0474・軍との交渉 その2
「「「「「うっ……!」」」」」
この場にある程度のプレッシャーが広がる。と言っても、そこまでのものでは無い。なぜなら軽くしか【身体強化】をしていないからだ。そこまで大きく【身体強化】をする必要も無いし、無意味でもある。
それでも明らかに威圧を受けており、顔色があまり良くない軍人5人。コウジやセンでさえ平然としているのに軍人が影響を受けているのだから、明らかに威圧効果があると証明してしまっている。
「【身体強化】には良い悪いは関係なく、必ず威圧効果が発生する。何故なら【身体強化】は魔素を使うからだ。魔法を使うのは魔力、【身体強化】は魔素と覚えておくといい」
「そ、そうですか……。威圧の効果があるのは分かりましたが、【身体強化】というのは本当に肉体が強化されているので?」
「心配ないよ、これから証明する。……コウジ、解体に使ってる包丁を持って来てくれる? 多分それが一番分かりやすい」
「分かった」
ミクは一旦【身体強化】を止めるものの、解除された途端あからさまに「ホッ」とする軍人5人。それを見て呆れるハルカと見ないフリをしてあげるヤエ。それを見た中川大佐は何とも言えない顔をしてしまうのだった。
コウジが下りてきてリビングに戻ってきた。片手に包丁を持っているので軍人5人は若干の緊張感を持つが、別に危ない事を行う訳ではない。ミクはコウジに言い、軍人5人に包丁を調べさせる。
代表してまずは中川大佐が受け取るが、唯のステンレス包丁だと結論付けた。他の4人も極めて普通のステンレス包丁だと答え、最後に西島少尉がミクに渡す。
ミクは受け取ったステンレス包丁の刃を手の平に当てながら軽く握るようにし、そこから【身体強化】を使って力を篭めて握る。ステンレス包丁はあっと言う間に折れてひしゃげ、最後には手の形に圧縮された残骸が残った。
「証明する為とはいえ、なんて事を!!」
「別に傷も何も無いよ。所詮この程度の鈍らで私を切る事など出来はしない。それよりもこれが【身体強化】だ。証明にはなったろう?」
「そ、それは……まあ……」
「往生際が悪いねえ、素直に認めればいいものを。軍人は何でも疑えって言うが、これから魔法を教えてもらうのにさ、それも疑い続けるのかい? 本人の目の前で?」
「我々はそこまでではありませんし、そんな事を言われるのは心外ですな」
「何で私がこんな事を言ってるのかは簡単だ。スキルを使わなくても魔力を感知する事は可能なんだとミクは言う。もちろんそれだけじゃない、気配も精神も感知できるんだと。そう、人の悪意すら感知出来るそうだよ?」
「人の悪意……?」
「人は善意も悪意も持つ。交渉中に悪意が漏れるという事は、相手を騙そうとしている、または罠に嵌めようとしているという事だ。なのでそんな者とは、まともな交渉など出来る筈も無い」
「「「「「!!!」」」」」
中川大佐を初め、軍人5人はようやく精神を感知するという事の意味を理解した。場合によっては交渉すら出来ない可能性もあるのだと。これから交渉するのが誰かは知らないが、自分はもう交渉役など御免だと思うのであった。
「ダンジョンの中でも同じだよ。気配や魔力に精神を調べておけば、バカな奴等が下心を持っていてもすぐに分かる。この星でも持っているヤツは居るんじゃないかな? 【精神感知】や【精神看破】のスキルを」
「そんなスキルがあるのかい?」
「元の星では私の知り合いが持っていたよ。とある国で300年以上に渡って女将軍だった人物がさ」
「「「「「「「「「「300年!?」」」」」」」」」」
「ちょ!? そんな話、聞いてないんだけど?」
「その人物は冥狼族という珍しい種族でね、寿命は500年ほどあるんだよ。長年将軍として国を守ってきたけど、最後の最後、近衛騎士団に暗殺されて死んだんだ。軍人っていうのは大変だねえ?」
「「「「「………」」」」」
自分達が暗殺された訳ではないが、長年頑張ってきて報われたかと言うと難しい。国を守っているとはいえ、大きな何かが起きなければ軍など穀潰し扱いである。実際には何も無いのが一番な筈なのにだ。
「あんた達も大変なのは分かる。普段は役立たずだ給料泥棒だみたいに扱われ、災害の時には早く助けろ。一部のまともな人は感謝するし普段も何も言わないが、馬鹿なマスコミが何もないと槍玉に挙げて煽るからねえ。何処の国の手垢がついてるか知らないけどさ」
「「「「「………」」」」」
「他国からの工作? それとも工作員が入り込んでる? どっちにしてもよくある事。それを理解してないヤツがマヌケ。この国の民がマヌケなら、やがて飲み込まれてこの国は滅びる。マヌケの国などそんなもの」
「あまりに正論過ぎて笑えないねえ。有史以来そうやって国が滅びてきたのに、島国だったからか我が国には危機感が無い。浸透工作などされてるに決まってるのにだ。それに抗うには国民がマヌケだと無理なんだけど、マスコミ連中が悉く情報を国民に渡さないようにしてるんだよ」
「特に他国の工作員と思しき者の情報は、全くと言ってもいいほどに流しませんからな。葉月家でも怪しい者はマークしておりますし、数多くの工作員と思われる者の情報は持っております」
「他の名家の連中も変わらないさ。私達は国があっての名家だからね、国が無くなれば失われる以上は国を支える側に回る。売国奴どもとは違うんだよ、売国奴どもとはね」
「「「「「………」」」」」
軍人として口を挟む事は出来ないし話題に乗る事も出来ないが、中川大佐などはある程度の事を知っている。なので忸怩たる思いがあるのだろう、必死に表情を変えないようにしていた。
その辺りはどうでもいいとして切り捨て、ミクはこれからの話に戻す。
「この国の事はこの国の奴等が何とかすればいい。それより探索者資格がこちらに来たら軍人達の練習を始める。探索者資格がいつ来るかは知らないけど、それまでに教えてもらう者を決めておくんだね」
「ええ、そうしておきましょう。ところで魔法が使えるまでどれほど掛かりますか?」
「人による。遅い者も居れば早い者も居る。感覚的な事だから誰が上手いとかは無い。魔力関係のスキルを持つなら別だけど、そうでもなければ人によるとしか言えないよ」
「成る程。魔力関係のスキル持ちは早く使える様になると……」
「前にも聞いたけど、この国の者は本当にマヌケだよね。私なんてスキルを何1つとして持ってないけど、魔法も【身体強化】も使うし、気配も魔力も精神も感知できる。努力でどうにでもなるもので相手を見下すとか、頭が悪過ぎるだろう」
「それは……私の方からは何とも言えませんな」
「ふーん。ま、外れスキルと呼ばれてたものが外れじゃ無くなるんだから、良かったとは思うけどね。他の者よりは魔力関係においてスムーズだろうからさ。どんなスキルだって努力には勝てないという事を覚えておくといいよ」
「ええ。覚えておきましょう」
後ろの4人の軍人もどこか目に力が出てきた。おそらく軍人として訓練してきたものに意味があったと喜んでいるのだろう。冷静に考えれば分かりそうなものだが、誰かにハッキリと言ってほしかったのだろうと思われる。
こうして軍との話し合いは終わり、軍人5人は北条家を出て行った。カメラも止められ、ライブ配信も終了する。軍が帰った後、これからの事について話し合うミク達。
話し合いは1時間も無かったのだが随分と疲れたらしく、コウジ達は背伸びをしていた。




