0438・再びダンジョンへ
昼食の終わった北条家族とミクは話し合い、ダンジョンの中へと再び行く事に。リオはそこまでしなくてもいいと言ったが、ミクは世話になるならせめてお金を稼ぐ手伝いはすると言っておく。
色々と話し合い、最終的になぜかセンがついてくる事で合意。準備を整えた後、ダンジョンへと再び進む。その前にトイレの使い方を教えて貰ったりなど色々とあったが、そこは割愛する。
「それにしてもミクを戦わせるなんて本当に良いのかなぁ。家族じゃないどころじゃなく、別の星の人なんだしさー」
「センはさっきと言ってた事が違うな。嘘臭いとか言ってた癖に」
「男がいつまでも昔の事をウジウジ言ってるなんて、情けないね。こんなのが兄だなんて……」
「つい30分か35分前の話だろうが! 昔の事じゃねえよ!」
そんな感じで兄妹がじゃれているのだが、ミクとしては「緊張感の無い奴等だな」としか思っていない。このダンジョンの1階はビッグラット、2階はソルジャーアント、3階はソルジャーアントとビッグアントの混合となっている。
3階までの魔物など相手にもならないので蹴り飛ばし、一撃でミクが倒していく。3階に下りてきて少しは緊張感が出てきたのか、北条兄妹は周囲を警戒し始めた。
そんな中、全く警戒心の無いミク達であった。ちなみにセリオはセンが抱いている。
『こんなザコなんて倒してもさしてお金なんて儲からないでしょ。さっさと下へ行くよ』
『いや、そうは言っても、こいつらそれなりに硬いし厄介なんだけどな』
ミクはアイテムポーチの中からドラゴン素材の槍を取り出し、それを使ってソルジャーアントを薙ぐ。その一撃で首を切り裂かれたソルジャーアントは死に、その後ろに居たビッグアントが襲ってくる。
今度は首元に槍を差し込み、梃子の原理で頭を抜く。その一撃でビッグアントも死亡。あっと言う間に終わった。
「凄いっていうか、槍なんて持ってたんだ……。って事は、そのウェストポーチってアイテムバッグなの? いいなー!」
「ダンジョンに潜ってたとか言いながら武器も持ってないから、何かおかしいと思ってた。いつでも取り出せるのなら、普段は武器を持ち歩いたりしないわな」
『こいつらって魔石しか売れないの? この星では何が買い取ってもらえるのか知らないからさ、教えてほしい』
『こいつらは魔石ぐらいしか価値が無いし、その魔石も1個320円だよ。大卒のサラリーマンの初任給が25万だったかな? 手取りになると減るんだっけ? よく分からないけど、そんなトコ』
『やっすいなぁ……とはいえ、大した事のない魔物じゃそんなトコか。これはもっと下に行った方がいいね』
「何って?」
「こいつらの魔石が安過ぎるから下に行った方が良いってさ」
『オークとか居るなら肉が売れるんだけど、それぐらいじゃなきゃ高値では売れないよ』
『オーク? このダンジョンにオークは居なかったよ。ゴブリンと猪面のヤツは居たけど、オークは見てないね』
『いや、猪面のヤツがオークだろ』
『は?』
コウジと情報の擦り合わせをした結果、こちらの星では二足歩行の猪顔の魔物をオークと言うらしい。前の星のような猪と猿を足して、鰐のような大量の牙を持った口をしている訳ではないようだ。
「ミクが居た星では猪と猿を足した顔で、鰐のような牙を持ったのがオークなんだってさ。何だその怪物って思うわ」
「うぇー、そんなのがオークなの? でも女性ってだけで襲ってこない魔物なのかも。もしそうなら、そっちの方が良いな」
『こっちのオークは女性を見ると性的に襲ってくるんだが、そっちのオークはそんな事はないのか?』
『私が元居た星のオークは男だろうが女だろうが犯され、その後は喰われて死ぬ』
「うわぁ………最悪だ」
「えっ、なに?」
「ミクが居た星じゃ、男だろうが女だろうが犯されるらしい。その後は喰われて死ぬんだと」
「………マジかー。もしかしたら、こっちの方がマシ?」
「マシだろうなー」
『こっちじゃ女性は犯されるが、それで済むとも言える。命までは奪われない。男は殺しに来るけどな』
『ふーん。変わった魔物だね、この星のオークは』
そう言いつつも4階へと移動。ここは牙が鋭いコウモリが出てくる階層だ。ミクにとっては何の問題も無いが。
『牙が鋭いコウモリって事はファングバットか。4階からスゲー厄介な魔物に変わってるな。確かこいつらは革程度なら簡単に切り裂く牙の筈』
「ねえ、何の話?」
「この階はファングバットが居るっていう話。ちなみにファングバットっていうのは、革程度は簡単に切り裂くコウモリで大量に居るのが特徴だ。とてもじゃないけど突破できない」
「じゃあ、どうするのよ?」
「そんな事を俺に聞くなよ。そもそも4階にまでは来れてないんだぞ、俺は」
そんな話をしている北条兄妹を尻目にミクはドンドンと歩いて行き、ファングバットが居る小部屋へと近付く。コウジが止めようとしてくるも無視し、ミクは小部屋の入り口に立つと【火弾】を連射した。
ファングバットは固まっていたが、【火弾】をかわす事が出来ず、あっさりと焼かれて落ちてくる。その光景を唖然として見ている北条兄妹。
ミクは焼かれたファングバットに近寄り、解体ナイフでファングバットを切って魔石を取り出す。そしてそれをコウジに確認させた。
『この魔石はビッグアントより高く売れる?』
『………』
唖然としたままのコウジが何も答えないので、ミクは面倒臭くなり頭を叩いた。
「いてっ!?」
『この魔石はビッグアントのより高く売れるの?』
「えっ? あ、ああ。どうなんだろうな。あんまりか変わら、ってそうじゃねえ」
『多分だけど、あんまり変わらないと思う。魔石の値段は大きさと中の魔力で細かく決まってるそうで、決めてるのは<日本ダンジョン探索者支援協会>だよ』
『ふーん。となると、ある程度の大きさの魔石じゃないと駄目な訳ね……。ワイバーンぐらいあれば、それなりの値段で売れるかな?』
「ワイバーン!?」
「ふわっ!? ワイバーン?」
どうやらコウジの大きな声でようやく復帰したセン。気を取り直したようだが、途端に五月蝿く喋り始めた。
「ねえ、今の見た!? 魔法だよ! 魔法!! 凄いよ、お兄ちゃん。私達って世界で初めて魔法を見たんだよね?」
「まあ、そうだな。ってミクがこっちを見て呆れてるぞ。多分だが魔法ってミクの居た星では普通なんじゃないか?」
「魔法……できない?」
「おお、ミクが日本語を喋った! それはともかく、魔法、誰も、使えない」
「何でセンがカタコトなんだよ。それじゃ通じないだろ」
『ミク。この<ガイア>では誰も魔法が使えないんだ。世界的にも魔法が使えたって話は聞かない』
『何故? 中級や上級に儀式魔法はともかく、初級や下級、もっと言えば生活魔法ぐらい誰でも使える筈でしょ。そもそも私が使えてるんだし』
『そうは言うけど、この星じゃ誰も魔法の使い方なんて知らないんだ。手探りで色々と調べてるし、俺だって【魔力操作】のスキルを持ってるけど、誰も使い方を知らないからハズレスキルって言われてる』
『魔法の使い方を知らないって事は、もしかして魔素の使い方も知らない?』
『魔素?』
『驚いた。つまり、この星の者は誰も【身体強化】が使えないって事か』
「【身体強化】!!」
「うわっ、ビックリした! えっ、【身体強化】?」
「ああ、ミクが今【身体強化】って言ったんだよ。もしかしたら俺達でも使えるかも!」
「マジ!? それって凄い! 使い方、早く使い方を聞いてよ!」
『多分使い方を教えろって言ってるんだろうけど、ダンジョンの中で騒いでるっていう自覚ないの? 凄く危険な事をしてるんだけど?』
「そうだった。セン静かにしろ、ここはダンジョンだ」
「………」
センは黙ったまま器用に、早く教えてもらえと目線でコウジに訴えている。この兄妹がちょっと面白くなってきたミクだった。




