0451・魔法を使う
車が帰ってきた音がしたタイミングで、北条家のリビングで魔力循環の練習をしていたセンは集中力を失くす。どうやら上手くいかない事には集中力を発揮できないタイプらしい。
こういう者は、上手くいっている時に猛烈な集中力を発揮するタイプなので、それはそれで構わない。誰しも停滞し始めると、やる気を失うというのはある。それの波が大きいだけとも言えるのだ。
リビングへと戻ってきたコウジとリオはソファーに座り、コウジが売り上げの全てをテーブルの上に置く。その金額は17万9千800円である。それを半分にし、8万9千900円がミクの取り分だ。
「多い?」
「ああ、多い。実はオーク1体1万7千円っていうのは、合計した数字だったらしいんだ。普通は1頭丸々なんて持ち込まないんだって言われてさ、1頭丸々持ち込んだら1体2万だって言われたよ」
「えぇー!! じゃあ、あんなの倒すだけで2万も稼げるの!?」
「代わりに1頭丸々を運ぶのはメチャクチャ大変だけどな。その事で解体所の人にツッコまれたっての。妹が居るからとか誤魔化しておいたけどさ」
「私そんな怪力じゃないわよ! 変なイメージが付いたらどうするつもり!?」
「【身体強化】使う、オーク持ち上げる、普通」
「【身体強化】が出来ればオークを持ち上げる事は簡単に出来るって事か……いや、凄いパワーだな。とんでもない」
「それは良いとして、お昼どうしようかしら? 適当な物でいい?」
「いいよー。ミクも気にしないと思うし」
「なら適当に作りましょうか」
昼食に出てきたのは、朝食のような食事であった。ご飯に味噌汁、玉子焼きに焼き鮭、そして納豆と海苔。実に普通の朝食な気がするが、北条家では昼食に持ってくるらしい。
ミクが与えられた知識は一般的なものだったりするので、この家ではこういうものなんだろうと思った。食べられれば何でもいいとも言えるのだ、怪物にとっては。
「何か朝食みたいな昼食だね。飽きが来にくいっていう意味では良いと思うけど……。あと、ミクは納豆食べられるの?」
「あっ、考えてなかったわ。まあ、無理に食べなくてもいい物なんだから、食べられないなら手をつけなくていいからね」
「あ、納豆は体に良いんだが、ちょっと臭いんだ。人によっては食べられない人とか居るから、無理に食べる必要はないよ。試して駄目なら、置いといてくれればいい。俺が食うから」
「いや、私が食べるから置いといていいよ」
「試す、1度」
そう言って出汁やら芥子やらを入れて混ぜる。混ぜて混ぜて、十分に混ざったと思ったら食べてみた。確かに臭いはするものの、特にどうこうという事は無く、肉塊にとっては何の問題もなかった。
「問題、ない。もっと、臭い、ある」
「えっ、納豆より臭い物があるの? それはそれでどうなのかなと思うけど、シュールストレミングとかあるし今さらかー」
「まあな。それよりさっさと食べろ。午後からは俺も魔法の訓練するんだから、急げ、急げ」
コウジがそう言うと早く食べ終わり、ソファーの方に集まって魔力循環を始める2人。ミクはマイペースに食べ、セリオもマイペースに食べている。それを見て、何とも言えない表情をするリオ。
もうちょっと落ち着いて欲しいと思いながらも、魔法が使えるとなれば仕方のない事かとも思うのだ。自分だって魔法は使ってみたいのだし。
ミクもセリオも食事を終え、皿などの汚れをレティーに任せる。あっと言う間に綺麗にし終わったレティーは、セリオと一緒にコウジとセンの方へと行った。そして、その綺麗になった皿を見て目を輝かせるリオ。
「やはり多くの作家が書いてきた通り、スライムに任せれば食器は完璧に綺麗になる! それは現実でも間違ってなかったのね!」
何やらテンションが高いが、スルーしたミクは2人に魔力の扱いを教えていく。それを見てサッと食器を洗ったリオは、自分も魔法の練習に加わるのだった。
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「よぉし!! これが【清潔】の魔法か! 魔力の循環は難しかったけど、一度コツを掴めばそこまでじゃなかったな! それに放出は上手く出来たし。多分スキルの効果だけど、それでも魔法が初めて使えた。俺がガイアで最初の魔法使いだ!!」
「いいなー、私も魔法使いたーい」
「放出は簡単じゃないわねえ……なかなか上手く魔法陣の形に出せないわ。それにしても、魔法陣の形に魔力を放出しないと魔法が使えないなんて。……教えてもらわないと、誰も使えない筈よ」
『魔法を使うのはそこまで難しくないし、当たり前の事なんだけどね。出来る子は、小さな子供の頃から使えるよ。むしろコウジやセンの年齢なら使えて当たり前。だから練習すれば出来る』
「まあ、魔法が普通の星ならそうなんだろうな。ガイじゃ多分俺が初めてだってくらい、誰も魔法が使えない……筈」
「まあ、隠している国とかありそうだよねー。そんな国でも手探りだろうし、答えを持ってるミクが居るって、相当凄い事だよ」
「そりゃなあ。魔法の使い方から上達方法まで知ってるって「あ、できた」事だし……って、おめでとう」
「うぇー、お母さんまで出来てるじゃん! 何で私は上手くいかないわけ? 一番練習してるのに!」
「セン、循環、下手。循環、違う、【身体強化】、近い」
「どういう事?」
『魔力を体中に循環させるのが魔力循環。魔素を体中に循環させるのが【身体強化】。もちろん魔素を一部で循環させる事で、体の一部だけ強化する事は可能』
「つまり私は魔力循環じゃなくて【身体強化】をしてしまってる?」
『下手だから形になってないけど、魔素を使おうとしてる。魔素とは魔力になる前の物。体の中に魔素が取り込まれ、体の中でその人の魔力になる。つまり魔力になる前の魔素そのものを使うのが【身体強化】』
「という事は、ラノベなんかと違って【身体強化】は無限に使える?」
『無理。【身体強化】使用中は体に高負荷が掛かり疲れやすくなるのと、体の栄養を消費する。使いすぎると栄養不足に陥るし、使いすぎると簡単に痩せ細っていく』
「「痩せる!?」」
「食いつくのそこかよ……。むしろ疲れやすくなるっていうか、高負荷が掛かる事の方が大事だろ。あんまり多用できないって事じゃないか」
『だから探索者は食べ物を持ち歩いている。【身体強化】での栄養不足を補う為には、食事をとるしかない。特に栄養価の高い食事は必須』
「何だかボディビルダーみたいになりそうだな。高タンパクで低カロリーな食事……ってそれもマズいのか。カロリーって体を動かす燃料になるんだし、それも必要な筈だ」
『上手く使えば体を鍛える役に立つかもしれないけど、あまりお薦めは出来ないね。それと、魔力の循環が上手くできるようになってから、魔素の循環をしようか? まだ下手だから魔力が先。理想は魔力を一切漏らさない循環』
「とりあえず基本が上手にならないと駄目って事だな。今日1日頑張って上手くなろう。【清潔】の魔法が使えるだけで随分と違う筈だし」
「そうね。汚れが落ちる魔法なんだもの、体を洗うのも楽っていうか、魔法を使ってから洗い流すだけで綺麗になる? もしそうなら肌を痛める事無く綺麗に出来るんじゃないの?」
「魔法が万能すぎて凄すぎる件」
「それ前に言ってたろ」
そこまで魔法は万能ではないのだが、今はいいかと、そっとしておくミクであった。




