0454・葉月家本邸にて
Side:北条光時
頼んだ昼食が届き、それぞれが食事をとった後、改めて話し合いとなった。その間に葉室さんが葉月家に連絡し、別の星の人が居ると伝えてしまった。それはもう諦めるが、何故か俺達が行く事になってしまったのだ。
何処にって? 葉月家だよ。何でこんな事になったのかサッパリ意味不明だけど、何故か大奥様とかいう人に連れてくるように言われたらしい。金持ちの家なんて気が重いよ。
「気が重いかもしれませんが諦めて下さい。私でさえ、お祖母様の所へ行くのは気が重いのです。お祖母様が居られるのは本家の本邸でして、武家屋敷なのです。昔からあの雰囲気は怖いのですよね……」
「そんな所に呼ばれるって、かなりマズいんじゃないの? あれだよ、あれ。無礼討ちにされちゃうよ?」
「流石にそれは無いと思いたいんだけどなー。後、お前も行くんだぞ、セン」
「うぇ!? 何で! 私、関係無いじゃん。ミクとお兄ちゃんだけで行ってきなよ!」
「お前もついていく内に入ってるんだから、諦めろ。母さんは仕事があるから無理だけど、お前は数の内に入ってるの!」
「うぇぇぇぇ………」
心底嫌そうな顔をしているが、それは仕方ないだろう。だいたい金持ちの家に行くというだけで嫌なもんだ。格式だ形式だと、いちいち面倒な事を強要されるのだから、平民にとって良い事など何も無いんだし。
それはともかくウチの前に送迎用の車が到着したので乗り込もうか。車はハイエースだったが、連れ去られる訳じゃない……と思う。多分。
俺達は車に揺られながら、葉月家の本邸に連れて行かれるのであった。ドナドナ~。
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どこからどう見ても<ザ・武家屋敷>と言わんばかりの屋敷に到着した。近くに駐車場があるのでそこに停まり、後は徒歩で歩いていく事になるのだが大きい。驚くほど大きい敷地に足を踏み入れ、入っていく八重達。
その後ろからついていくコウジとセンとミク。ちなみにミクはいつものスタイルで、アイテムバッグの上にレティーを乗せ、セリオを抱いた姿だ。当然アイテムバッグも両方持って来ている。
武家屋敷の玄関で靴を脱ぐのだが、ミクだけはブーツをアイテムバッグに収納してからついていく。そもそもミクの履いているのはドラゴン皮と鱗のブーツなのだ。置いていって盗まれるなどあってはならない。
そのまま後ろをついていき、大きな広間へと案内された。乾燥した植物の茎を編んだ丸い物が置いてあり、そこに正座していく面々。ミクだけは胡坐を掻いているが、周りに居る者達は視線を送っているだけで何も言わない。
広間の中には左右に人が並んでおり、一番奥に大奥様と言われる年寄りが座っていた。体は年寄りだが眼光鋭く、こちらを値踏みしているようだ。ミクは内心で「面倒な奴等だ」としか思っていない。
「お祖母様。八重、まかりこしまして御座います」
「うむ。……ところで、そちらがか?」
「はい。私が使わせていただくダンジョンの持ち主でありクラスメイトである、北条光時殿と、その妹である北条仙理殿です」
「そしてその後ろに居るのが異星の者か。……ふむ。魔法というものを見せてくれんかの?」
『魔法を見せろって、また大雑把な話だ。何の魔法かは指定してほしいものだね。何だったら辺り一面を焼き尽くす魔法でもいいけど?』
「「「「「「「「「「なに!?」」」」」」」」」」
「座れ!」
周りに居た者達が突然立ち上がるが、鶴の一声で全員が座る。しかし明らかに悪意がミクに対して向かうようになった。しかしその悪意を受けて、それを鼻で笑うミク。殺し合いの中で飛ぶ殺気と殺意に比べれば、あまりに弱く下らないものでしかない。
「確かにただ魔法と言ったところで、どの魔法だと問われるのは当然であろうな。使える者にとってはその程度なのであろう。しかしこちらは魔法というものをそもそも知らんのだ、魔法と言うしかないのだよ」
『お前達の事など知らないね。そもそも人を呼びつけて魔法を使えなどという、礼儀も無い奴等に対する愛想など、私は持ち合わせていないよ』
「貴様ぁっ!!」
「座れ」
「くっ……!」
ミクにとっては目の前の事は茶番である。何故なら一番忠誠が高そうなヤツ。つまり一番ミクに対して悪意を向けていたヤツの悪意を増大させたからだ。そう、<悪の神>の権能の一部を使ったのである。
後で戻しておけば違和感も持たれまいと思い、都合の良い実験場として利用する事にしたのだ。この場を。
「確かに魔法というのは凄いのかもしれぬ。しかしそれより速く命を失う事もあり得るのだが、そういう危険には接して来なかったのかな?」
『どうしてもこちらを侮りたいようだけど、寝ている最中に襲われた事も、戦争に参加した事もあるよ。むしろお前達こそした事があるのか? 本当の殺し合いを』
「む……確かにこの平和な日本において、人と人との殺し合いというのはまず起きん。その可能性が最も高いのがダンジョンとなる。あそこは1種の無法地帯。死体ですら10分で消える故にな」
『私が言っているのはそういう事じゃない。そもそもそういう意味では、私が元居た星には闇ギルドがある。ダンジョン内で人を罠に嵌め、そいつらを拉致して奴隷として売るような連中が』
「ふんっ、下種な奴等だ」
『へえ、この国には下種な奴等が居ないのか。さぞ、素晴らしい国なんだねえ……』
「愚かな者など何処の国にも居る。他国を見下すは野蛮な者のする事よ。いい加減、口を慎まぬか」
「ハッ……」
忠義が篤いのかは知らないが、悪意を増大させるには都合の良いヤツだ。内心でそうほくそ笑みながらも、表には出さないミク。不自然にならないように少しずつ増加させているので、時間が掛かっている。
なかなか一気に増加させられない状況も楽しみつつ、話を続けていく。
『例えばだ。こういう炎を出したところで、お前達はフェイクだとかマジック? だとか言うのだろう? だったら何を証拠にして魔法だとする? 魔法を知らないお前達が、どうやって魔法だと定義するのか不思議で仕方がない』
「それならば問題ない。ダンジョンのスタンピードを予想する為に、魔力計と呼ばれる物は既にある。魔法なのだ、魔力を使っている筈だからの。それを使って調べればよい。して、どうなのだ?」
「ハッ。先ほどからハッキリと魔力計に魔力が観測できております。あれは間違いなく魔法かと……」
「ふむ。どうやら魔法が使えるのは事実らしいの」
「しかし、あんな程度のものでは何の役にも立たぬのでは? 必要とはとても思えませぬ。そもそも葉月家に対して要求するなど論外でございましょう!」
「それを決めるのは私であり、お前ではない」
「しかし! あんな者など、適当に端金でも渡せば尻尾を振るに決まっております! その程度で十分でしょう!」
流石にこの言葉にはコウジもセンも不快な顔を露にした。やはり金持ちなんてこんな者かと思い、碌な者ではないと思ったようだ。それも当然であろう、明らかに他人を見下した態度なのだから。
幾らミクが悪意を増大させたとはいえ、あれは偽らざる本人の本音である。幾ら悪意を増加させても、本人の思考を捻じ曲げる事などできない。正しくはそういった権能は使えるようになってはいないのだ。
「私にお任せを! すぐにこの女の化けの皮を剥いでやりましょうぞ!!」
40代ほどに見える男は突然立ち上がり、ミクに近付くや蹴り飛ばした。当然、ミクは吹っ飛び、片方の端に居た者達の列に突っ込む。
「ふん! 所詮は口だけの者が! 葉月家に対し要求など出しおって。ゴミはゴミらしく叩き出してくれるわ!!」
男はミクが吹っ飛んだからか饒舌に吠えている。怪物がほくそ笑んでいる事も知らず……。




