0457・場所を変えての話し合い その2
『魔法を教える事については分かったけど、学んで己の血肉に出来るかは本人次第だ。確実にと言われても困るよ。コウジやセンにも教えてるけど、結局のところは本人次第でしかない』
「それは当然だろうさ。どれだけ学ばせたところで、本人にやる気がなきゃ身につかない。その時は本人がその程度と思って諦めるよ。それより、大型トラックを派遣するから帰りに積んでくれないかい?」
『どういう事?』
「ああ、すまない。えーっと、大きな荷物を沢山積める車を北条家に向かわせるから、八重が帰る際に、その大きな車に魔物を載せておいてくれって事さ。早ければ次の日に八重に売り上げを渡すよ」
「それって良いんですか?」
「普通は駄目さ。でも私有地ダンジョンに限っては認められてるんだよ。なぜなら会社の私有地にダンジョンがある場合もある。その場合は自分の会社や他社に売っても構わないと決まってるんだよ。それは個人も含まれている」
「つまり個人の私有地ダンジョンから出た物は、会社に売っても構わないんだ。知らなかった」
「まあ、一般人が知る必要は無いからねえ。今回の場合は葉月家が間に挟まって運送するってだけだ。売る相手は葉月グループの系列会社なんだからね。何ら問題は無い」
「成る程。でも良いんですか? タダで運んでもらっても」
「それは問題ないね。八重に魔法を教えてもらうんだ、その程度は大した事でも何でも無い。ついでにこっちにもメリットがある。どんな物があるか知らないが、ダンジョン内の魔物は均等に売られていてね、然程の量は手に入らないんだよ。どこの社だって欲しがってるのさ」
「そうだったんだ」
「しかも解体されちまうからね。丸々1匹が手に入るなんて、なかなか無いんだ。それが手に入るっていうチャンスで動かないのは、唯の愚か者としか言えないよ」
そんな話を聞きつつ、ミクはセリオに干し肉を食べさせている。テーブルの上で一心不乱に食べていたセリオも、気が付くと同時に自分が注目されている事を知った。
『なに? 何かあったの? 色んな人が僕をジッと見てるけど』
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
セリオが喋るとは思わなかったのだろう。ヤエ達だけでなくハルカまで驚いている。流石に<ガイア>には喋る魔物は居ないので驚くのは当然なのだが、「前の星でも驚かれる事なんだよねー」とミクは暢気に考えていた。
「まさかこんな小さな生き物が言葉を喋るなんてねぇ。益々ミクが別の星の者なんだと分かるよ。あり得ないから……って、よく考えたらバッグの上のそれは?」
『レティーのこと? レティーはブラッドスライム、だと思う。元々はブラッドスライムだったんだけど、今は何に変わってても不思議じゃないからねえ。種族が何かは不明かな? セリオもそうだけど』
「どういう事でしょうか?」
『いや、簡単な事でね。この2匹は色々な魔物を食ってきてるんだよ。特に大きかったのはドラゴンで、何かしらの強化が為されている可能性が高い。ドラゴンの血や肉を食い終わった後で、体に力が漲るとか言ってたし』
「ドラゴンを食べるというのも、よくよく考えると凄い言葉ですよね……」
ヤエがそう言うので、ミクは干し肉を取り出してヤエに渡す。ヤエはキョトンとしているが、近くのコウジが説明する。
「ミクが持っている干し肉はドラゴンの干し肉なんだ。それを食べてみれば分かるけど、一心不乱に食べてしまうから注意してくれ。ドラゴン肉って怖ろしいんだよ、美味し過ぎて」
「おっと、私にもかい? 助かるけど、いいのかねえ。……ま、とりあえずいただこうか」
「いただきます」
「どれだけのお金持ちでも、どれだけの権力者でも食べられない物だもんねー。そして、こうなると」
「なるんだなー。金持ちの人って良い物食ってるんだと思うけど、それでもドラゴン肉に匹敵する肉は無理なのか。何故か一心不乱に食べてしまう肉だし、訳が分からない」
『私の仲間であった、元ヴァンパイア・ロードのアレッサは、<お肉界の凶器>と呼んでたね。ドラゴンの肉の事を』
「<お肉界の凶器>……。まあ、分からなくもない。誰でもああなるんだしなー」
「「………」」
そこには一心不乱に干し肉を貪るヤエとハルカが居た。正に一心不乱というしかない程に、目の焦点が合っていないのだ。全神経を集中させて、肉を喰う事しかしていない。傍から見てもそう見えるほどに酷い姿である。
「………あ、れ? いったい何が……? 私は今、何をしていた?」
「………ハッ! いったい何が? あれ? 何を……してたんでしたっけ?」
「ドラゴンのお肉って本当にこうなるんだよねー。私達も初めて食べた時はこうだったし、本当に<お肉界の凶器>は正しいと思う」
「肉……そうだ! ドラゴンの干し肉ってヤツを……!? どんな味だった? 覚えていない!?」
「え、あ! 私も覚えていません! お祖母様、私も記憶にありません!!」
「食べてた記憶もうっすらとしか無いし、味の記憶も殆どない。何か凄く美味しかったような……何か漠然とした記憶だけがある」
「そう、ですか……。駄目です、私はよく分かりません。多分ですが美味しかったのだと思います」
「はい、これ」
再びミクは干し肉を取り出して2人に渡す。今度はしっかりと味わうように言い、また一心不乱に食べ始めたヤエの頭を叩く。すぐに意識を取り戻したので、もう一度意識を保つように強く言った。
「これは……とんでもなく美味しいけど、意識を保つのが大変だ。あまりの美味しさに意識を持っていかれそうになるなんてね。いや、現に1回は持っていかれたんだけども」
「これ、大変です。自分を無理矢理抑え込んで味わう事が、これほどに難しいなんて……」
「干し肉を食べるだけなのに大変なんだよな。気を抜くとすぐに持って行かれるから。本当ならセリオみたいに一心不乱に食いたいんだけど、それをすると味わえないっていう物だし」
「本当にね。あそこまででなくても、昨日食べたオーク肉は美味しかったよ。ミクが熟成機で熟成してくれたオーク肉。ただ焼いただけなのに、驚くほど美味しくてメチャクチャ食べちゃったし」
「その分ダンジョンで動けば良いんだよ。そうすれば太らないってミクも言ってたし」
『そもそも戦うというのは殺し合い。そして殺し合いでは疲れただのと言っていられない。そこまで体力を使うんだから、食べなきゃ痩せる。そのうえ【身体強化】を使うと栄養を大量に消費するから、余計に痩せるしね』
「そうなのですか!?」
『凄い速度でユヅキが反応したけど、【身体強化】はその分だけ栄養を消費するから痩せるよ。でも体の一部にだけ使うと、そこだけ痩せたり筋肉がついたりして上手くいかないだろうけどね』
「それだけ高負荷が掛かるらしいので、痩せる方法としてはお薦めできないらしいですよ?」
「ですが体全体に使えばいいだけですよね? いえ、お腹やお尻、太腿や二の腕だけに使えば……」
『1ヶ所に使うのは難しくはないけど、感覚的な事だからね。上手くいかなくても自己責任だし、戦闘方法としてはダメダメだから気をつけるように』
「どういう事だ?」
『前の星でも体の一部に【身体強化】を使うヤツは多かったんだけど、それじゃ本当の意味で使っているとは言えないんだよ。戦う技術と【身体強化】。これを正しく組み合わせた場合の答えは、全身の連動だよ』
「成る程。古今東西の戦闘術において、最も大事だとされているのが全身の連動ですな。全身が正しく力を伝える事でロスを無くし、力を何倍にも増幅する。私も多種多様な格闘技を修めておりますので、よく分かります」
「二郎衛門さんって、ただの運転手じゃなかったんだ……」
『重心や足運びを見てたら、簡単に分かるけどね?』
「どうやら知られておりましたか……。やはりお強い」
どうやらミクが気付いていた事は知っていたようだ。あの愚かな男よりも余程強いなと思うミクであった。




