0465・11階へ
ミクが殺戮している間、コウジとセンも5体を倒したのでレティーが血抜きをして収納。これで10万円ぐらいは行くなと喜んでいると、ユヅキが驚いたのか2人に話しかけた。
「5体で10万円という事は、1体2万円という事!? それほどのお金を払えと言うの!?」
「いえ、払えと言っている訳ではなく、解体所に持って行った際の値段ですよ。全部で1万7千円だと思ってたんですけど、解体所の人がそれは全部合わせた金額だと言ってたんです。実際に1体丸々なら値段は更に上がると」
「えぇー……そんなに稼げるの、探索者って?」
「あの、1体丸々ですよ? どれぐらい重いか分かってます? 身長が2メートル近くの人型で、あれほどの体格の良さです。確実に100キロはあるでしょう。血を抜いて重さを減らしてるって言っても重いですし、血を抜いても93キロぐらいあるんですが……」
「それが5体で465キロ。現実的な重さではありませんね。たとえオークが1階で出てきても、一日掛けて5体が限度では? それでも1日の収入が10万円となれば大きいでしょうが、とてもではないですが続けられないでしょう」
「毎回93キロの荷物を持って往復しなければいけないのです。御嬢様の仰る通り、1日5体ほどが限界ですな。とてもそれ以上を運ぶような体力はありますまい。疲れきってしまうのは目に見えております」
「しかも距離はバラバラです。長く運ばねばならないでしょうし、その間の体力の消費量を考えるに長く続けられるものではありません。しかもレティーのように血を綺麗に吸い取ってくれる訳でもないのです。もっと重いでしょう」
「1体丸々で2万円というのは安い……のかもしれませんね」
「ですがそれぐらいでなければ、買い手が付かないでしょう。唯でさえ既存の畜産業に多少の影響が出ているのです。美味しいですから高級枠で売っていますが、これが一般化するのは畜産業界が許しますまい」
「話しててもアレだから更に先に行く? この下は草原だよ」
「「「えっ!?」」」
「そういえば、そんなこと言ってたね」
「そうだな。俺も見た事ないし、行っても良いんだけど……魔物は何?」
「牛。赤い色の肌? の牛」
「アンガーブルかよ……。ダンジョン産の肉でも高級肉とされてるヤツの1つじゃん。噛み応えがある割にはジュワーって肉汁が溢れるらしいし、オークよりそっちの方が高く売れるのは間違いない」
「じゃあ、行こう!」
高く売れると言われ、ミクが喜びながら先導する。出てくるオークは頭をカチ割られるか、セリオに轢かれている。
「「えぇーーーっ!?!??!??」」 「なんと……」
「初めて見たら驚くよなー、アレは」
「あの可愛いセリオが大きくなって、魔物を轢き殺すからね。オークでさえ吹き飛ばされてるし、倒れてからピクリともしないよ」
「まあ、一撃で死ぬのは仕方ないんじゃないか? 体高4メートルのサイがぶつかってくるとなれば、オークでもどうにもならないだろ。更に今までセリオを傷つけられた魔物は居ないらしいしさ」
「ワイバーン、フレアリザード、ドラゴン。セリオ、戦ってない」
「ワイバーンとドラゴンはともかく、フレアリザードですか?」
「ドラゴンよりも小さい、ワイバーンより大きい。ブレス吐く、尻尾攻撃」
「げっ!? ドラゴンとかワイバーン以外にブレスを吐く魔物が居るのかよ!」
「ブレスだけ。もっと沢山。ボスなら、ツインヘッドフレイム、ワイバーン、フレアリザード、ドラゴン。他に見えないボス、透明トカゲ」
「えっ? 見えないボス?」
「トカゲ、似てる。舌が長い。それで攻撃。肌が景色」
「………それってカメレオンじゃねーの? こんな感じで目がグルグル回るような感じじゃなかったか?」
「そうそう。コウジ、知ってる?」
「この<ガイア>にはカメレオンっていう生き物が居るんだ。おそらくそれをボスにしたんだろうが、見えないのかよ……。シャレになんねーなー」
「景色と同化してるボスってシャレにならないって。まず、何処に居るか分からないじゃん」
「見た目、だけ。気配、魔力、精神、隠せない。盾に毒、近付いたら、舌。毒で麻痺、見える」
「えーっと、相手は舌で攻撃してくるから、気配なんかで居場所を把握して近付くと。そしたら盾に攻撃してきて毒を受け、痺れたら姿が見えるのか。本当に厄介なボスというか魔物だなぁ。おっと、階段まで来た」
コウジとセンだけでなくヤエ達も気合いを入れて下り、11階に着くと上を見上げる。どう考えても陽射しが照り付けており、風が吹く草原だ。実際にそういう地形があると聞いた事があったが、初めてなので驚く5人。
「本当にこんな地形があるんだなー……ダンジョンの中に草原だぜ? そして草原に映える赤い皮膚よ……」
コウジが見る先にはアンガーブルが居り、既にこちらを見つけたのか地面を掻いている。さあ、これから突撃するぞと言わんばかりだが、その前にミクが出た。
ミクはカイトシールドを構え、ウォーハンマーを後ろにして構えてにじり寄る。10メートル程度まで近付くと一気に走り出すアンガーブル。体高2メートル50センチ。それほどの巨体が結構な速さで走ってきたが、ミクは2メートルまで接近してきた段階で【浅穴】を使った。
突然足下に穴が出来たアンガーブルは避ける暇も無く、右足が落ち、派手に転んで吹っ飛ぶ。ミクはそこに一撃を加えて勝利。が、しかし……。
「その方法、俺達には無理だな。流石に魔法が使えないからどうにもならない。あの強力な魔物として恐れられてるアンガーブルが、高が落とし穴に破れるなんてなー……」
「落とし穴に落とせば簡単に転ぶ。それは分かりますが、いきなり落とし穴を掘るなんて普通は無理です」
「結局は魔法がちゃんと使えるようになるまで、11階から先は難しいかな? でもこのアンガーブルって美味しいの?」
「評判は物凄く良い肉だな。元々魔物の肉って家畜の肉と違う味わいがあって美味しいと言われてるけど、その中でもかなりの高級肉だから多分美味しいんじゃないか? 食べた事が無いから知らないけど」
「私はありますけど、凄く美味しいですよ。偶然にもとある場所で食べた事があります」
「へー……なら1頭だけ解体してもらって、熟成機を使ってもらおうよ。オークだって美味しかったんだから、アンガーブルはもっと美味しい筈だよ。どのみち時間が停止するアイテムバッグに入れておいたら腐らないし」
「そうだな。1頭だけウチ用に頼めるか?」
「分かった。コイツを解体する」
ミクは血抜きの終わったアンガーブルを手際よく解体していく。牛系の魔物なんてどれも似たりよったりだし、食える肉の部位ぐらいは分かっている。そんな部位を抜き出し、ミクはアイテムバッグに仕舞う。
以降はミクが【浅穴】を使う形で戦わせる。自分達で出来ないので怖いのだろうが、それでもミクはやらせた。文句は多少出たものの、重要な事なのでやらせたのだ。少なくとも嫌がらせなどではない。
『魔法が使えても使えなくても、あの突進を前に我慢する事に変わりはない。それだけの胆力が必要な以上は慣れさせる。怖くて出来ませんとなれば、そもそも魔法に集中出来ない。魔法が発動しなければ轢き殺される』
「「「「「………」」」」」
魔法を使ってもらっている為、魔法が失敗する事もあるのだという事を、どうやら忘れていたらしい。今、思い出したと言わんばかりの顔をしている。




