0472・文字と言葉の練習と、遂に来た軍
夕食の終わったコウジ達は自身の部屋に戻り、ミクはリビングに毛皮を敷く。セリオもレティーもすぐには寝転がらず、今は互いに押し合って遊んでいる。というよりセリオのパワーを受けても問題ない以上、レティーのパワーも相当であろう。
その事にミクは気付いているが、些細な事なのでスルーした。本体空間で作る物もなく、今はテレビという物を使って言語の練習をしているフリをしながら情報収集だ。
リビングのテレビを使っても構わないとリオから言われたからであり、これで言い訳を考えずに言葉の練習をしているように装える。なのでニュース番組を中心に見ながら、情報収集をメインに聞いていく。
暫くするとコウジが下りてきて、ニュース番組を視聴中のミクに言ってきた。
「ニュース番組を見てるのはいいけど、その情報を信用しないようにな」
「どういう事?」
「ニュース番組は大抵の場合、誰かの手垢が付いた情報しか流さない。つまり誰かにとって都合の良い情報、もしくはそう見ている側が受け取るように流すんだ。嘘ばかりとは言わないが、適当に謝れば済むと思っている連中が流してる情報だと思えばいい」
「………国の民を騙す? いや、誘導する為?」
「だいたいそんなもん。それが分かってるから、昨今じゃニュース番組の内容を信じるヤツなんて殆どいないよ。もし信じるとしても何があったかだけ。でもさ、それすら嘘の時もあるんだよ。そんな奴等が信用される訳がない」
「成る程。なら言葉だけ聞く」
「そうした方が良い。国民洗脳用のプロパガンダとまで言われてるからな」
麦茶を飲んだコウジはまた上に戻っていった。とはいえ前の星でも出回っている噂は玉石混交だったのだ。ミクにとっては今さらな話でもある。国が民を扇動するなど古代からある事だ、今に始まった事じゃない。
そんな風に思いながらも、ミクは言葉の練習をしているフリをする。重要なのは早く流暢に喋れるようになる事と、文字の勉強である。コンビニで買って来たノートとシャープペンシルに消しゴムを出し、ひたすら字の練習をする。
見た文字を真似るのは難しくなく、ひらがなとカタカナはすぐに覚え終わる。問題は漢字だが、これに関しては適当に覚えている風に装えばいい。教科書がある訳ではないのだから、適当にテレビで見た漢字を練習したと言い訳はたつ。
0時まで小さな音量にして練習のフリをし続け、日付が変わったら片付けて寝る。何度か繰り返せば言い訳としては十分だろう。後は目を瞑り、朝まで瞑想をするだけだ。
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それから7日。毎日ダンジョンでの狩りと言葉と文字の練習を繰り返し、今は流暢に喋っても問題は無くなった。不思議がられているものの、特に問題視はされていないだけだ。とはいえミクの書いたノートを見れば、努力の跡は分かる。
なので明らかに早いとはいえ、誰もおかしいとは指摘できない。別の星の者である以上、<ガイア>の人間を基準に語っても仕方がないからだ。というか、その理屈で上手く逃げただけである。ただ未だに漢字はランダムで覚えているフリをしているので、信憑性がない訳でもない。
そんな本日は、朝から面倒臭い事になっている。実は遂に軍が動いたのだ。適当にスルーして済ませていたのが今になって響いてきたともいえ、朝から軍の人間が北条家に来ている。が、葉月家の者も来ていた。というより、ハルカが来ているのだ。
「私は西島少尉であります。こちらは東山少尉に北海中尉、そして南雲少佐と中川大佐となります。遅れて申し訳ありませんでした」
「遅れるも何も、最初から眼中に無かったんだろう? 今さらしゃしゃり出てくるんじゃないよ。既にミクは葉月家が後ろ盾になってるんだ、軍の出る幕はもう無いね」
「我々は上から命じられているだけですので、文句は上にどうぞ」
「ではお前達の失敗も含めて上に言ってやろうかい。ミクがこの国に来たその日に軍に連絡があったのに、軍の連中は与太話だとして無視したとね。随分と世間は騒がしくなるだろうけど、誰が責任をとるのやら……?」
「「………」」
ハルカと中川大佐が睨み合っているが、軍は圧倒的に分が悪い。何故なら無視したのは間違いなく軍なのだ。それも魔法が使える人物である。本来なら国賓待遇にしてでも囲わなければいけない人物だ。周辺国が騒がしくなるのは当たり前なのだから。
そもそも軍が気付いたのは時間が経ったからではない。既に軍が最初に言っていた1週間は過ぎている。つまり、そこまで経っても軍は動かなかったのだ。ハルカが無視していたと言うのも当たり前である。
では何故軍が動いたのか? そのきっかけは動画だ。満を持してコウジが自分の動画をアップしたのである。そしてその動画の中では、ミクが魔法の使い方を指導していたのだ。誰にでも使えるように。
コウジだけではなくヤエやハルカも含めて相談し、ワザと初心者用の魔法の使い方講座を撮って流したのだ。それは大反響を呼び、そして軍は気付いたという事である。
軍としてもUFOのような与太話だと思ってしまったのは仕方がない部分がある。そんな連絡は年に何千件もあるのだ、いちいち構ってなどいられない。ただ、その中にはこういう値千金の情報もあるのである。
「あんた達の立場もあるんだろうけど、こっちとしては勝手に連れて行かれる訳にはいかないんだよ。軍が魔法の情報を秘匿するかもしれないからさ。軍ならやりかねないだろう? そんな信用は無いんだからねえ」
「我々は別の星の方だというのが事実ならば、丁重に保護するだけです」
「一昨日来な。お前達は動くべき時に動かなかったんだよ。今さらお呼びじゃないのさ。お前達だって分かってるんだろう? 軍がやろうとしてる事は、他人の上前を掻っ攫おうという事だ。そんな意地汚い事を命じられているんだからねえ」
「「「「………」」」」
「我々は別の星の方だというのが事実ならば、丁重に保護するだけです」
中川大佐は同じ文言を繰り返しているだけだが、これには理由がある。簡単に言うと、妙な言質を取られない為と何を言われるか分からないという理由から、葉月家の者がカメラを回しているのだ。それによって迂闊な事が言えなくなっている。
「苦しいねぇ、実に苦しい。カメラが回ってるからだろうけど、碌な事が言えなくなってるじゃないか。いつもなら国家権力を盾に脅してくる癖に、それが使えないとなった際の脆い事ったら無いよ」
「………他の名家の方も我慢されるとは思えませんが?」
「それはない。奴等が欲しいのは魔法の使い方であり、他の国が欲しがってるのもそれだ。むしろ日本軍は邪魔するなと思ってるだろうよ。何たって放っておいてもタダで魔法の使い方講座は流れるんだ。無理をする必要が何処にも無い。だろう?」
「………」
「自分達だけで魔法を牛耳ろうとするから、こんな事をし出すんだよ。ま、あんた達は命じられた事をするしかない訳だけど、上がマヌケだと大変だ。この段になって、まだ自分達だけの物に出来ると思ってんだからさ。1周回っておめでたいねえ」
「………」
流石にハルカの一言に思うところがあったのか、コウジもセンもリオも軍を疑いの目で見始めた。これはマズいと慌てて反論しようとする中川大佐。しかし有効な反論が頭に浮かばないのであった。




