0452・最悪の展開
翌日。今日は月曜日という日で、コウジとセンは高校という学び舎に行かなくてはいけないらしい。ミクはある程度のお金を稼いだので無理をする必要はなく、今日は庭のダンジョンの間引きを行う。
こちらのダンジョンもスタンピードが起こるのは同じで、それ故に探索者を雇うか迷っていたそうだ。私有地にあるダンジョンは、その土地の所有者が責任を持たなくてはいけない。その為、ダンジョンコアを破壊する探索者を雇わなければいけないのだ。
結構な費用が掛かるらしく、それも含めてコウジがダンジョンに潜っていたらしい。今はミクが居るのでスタンピードの心配は無く、いつでもコアが破壊できる状態だ。よって北条家の誰も心配をしていない。
その事もあり、ミクはダンジョンの深層まで間引きをする事にした。ついでに軽くて高く売れる物も見繕ってくる事に決まる。
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Side:北条光時
今日は終業式なんで昼までには終わる。2年の夏はこれからだが、今年はダンジョンと魔法で夏の予定は埋まった。……っていうか、軍の人達が放り出した御蔭で、俺は魔法を使えるようになったしな。
あの時は軍の対応に少し怒ったけど、今では感謝してる。もしミクが連れて行かれてたら、絶対に魔法が使えるようにはならなかっただろう。適度にクラスメイトと話しつつ、ボロが出ないように言葉を選ぶ。
今日1日の辛抱だからいいけど、ずっと黙ってなきゃいけないなら大変な事になってただろう。ずっと黙っていられるとは思えないしさ、俺の性格なら。
終業式も終わったので、すぐに帰ろうかと思ったら、友人の三太が声をかけて来た。サンタと呼ばれてるが、本名は三田三太という名前だ。
「サンタ、どうかしたのか?」
「ミツ、せっかく終業式も終わったんだしさ、皆でカラオケ行かね? 既に集まるメンバーも決まってるしさ、あの藤野さんも来るんだぜ!」
「あー、すまん。俺は家に帰ってやる事あるから、断らざるを得ん」
「ダンジョンか? そろそろ金も溜まっただろうし探索者を雇ったらどうだ? 探索者協会に言えば、まともな人を紹介してもらえるだろ」
「簡単に言うなよ。1日で1人5万だぞ? 6人パーティーで来るんだから、1日30万なんだ。しかも何日掛かるかも分からない。とても払えるような金額じゃねえよ。だから俺が潜って間引きしてるんだ」
「お、おぅ、すまん。……しっかし、そんなにするのかよ。知らなかった」
「だから申し訳ないが、帰らせてくれ。流石に放っておく訳にはいかない」
「分かった。他の奴等にもそう言っておくよ」
「悪い。頼んだ」
サンタは悪い奴じゃないんだが、お調子者でよく失敗する。まあ、あの口の軽さじゃ失敗しても仕方ないとは思うけどな。そう思いつつ靴を履き替えていると、隣から声を掛けられた。
「少し、宜しいですか?」
「え? あ、ああ。なに?」
声をかけて来たのは葉月さんか。というか、この人は葉月家の御令嬢なのに、なんでウチみたいな平凡な高校に通ってるんだ? 聞いちゃいけない事っぽいから聞かないけどさ。
「実は、少々相談したい事がありまして……車の中で話させていただいても良いですか?」
「え? ああ、はい」
そういえば葉月さんって、毎日車で通ってるんだったな。お付きのメイドさんみたいな人と、眼光鋭いドライバーの人と。怖そうな人達だが、仕方ないと諦めよう。
俺は葉月さんと一緒に車に乗せてもらったが、これって確かクラウンとか言うんだっけ? 高価な車って居心地が悪いな。とにかく話を聞こう。
「あの、葉月さん。それで話というのは……」
「えっとですね……。その、北条君の家には、庭にダンジョンがあるんですよね?」
「うん、そうだけど……。それが話?」
「ええっと、私有地にあるダンジョンは、その私有地の方の物である。その責任も私有地の者が背負う。でしたよね?」
「そう。だから俺が間引きしてるんだけど……。ごめん、話が分からない」
「御嬢様、ここからは私が。……私は御嬢様のお付きをしている、葉室と申します。葉月家の分家の者でございます」
「あ、はい。俺は北条光時です」
「ええ、存じております。御嬢様は北条家にあるダンジョンを使わせてほしいという事を、頼まれようとされていたのです」
「ウチのダンジョンを、ですか? その、いったい何に使われる気でしょうか。変な実験とかされても困りますし、近所迷惑も困るのですが……」
「そのような事は致しません。現在、大奥様より御嬢様にとある命が下っております。それが、ダンジョンに行ってある程度の実力を手に入れる事です。元々葉月家は有力な武家の一家であり、かつての大名家であった事はご存知ですね?」
「ええ、まあ。中学の歴史で学ぶくらい有名な家ですので……。ちょっと待って、もしかして!」
「はい。「武家の血を引いたる者は戦えて当たり前である。女子とて戦えねば、葉月の恥じゃ」と仰られまして、御嬢様も力を持つ必要ができました。しかし通常のダンジョンでは……」
「誰に襲われるか分からない……という訳ですね?」
「はい、その通りです。何れは市井のダンジョンに行かねばならないでしょう、しかし最初からそれは厳しい。という事で東京23区を調べた結果、近い所に私有地ダンジョンがあったという事です。しかもクラスメイトの家ですから、実に都合が良いと」
「成る程。多分断れないとは思うのですが、条件は付けられますか?」
「条件、ですか?」
途端に猛烈なプレッシャーがお付きの葉室さんだけじゃなく、運転手のお爺さんからも出始めたぞ。勘弁してくれよ、それが頼む方の態度か? 本当にこういう家の人は碌なもんじゃないな。
「お止めなさい、夕月、坂村。こちらは頼む側です。条件も聞かずに圧を掛けるとは何事ですか!」
「「申し訳ございません」」
「あー、ええっと、条件というのはですね。見たり聞いたりした事を口外しないでほしいんですよ」
「見たり聞いたりした事を、口外しない?」
「ええ。ウチの母親は作家をしていたりしますから、そういった情報に触れるかもしれません。ですので口外しないようにお願いしたいんです」
「北恋様ですからね、それはお墓まで持っていきます! 他人に漏らすなんて勿体ない事は致しません!!」
「あ、はい。ソウデスカ……」
北恋というのは母さんの作家名だ。正確には北条恋慕という名前で作家をやっているんだが、普通のファンと激烈なファンが居る。俺は母さんの書いた物なので読まないが、ファンタジーの恋愛物ばかり書いている、らしい。
なので余計に読まないのだが、まさか葉月さんが母さんのファンだったとは……。
「申し訳ありませんでした。確かに作家の方の家の庭という事は、何かの情報に触れる恐れはありますので、懸念されるのは分かります。特に北恋様……ゴホン! 北条恋慕様では、情報漏れを心配されるのは当然でしょう」
葉室さん、アンタもか!? 20歳ぐらいだと思うが、その歳なら卒業するもんじゃないの? 違うのか? まあ、認めてくれるなら良いんだけどさ。
俺としては母さんの事よりもミクの事だ。違う星の人が居るなんて事がバレたら絶対にマズい。少なくとも今日からって事は無いだろうが、明日からどうするかな?。
ここで断ると疑問に思われて調べられるかもしれない。だから断らなかったんだけど……失敗だったろうか?。
「ダンジョンに潜るとして、装備などは大丈夫ですか? いつから始められるかは知りませんが……」
「問題なく揃えてあります。本日は北恋様に明日からダンジョンを使わせて頂きたいと、御挨拶に伺うくらいです。ええ、挨拶はとても大事ですので」
「ええ、御嬢様。御挨拶に伺うのは当然の事でございます!」
「………」
あんたら母さんに会いたいだけだろ! 俺の心境は今、運転手のお爺さんと絶対に一緒だ。それよりもマズい、家の中にミクが居る事がバレる可能性が高い。
っていうか、何でこんな事になるんだ。お願いだからミクはダンジョンの中に居てくれ!! 頼む!!。




