傷を与えたら放置する。どのみち苦しんで死ぬだろうし、ゴブリンがどんな死に方をするかなど興味も無い。
人間種ならば可哀想という気持ちも湧くのかもしれないが、ミクは肉塊であり怪物である。むしろ人間種の悲鳴をBGMに喰らう側だ。可哀想などという感情は欠片も無い。
そんなミクは意図的に傷を与えて放置を繰り返している。ウィリウム鋼の槍の威力は素晴らしく、あっさりと必要な深さに到達すると同時にミクは抜く。そしてすぐに【生活魔法】の【清潔】で綺麗にする。
ゴブリンの死体にも素材はあり、それは心臓付近にある魔石となる。この地に降り立った頃に狼の魔物を倒して魔石を得たが、あれから売る事もせずに死蔵しているミク。
『その死蔵している魔石とやらは売ったりしないのですか?』
『今はお金も十分にあるし、わざわざ売って稼ぐ必要も無いんだよね。魔石は魔道具? とやらの燃料として使えるらしいけど、私には要らないし、持ってもいない』
『魔道具ですか……。ああ! 脳を喰った連中の中に、その知識を持つ者が居ましたね。何でも魔法を擬似的に放つ物とかがあるそうで』
『そんな物を使わなくても、自前で魔法を使えばいいのにね。もちろん、その為の魔法士部隊とかあるんだろうけど、それだけじゃ軍として強くないのかな? もしくは魔法士が多くない?』
『おそらく実際に戦える魔法士は多くないのでは? 魔法の腕を磨くのが先でしょうし、そうしていると軍人としての訓練までは難しいと思います。地味な走りこみとか、剣を振ったりするのでしょうし』
『まあ、そういうのだけじゃなくて、全体と息を合わせたりとか、盾を持って整列して防いだりとか。神どもに教えてもらったけど、色々とあるみたいだね、戦争の知識と技術は』
『そういったものも研鑽を重ねるのが人間種というものなのですね。業が深いというか、何というか……』
『獣がエサをとると考えれば分かりやすいよ。誰だって苦労なんてしたくない。だから効率よくエサを確保しようとするし、エサの側はなんとしても逃げようとする。そんなものだよ、所詮は』
『何かを喰おうという側と、喰われまいと抵抗する側、という事ですか。抵抗を許す事の無い主と比べれば、雲泥の差ですね』
『私は常に喰らう側であり、喰われる側にはならないからねえ。そのように神どもが作った存在でもある訳だし。私が逆らえない神どもは、私を喰わずに消滅させるだけだよ』
『そう考えると、喰らい合いの方がマシですか?』
『遥かにマシだよ。私からは逃げられないってイリュが言っていたけど、その私だって神どもからは逃げられないんだ。イリュやカルティクは私を圧倒的と思うんだろうけど、私と神どもにも圧倒的な差がある』
『別次元すぎて、何とも言えませんけどね』
レティーとそんな会話を続けながらも、ゴブリンを突き刺しながらウロウロしている。誰も見ていない所ではレッドアイスネークを貪り喰い、ゴブリンに指を突き刺してブラックスパイダーの出血毒を注入していく。
血が固まらず漏れ続けるゴブリンは、血が失われていくにつれ徐々に生気を失っていき、最後にはガタガタ震えながら意識を失い死んでいった。ダンジョンの魔物だが、こういうところは天然の魔物とそっくりである。
ダンジョン内に居る作られた存在でありながら、天然に生きている魔物と特に変わらない。何の為にダンジョンが生み出しているのか、何の為に無限に湧いてくるのか。ミクは聞いていないが、ちょっと疑問に思うのだった。
途中で罠を張っていたり襲ってくる賊がいたので殺し、金品を奪っていく。別の探索者に見られていたが、相手が襲ってくるところも見られていたので問題なし。まあ、ミクはワザと見せたのだが。
そんな事をしつつの3階。カルティクを発見したものの様子が少し変だった。有り体に言うと、女性探索者に絡まれている。
「そうなんですか、凄いです!」
「ははは、とりあえず静かにしてくれ。魔物が寄ってくる」
「はい! ごめんなさい!!」
「……とりあえず、君達にはまだ早い。第2エリアで十分実力をつけてから来るといい。このままでは無駄死にするだけだ」
「大丈夫です! こう見えて私達強いんですよ!!」
「申し訳ありません、すぐに連れて行きますので……! こら、静かにしなさい。失礼します」
5人組の女性探索者チームだったが、一人だけ妙に気合いの入った、だが他人の話を聞かなさそうなのが居た。何というか、自分の実力と立ち位置を理解していない感じだ。
「ミクか。見ていたなら助けてくれても良かったと思うんだが?」
「私は今3階に来たところだよ。そしたらカルティクが絡まれてるのを見つけたんだ。……何か話を全く聞きそうにない子供だったねー」
「ああいうのは、たまに居る。他人の話は聞かない、自分の思い込みだけで突っ走るタイプ。そして仲間を巻き込んで全員を死なせるんだ。何度もそういうのを見てきたよ」
「まあ、弱いからそうなるんだけどね」
「ミク」
「勘違いしないように。本当に強いなら、そんな味方じゃない奴は切り捨てるよ。切り捨てられないなら弱いんだ。そうとしか言えない」
「………」
「他人の死に巻き込まれるなんてバカのする事。愚か者は居なくならないけど、それを分かっていながら遠ざけられないなら、そいつも愚か者なんだよ。死が近付いているのに、切り捨てられないんだからね」
「……まあ、そうだな。自分の命や他の仲間の命まで巻き込んでやる必要などない。愚か者は愚か者だけで死なせてやるべきだ。他の者が重荷に感じる必要なんて無い……か」
カルティクにも色々あったのだろう。




