0041・ロイヤルメイドとは?
「お助けいただき、ありがとうございます。私はジャンダルコ商王国の第三王女、ニムフィス・ラワト・ジャンダルコと申します」
「私は姫の専属メイドをしている、オルティマ・レドマーグと申します」
「私は姫の専属護衛騎士である、イヴィエルテ・モストレイルという」
「私はミク。探索者ランクは5でゴールダームに帰る途中」
「この道を”帰る”のですか?」
「そう。ゴールダームの東西南北にはそれぞれ盗賊団がいる。北の盗賊団は私が一人で潰した。今度は南を探索したんだけど、見当たらなかったから帰ってる」
会話をしながらもミクは馬車の傾いた側に手を添えて、【身体強化】を使い持ち上げる。かくもあっさり持ち上がった馬車を見て驚くメイドと騎士。その後、気が付いたのか慌てて車軸を交換し始めた。
「成る程。そのような事を……。でも危険ではありませんか? 盗賊団というのは怖ろしい者達でしょうし、流石に御一人では……」
「先ほども言ったけど、北の盗賊団は私一人で殲滅した。駄目なら少しずつ削っていくだけ。盗賊と戦うのに正面から戦う必要なんてない。森の中に罠を仕掛け、搦め手で倒していけばいい」
「そうなのですね。戦いというものにも色々とあるという事ですか……」
「姫が左様な事を覚える必要はありません。我ら騎士が戦いますし、卑怯な戦いなど致しませぬ」
「するかしないかと、知ってるかどうかは別。知っていないと相手の手口が分からないし、相手の手口が分からないと守れない。いたって普通の事」
「そんな事はない。相手が如何なる方法で襲ってこようとも、騎士は負けぬのだ」
「………こいつ、思っているよりもバカ?」
「流石にその物言いはどうかと思いますが、言いたい事は分かります。まさかモストレイル騎士がここまで酷いとは思いませんでした」
「なっ!?」
「どう考えても貴女の方が強いよね? 何で騎士より強いメイドが一緒なのかは知らないけど、貴女はメイドから習った方がいい」
「そもそも我が国の王族付きメイドは<最後の盾>と呼ばれています。なので最高の護衛でもありますので……」
「うぇっ!? ………そう、だったのですか?」
「当たり前でしょう。そもそも我がレドマーグ辺境伯家は甘くありませんよ。何よりロイヤルメイドは護衛から暗殺、そして拷問まで習うのです。唯の騎士とは立ち位置が違うという事を、しっかり覚えておきなさい」
「ご、ごうもん………」
「ゴホンッ。私も拷問をした事などありません。ですが知識として覚えておく必要があるから覚えるのです。場合によっては耐えられないと判断し、自ら死を選ばねばならぬのがロイヤルメイド。その覚悟は全員が持たねばならぬのですよ」
「………」
「騎士の誓いとやらが霞むくらい重いね。とりあえず直ったから下ろすよ。これで大丈夫でしょ? と言いたいところだけど、この車軸、どう見ても途中まで切られてるよね?」
「そうですね。………侯爵はそれほどまでに私を殺したかったのでしょうか?」
「とりあえず出発いたしますので、お入り下さい姫様。それと、御礼はしますのでゴールダームまで護衛をお願いします。流石にモストレイル騎士だけでは守りきれません」
「まあ、緊急的な依頼としてなら請けるよ。最初は面倒臭そうだから関わりたくなかったけど、関わっちゃったからね。ゴールダームまでなら構わないよ」
「………それでは出発!」
騎士が馬に乗って横に随伴する。ミクは馬車の後ろを歩きながらついていくのだが、思っているより馬車が遅い。ミクの歩く速度より遅いので、もはや面倒臭くなってきたようだ。
それでも歩きながら進み、近付いてくる魔物は投石で殺していく。【身体強化】を見せつつ石を投げているので、その一撃で簡単に魔物が死んでいっている。
その光景を複雑な表情で見ている騎士と、窓から顔を出して唖然としている王女。メイドは顔が見えないので分からないが、何となく驚いていない気がする。
そんな中を歩きつつ、馬を休ませる為の休憩を挟みながらも黙々と進む。特に話す事も無いから当然だが、当のミクはレティーと会話をしていたりする。
『それにしても、王族というものが命を狙われる。そんな事が当たり前に起きるものなのでしょうか? 私には簡単に起きる事とは思えません』
『王太子とか王子ならあるかもしれないけど、王女には無いと思うんだけどね。王女が国を継ぐ事なんて無いんだから、わざわざ手を出す必要性が無い筈。逆に言えば、暗殺などの可能性は低いのが王女だと思うけど』
『王妃なら生まれてくる子供の事で、王太子なら次代の王の座がありますからね。それと比べれば、政略結婚の駒である王女は出される事が決まってますし……わざわざ殺す必要性がありませんね?』
『うん。普通はそうなる筈なんだよね、普通なら。つまりジャンダルコ商王国では普通じゃない事が起きてるって事かな? 例えば……嫁がせる家が被ってるとか? または何処かから依頼された?』
『何処が……とは思いましたが、エルフィンとかいう有力な所がありますね。一部に差別主義者が居ますし、そこが裏に居るんでしょうか?』
『可能性として無くはないって感じじゃない? ジャンダルコの盗賊団とエルフどもの争いもそんな感じだったし。それにしても3人とも銀髪で褐色肌だね? 本当にエルフとは全く違うし、面白いと思う』
『元は同じ種なのに、今はこんなにも違うんですから、確かに面白いですね。まあ、私達スライムほど変化はしないようですが』
『さすがに<可能性の宝庫>と言われるスライム程の変化は、どの生物でも不可能だと思うけどね。それでも長い歴史の積み重ねで変わっていったのか、もしくは太陽神とやらが介入したか。おそらくどちらかじゃないかな』
『成る程。神が介入したから、あんなに変わったと考える事も出来るのですね。……だとすれば、エルフの一部の差別感情は太陽の神に喧嘩を売っているのでは?』
『その可能性はあるけど、神どもが動いてないなら気にしてないんじゃない? 所詮は醜い人間種の事だし』
適当な会話をしつつダラダラと歩いていると、夕方になってゴールダームに到着した。
町や村から10キロ程度なので本来ならもっと早く着く予定だったらしいが、町を出るのに時間が掛かり、更に車軸が折れて余計に時間が掛かったそうだ。特に車軸の事は仕方ない。
ミクはそう思っていたのだが、町の方が仕方ないらしい。王女が来ている以上、色々としなければいけない事もあり、そういった諸々に結構な時間をとられたんだそうな。王族も大変だと思うミクであった。
ゴールダームの門番に近付き、ジャンダルコの王族だと証明。あっさりと順番を抜かして入って行った。ミクは一般の列に並んでゆっくりと待っている。
そもそもゴールダームまでなので既に依頼は終わっており、今はジャンダルコの王族とは関わり無い。ミクもあれ以上関わりたくなかったので都合が良かった。
順番が来たミクは登録証を見せて中へと入り、真っ直ぐに宿へと戻る。宿に入るとそのまま食堂に行き、大銅貨1枚を支払って大麦粥を頼むと、席に座って運ばれてくるのを待つ。
食事が来る前にイリュが来たので、大銅貨1枚と中銅貨1枚でイリュの分も頼んでおく。どうやらイリュは話があるらしい。
「今日はどうだったの? 最近は色々な所を回ってるみたいだけど」
「今日は南と西だよ。色々あって報告は出来ないね、イリュに話す事はできるけど」
「んー……聞いておいた方が良い?」
「ちょっと分からないなー。それこそ聞いてから判断して、としか言えない」
「聞かなきゃいけない時点で、決定してるんだけどね」
そう言われても、とミクは思うのだった。




