0043・闇ギルド・黒の右手
話は終わり2人はミクの部屋を出た。部屋に鍵を掛けると、ミクはレティーを転送して蜘蛛の姿になり、窓から外へと出て行く。これから闇ギルドの一つを潰しに行く訳だが、そこまで時間は掛からないだろう。
レティーの話では<黒の右手>というのはカムラの精鋭がメンバーらしく、代わりに人数はそこまで多くないらしい。当然といえば当然なのかもしれないが、人数が増えれば増えただけ、バレる確率は上がる。
少数精鋭の方が、情報の秘匿は上手くいくだろう。どのみち<黒の右手>という連中が行っているのが、世論操作や撹乱系らしいので、闇ギルドというより工作機関の方が正しい、
ミクは南東区画にある<スワームル雑貨店>に侵入するも、中には誰もいないので外に出る。次に裏にある家へと行くと、複数の者がまだ起きているようだった。その部屋へとミクは侵入する。
「本国から来ていた連中はどこへ行った? 地下道が壊れた夜から行方不明だが」
「分からん。何処かで殺されたのかもしれんし、もしかしたら撤退したのかもしれない。不測の事態が起きた可能性は十分にある」
「本国から支援しろとの命令だったが、あんな異常者どもの支援をせねばならんとは……」
「それを言うな。全員が同じ事を思っている。新しい毒薬というが、そもそもどうして毒と自白剤を一緒にしようと思ったのだ? 薬なぞ危険な物だ、普通は安定している物を使うだろう。我らが使う毒もそうだぞ」
「普通はと自分で言ってるじゃないか。奴等は普通ではないという事だ。そもそも毒と自白剤を一緒にして良いトコ取りなど、毒という物を舐めているとしか思えん。そんな不安定な物が現場で使えるか」
「奴等は本国の名ばかりな実行部隊だ。我らのように前線で暗躍する本当の実行部隊ではない。所詮はお飾り連中だからな」
「貴族から金を毟るには仕方ないのだろうが、役に立たん連中が来て無駄に引っ掻き回すとは。本当に碌でもない連中だ。よく上も許可を出したな、あんな連中に」
「上も貴族と金には弱いんだろ。オレ達には碌な支援もしない癖にな。雑貨屋だって、あそこまで大きくするのには相当の苦労をしたんだぞ。当たり前のように売り上げを寄越せと言ってきやがる」
「奴等は下っ端にまで群がるクソだな。組織が腐敗しちまってるし、いつかおかしな事になるぞ」
男達は酒を飲みながら愚痴を言っているが、これ以上は聞いても仕方ないので、肉で包んで全員を転送する。次に家の中を散策するのだが、金銭には手をつけない。できれば行方不明という形になってほしいからだ。
金銭を奪うと物盗りの犯行と思われてしまう。兵士などに見つかる前に奪っていく奴が居るかもしれないが、おそらくその可能性は低いだろう。今は家捜しの最中だが、この家の中に証拠となる紙はいくつもあった。
カムラ本国からの命令書や、毒の実験に関してのレポートも。どうやら実験部隊の連中は、ここを拠点にしていたらしい。レティーから情報が届き、その情報を元に<黒の右手>の構成員を全員喰らっていく。
全てを喰らってから証拠を集め、レティーからの情報も突き合わせた結果、これ以上は無いと判断。ミクは外に出てピーバードになると、少し町から離れる。
一定以上離れたらゴブリンの姿になって穴を掘り、穴の中に糞と尿を全て捨てる。後は穴を埋め戻し、もう一度ピーバードになって町に戻った。汚い物をずっと置いておくのもイヤなので、当然の処理ではある。
町に戻ったミクは小さな蜘蛛の姿になり、門の近くにある兵士の宿舎に行くと、侯爵家の女性の部屋を探す。初日にあった侯爵家の三女、リリエなのだが……。
「スゥ……スゥ……スゥ………」
少し時間が掛かったものの発見。ミクは彼女の部屋の中に<黒の右手>のアジトで手に入れた証拠書類を置き、そして部屋を出た。善人であると同時に侯爵家の彼女なら、邪魔されずに調べられるだろう。
侯爵家の手柄にもなるので邪魔はすまい。なので、これでミクのやるべき事は終了だ。ようやく帰ってゆっくり出来る。そう思いながら、さっさと宿の上の屋根まで飛んだ。
蜘蛛の姿になって部屋に戻り、美女の姿になると下着を着ける。後はレティーをこちらに転送し、ベッドに寝転がって目を閉じるのだった。
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翌日。ミクは朝起きて準備を整え、食堂に行って大銅貨1枚を支払い朝食を食べる。その後、探索者ギルドに行き中に入ると、適当に椅子に座って待つ。何故かというと、昨日の騎士と待ち合わせをしているからだ。
今回のジャンダルコ第三王女の訪問は国としての正式なものであり、王城に部屋が用意されているそうだ。当然、簡単に町に出られる立場でも状況でもない為、昨日の依頼と報酬は今日の朝に決まっていた。
昨日、町の門で別れる前に話は終わっており、今日の朝に騎士が探索者ギルド内に来る予定なのだ。だから大人しく待っているのだが、騎士がギルドに来る気配は無い。王族の護衛だから離れられないのだろうか?。
そんな事を思っていると、ギルドの外が騒がしくなった。その少し後で入り口の扉が開き、昨日の騎士が中へと入ってくる。周りの連中は敵意が無いものの、訝し気に見ているようだ。
「……むっ、そこか。すまないが、あまり時間がとれない。昨日の依頼の精算をさっさと済ませたいのだが?」
「それで問題無い。こっちとしても、いちいち拘束されるのは困る。さっさと済ませてダンジョンに行きたい」
そう返事をし、2人で受付嬢の所に行く。そして事情を話したところ、受付では対応不能という事で、ギルドマスターの部屋に案内される事に。
そして現在、ギルドマスターのラーディオンに昨日あった事を説明している。
「昨日、お前さんが馬車の護衛をねえ……。そしてその依頼があった事を今日説明しなきゃならんと。まあ、想像できる事は沢山あるし、こっちから首を突っ込みたくないんで聞かないけどな。それは受理しよう」
「妙に回りくどい言い方をするな? はっきりと言えば良いと思うが?」
「なら言おうか? ワシは権力が嫌いでな。探索者は荒くれのアホどもだが、それでもワシの守らなきゃならん連中だ。そいつらを下らん争いに巻き込まんでくれ、迷惑なんでな」
「………」
「………」
「そんなのはどうでもいい。私は依頼を熟した、報酬を受け取った。それで終わり。これ以上は何の関わりも無い」
「お前さんはそうだろうし、それでいい。ただ、権力者というのは面倒でな、役に立つ奴が居れば無理矢理に引き抜いて使おうとしやがる。探索者をしていれば生きられた筈が、下らん争いに巻き込まれて命を落とす。そんな事がよくあるのだ」
「別にそういう事ばかりではない」
「なら何で護衛の騎士が、あんた一人なんだ? ……何を驚いているのか知らんが、その程度の情報ぐらいワシの所にも入ってくる。そもそもミクに依頼をしている事自体が、下らん争いに巻き込んでいる証だ」
「………全て終わったので失礼する!」
そう言って騎士はギルドマスターの部屋を出て行った。ミクからすればギルドマスターは釘を刺したような形だ。お前らの都合に探索者を巻き込むなと、そう言っているのだが、騎士の側からすれば主の命が第一となる。
よって探索者というのは主の命を守る為の捨て駒のようなものだ。そこの部分で探索者ギルドのギルドマスターと、国に仕える騎士の折り合いは絶対につかない。ギルドマスターとしては牽制するのが当たり前の事でもある。
ミクはラーディオンが書いた紙を持って受付に行き、手続きをしてもらって報酬を得る。その報酬は大銀貨1枚だった。
これを多いと見るか、少ないと見るかは微妙だが、護衛依頼と考えれば間違っていないようである。




