0455・実験の終わり
「いったい何をするのだ!? 相手は客人であろうが! これでは葉月家が、客を呼び出して暴行するような家だと思われるではないか!!」
「ふん! 躾をしておるだけだ。異星の者だと言うのであれば、そんな野蛮な者には躾をせねばならぬであろうが! 当たり前の事だ!!」
言い合いをしている最中、ミクはゆっくりと起き上がる。傷も無ければダメージも無い。当たり前だが、この星の人間の素の能力如きで、怪物をどうにかするなど不可能である。
『さて、ようやくこちらから手を出しても良くなったね。この星は正当防衛とかいうのが必要なんでしょ? 全くいちいち面倒な星だよ。元の星なら問答無用で殺してるのにさ』
「ふん! 反応もできんゴミが調子に乗るな! 二度と舐めた口がきけぬように、その体に教え込んでやる!!」
男は近づき、今度はミドルキックを放ってきたが、ミクは肘と膝で挟んで圧し折った。いわゆるところの<交差法>と呼ばれる技だ。
「ガァァァァァァァァァ!?!!?!?」
『そんな遅い蹴りが私に通用すると思っていたとはね。あまりにも愚かに過ぎるだろう。この星の奴はこんなザコでも偉そうに出来るほどなのか、それともコイツが底抜けのマヌケなのか。果たしてどちらなのやら』
「むう、見事な<交差法>じゃな、寸分の狂いも無い。マヌケに蹴ってきた者の足を容赦なく圧し折るのといい、見事じゃ」
ミクは右足を圧し折られて喚いている男の首を正面から持ち、片手で持ち上げた。そして空中に放り投げた瞬間、凄まじいまでのプレッシャーが場を支配する。ミクが【身体強化】を使用したからだ。
そして空中に放り投げられた男は、「パン」という音が鳴って落ちる。その顔は血だらけで原型を留めておらず、ボコボコになっていた。あの一瞬でどれだけの回数を殴ったのか。それを理解した者達は血の気が引く。
『【身体強化】すら使えないんじゃ話にならないし、そんなこの星の者の方がザコなんだよ。私が居た星では【身体強化】など普通に使うぞ。高が素の能力しか使えない者が、何を調子に乗ってるいるのか理解が出来ないな。この程度であればすぐに死ぬのだが、随分と情けないものだ』
「そやつは元々他者を見下す部分が無いではなかったが、そこまで弱い者ではなかったのだがな。お主は強すぎる。もちろん我らこの星の者にとっては、であるが」
『何を勘違いしているのか知らないが、私が強いのではない。お前達が弱いのだ。いい加減、己らの弱さを自覚しろ』
「ふむ。その強さが当たり前なのであれば、確かに我らが弱いのだと言わざるを得んの。情けない話ではあるが武家に生まれた以上、弱さは罪よ。強くあら「おにょりぇ……」ねばならん」
ミクにボコボコにされた男が片足でフラフラしながら立ち上がり、スーツの中、脇へと手を入れた。ミクは理解出来なかったが、男が取り出したのは銃だった。
「ひねぇ!!!!」
顔がボコボコなのでまともに喋る事もできないが、男はミクに対して銃を撃つ。何故かリボルバーの拳銃だったが、それでも凶弾が6発ミクに対して撃ち込まれる。八重の悲鳴が響き、コウジやセンは愕然とする。そこまでするのか、と。
周りの男達が慌てて取り押さえるが、時、既に遅く、6発は撃たれた後だった。この凶行に流石の八重の祖母も立ち上がったが、ミクは変わらず立ったままだ。
「ミク、大丈夫か!? 何でこんな事をするんだ!? あんたら人間じゃねえよ!! 金持ってたら、有名な大名の子孫なら、何をやっても許されるのかよ!!!」
「お兄ちゃん……」
「すまぬ。まさかコヤツがここまで愚かだとは思っておらなんだ。警護用にと認められておる物を使うとは……。それよりも早く救急車じゃ! 救急車を呼べ!!」
『その必要は無いね。そもそも銃とかいうヤツの弾は私に当たってないし』
「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」
ミクは右手を開き、銃弾を床に落とす。「パラパラ」といった感じの小さい音がして、銃弾らしき物が6つ床に落ちる。唖然とした表情で見ている周りを尻目に、ミクは男へと向かう。
周りの押さえている連中に退くように言い、ミクは男に立ち上がれと言った。
『どうした、早く立て。私を殺したいのだろう? だったら早く立ち上がれ。膝立ちでも構わん。ほら、私を殺してみせろ。……どうした? 早く立て』
「………」
銃でさえも効かなかった相手である、既に男は怯えきっていた。自分が戦っても手も足も出ず、それどころか銃も効かない。どう足掻いても自分が勝てない相手なのだ。だからこそ、死んだフリのようにして逃げる事にしたのだろう。
ミクは首を正面から鷲掴みにした形で持ち上げ、再度聞く。
『どうした? 私が殺したいんだろう? さあ、立って戦え。……私はな、お前みたいなゴミを幾度となく殺してきた。何度も何度もな。闇ギルドを壊滅させたのも1つや2つではない。だからこそ、お前のようなゴミは敵わぬとみるや逃げるのもよく知っている。だから追い詰めるのだよ、こうやって』
「ぐぎゅ!!?!??!」
ミクは手を放した瞬間、股間を蹴り上げた。それは正しく股間のモノが潰れる音だったが、ミクは一切気にしていない。
『そういえば、この星では責任を取るのに小指を切り落とすのだったかな? お前のように逃げる者にはちょうど良いだろう。小指を落としておくか』
「ギャァァァァァァ!?!!??!」
ミクは素早く男の右手の小指を持つと、全力で引き千切った。【身体強化】を使わずとも簡単に引き千切れるのだ。こんな事は怪物には容易い。そして左手の小指も引き千切り、足の小指も引き千切った。
靴下の上から無理矢理だったが、ミクは引き千切った後に【生活魔法】の【血止め】を使っている。
『心配せずとも【生活魔法】の【血止め】を使ってやったからな、血が流れ出すぎて問題になる事は無いぞ。犯罪者どもなら傷口を焼いて悲鳴を上げさせるのだがな、この星ではそこまでやっていいのかが分からん。この星の者である事に感謝するんだな』
「ウググググググググ………」
「はぁ………。とりあえずだが、こやつは叩き出して送り返せ。今後は葉月家に連なる者であると口にする事は許さぬ。もしすれば、ここでの事を公にして社会的に抹殺する」
「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」
痛みに呻く男を数人の男達が腕や足を持って運んでいった。その隙にミクは悪意を減少させ、元の悪意ぐらいに減らしておく。これで今後は普通に戻るだろう。実験結果としては上々である。
再び一番偉い者が座る場に座った八重の祖母は、頭を掻きつつ再び溜息を吐いた。そして深々と土下座のように頭を下げて謝罪する。
「まことに申し訳ない。まさか、あやつがあれ程に愚かとは思わなんだ。葉月の家に取り入ろうとする者は多い、それ故にある程度は本物かを選別せねばならん。本来なら多少の魔法を見せてもらう事で終わった筈なのだが……」
『ハヅキとかいう家の名前で、私が素直に魔法を使うとでも思ったんだろうね。バカバカしい。私の元の仲間にはティアが居たんだ。正式な名は、テイメリア・フェルス・ゴールダーム。ゴールダーム王国の第三王女だよ』
「えっ? ミクって王女様と知り合いだったの!?」
『知り合いという意味ならゴールダームの王も知り合いに入るよ。そもそも王太子から依頼を請けた事もあるしね。高々有力な家でしょ? 言うなれば貴族みたいなものなんだろうけど、何で私が貴族如きのいう事を聞かなきゃならないんだか。ゴールダームでも幾つかの貴族家を潰してきたのが私なんだけどね?』
「知らなかったけど、予想以上に凄い人物だったんだ……。そういえば、ミクの事って全然聞いた事がなかったね?」
話せない事も多いしどうするかと思っていたら、頭を上げた八重の祖母が、話ならば別の部屋に行ってしようと提案してきた。
どうやらここは来客に圧力を掛ける為の広間だったらしい。圧力と言っても、国で言えば謁見の間みたいなものだそうだ。
ミクは移動の間に何を話すかを決めつつ、後ろをついていくのであった。




