0473・軍との交渉
「我々ならば多くの物事でサポートできます。それは民間では難しいでしょう」
「この世は金さえあれば大抵の事は可能さ。別に葉月の金でサポートしてるから問題ないね。そもそも別の星の者なんだ、こちらの常識を知らない間に丸め込まれても困るんだよ」
「それは貴女方ではありませんかな?」
「残念だったね。ミクを最初に保護したこの一家が、今もミクの生活のサポートをしている。あたし達は後からだ、だから礼儀を持って連れてったりしてないんだよ。調べもせずに急に動いたからか、脇が甘いね」
「民間以上のサポートが我々ならば出来る!」
「かわりに待っているのは勾留か監禁か……」
「我々はそんな事などしない!!」
「その証拠が何処にある、過去の日本軍は何をした? ……まさか、知らない訳じゃあるまいね?」
「………」
中川大佐は明らかに失敗を理解した。流石に経験が違いすぎるのだ。葉月グループ総帥として、多くの者と鎬を削ってきたハルカと唯の軍人では、交渉において大きな差がある。それは覆しようのない差だ。
「あの、御本人はどう思われているのでしょうか? 御本人が我々の方が良いと言われるのであれば……」
「そうだ! 最終的に決めるのは本人でなければいけない。我々はこの国の者、つまり国からのサポートを受けられます。どうですか?」
「要らないけど?」
「「「「「………」」」」」
ミクが一言でバッサリと切り捨てたからだろう。軍の5人は唖然とした顔で見ている。まさか一考の余地無く切り捨てられるとは思わなかったのだ。その顔を見てハルカは大笑いしている。ライブ配信中だが良いのだろうか?。
「はっはっはっはっはっ! いやぁ、笑わせてくれるねぇ。本当に下調べも出来てなかったとは……。もうちょっと情報ぐらいは持ってると思ったんだけど、ま、難しいか。ミクはこの家からあまり外には出ないしね」
「何が言いたいので……?」
「凄んだところで毛ほども感じないよ、坊主。お前じゃ貫禄が足りないのさ。それぐらい理解しな。……ま、説明してやると簡単な事だ。ミクは別の星の一般人じゃないんだよ。向こうでの探索者なのさ」
「「「「「探索者!?」」」」」
「そうさ。それだけじゃなく戦争にも参加経験がある。つまり、本当の意味で殺し合いをしてきた者なんだよ。そんな者が別の星に来て不安を多く持つと思うかい? 自立して生きてきたのに? ……流石にここまで言えば分かったか」
中川大佐はハルカの言葉を聞き渋い表情を露にした。自分達は保護を目的にして来たが、それは交渉において下策である事を悟ったのだ。別の星の者は自立して生きている。こういう者に対しては利害の一致に向けた交渉をしなくてはならない。
つまり何々を与えるから、何々をくれ。ギブアンドテイク、つまり相手にメリットを提示しないといけないのだ。保護は彼女のメリットにはなり得ない。中川大佐は頭がオーバーヒートするかの如く働かせ、何とかここから起死回生の一手を探す。
すると中川大佐のハコが鳴った。
「申し訳ありません。少し出させていただきます」
「上が動いたかい? これを見てりゃ動くだろうからねぇ、しかし遅い。交渉を有利に進めたきゃ、もっと早く動かないといけないんだが……。所詮は現場に居ない程度の連中だ」
「「「「………」」」」
中川大佐は少し離れて後ろを向き小声で話しているが、他の軍人達は何とも言えない顔をしている。言葉にはしないが、現場の苦労を上が理解していないのはよくある事なのだろう。
沈黙した状況が続くが、中川大佐はハコでの通話を終えて戻ってきた。
「申し訳ありません。ここからは率直に申します。貴女の欲しい物を用意する代わりに、日本国として魔法を正式に教えてもらえませんか?」
「最初からそう言っておけば問題なかったのに、現場に裁量を持たせないからこうなる。相変わらず軍の連中は交渉というものを何も理解していない。つまり、未だにバカの集まりなんだろうね。あの〝老害〟どもなんて、さっさと死ねばいいものを」
「「「「「………」」」」」
どうも何か裏がありそうだと睨むミク。軍のトップという役職は、あまり長く着けないとニュースなどで言っていた。それ自体はこの国の法律で決まっているらしいので間違いは無いだろう。となると〝老害〟とは……?。
裏で影響力を持っている連中が居る感じだろうか? だからこそハルカは早く死ねと言った。そう考えると辻褄が合う気がしているミクであった。
とりあえず思考は横に置き、ミクは要求を伝える。
「私がこの国に求めるのは探索者証だけだ。私はこの国の民でもなければ、この国の法に縛られるつもりも無い。もちろん好き勝手をするつもりはないが、私をこの国の勝手にさせるつもりなど無い」
「探索者証……ですか?」
「ミクは戸籍が無いから探索者証を取得できない。元の星でもダンジョンに行って戦って糧を得ていた探索者なんだよ。自分で生きる事など容易くできる。むしろ縛られる方が迷惑って事さ」
「それは……」
「私が元々住んでいたのはゴールダーム王国。またの名をダンジョン国家。惑星最大のダンジョンを中心にして存在する、直径20キロほどの小さな国だよ。探索者の国でもあり、他の国々から犯罪者も含めて人間種が集まる国だ」
「人間種?」
「ああ。この星には単一の人間しか居ないから分からないんだろうけど、私が居た星には人間以外にも多様な種族が居る。獣人、エルフ、ブラウンエルフ、ドワーフ、小人族、霊人族。そもそも私の仲間は元ヴァンパイア・ロードだ」
「「「「「ヴァンパイア!?」」」」」
「この星では唯の伝説の登場人物らしいが、私のいた星では普通に居る。もちろんそれらアンデッドを目の仇にする<神敵討伐隊>という組織もある。この星とは随分と違うよ」
「別の星の者となれば常識からして違う。当たり前の事だけど、相手が人間に似ていると勘違いするんだろうね。こっちの星に10日ぐらい前に来た。たった10日でここまで流暢に日本語を話すんだから、とんでもないだろう?」
「「「「「10日………」」」」」
立て続けの情報の奔流に巻き込まれ、既に軍人5人の脳はオーバーヒート寸前だ。そんな中、一旦落ち着かせる為にミクは話題を変える。
「さっきの話に戻すけど、探索者証をくれるなら魔法を教えても構わない。ただし、他の者達と一緒に教える事になる」
「それは……。動画に映っていた高校生達もという事ですか?」
「当然。元々はこっちが先に頼んできてるんだから、後回しになんてしない。それが嫌ならそちらの頼みは受けない。私にとっては探索者として依頼を請けたようなもの。依頼を請けるかどうかは探索者本人に委ねられている。それはこの国でも変わらないと聞いているけど?」
「それは、そうですが……」
中川大佐は渋い顔をするものの、ミクは心配要らないと伝える。
「お前達軍も彼ら高校生達も、私にとっては等しくお荷物でしかない。その部分は何も変わらないから心配しなくてもいいよ? どうせ面倒を見る事には変わりないし」
「それは我々を軽んじ過ぎでは?」
「言いたい事は分かるけど、言ったって無駄さ。あんた出来るかい? 首を鷲掴みにして放り投げ、空中に居る間にボコボコにする事がさ」
「は?」
「私は目の前で見たよ。ウチのが無礼を働いちまってね、一瞬で顔はボコボコになり血塗れで倒れたよ。別の星の者はね、【身体強化】というものが使えるんだ。それを使って怖ろしく速く動き、力を使えば怪力なのさ。見た目で判断すると酷い目に遭うから気をつけな」
「「「「「………」」」」」
軍人5人は疑わしそうな目で見てきたものの、ミクは面倒だからスルーした。すると、中川大佐から本当に出来るならやってみてほしいと頼まれる。
ミクは色々な意味で諦め、まあこれぐらいなら良いかと発動した。




