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0432・ドラゴン周回




 「そんな事よりもミクからドラゴンの干し肉を貰いなさいよ。あまりの美味しさに喋る気も失くすわよ?」


 「喋る気も失くすって変な言葉だねぇ……。これがドラゴンの肉かい? 他の肉と大して違いは無いような気がするけど、まあ食べてみるよ」



 そう言ってシャルは口に入れて齧っていくが、味を感じた瞬間から意識を全て持っていかれたらしい。無言のままに齧り続け、それはイリュもカルティクも変わらなかった。



 「「「………」」」


 「まあ、ああなるわよねえ……。流石はドラゴン肉、意味不明な美味しさをしてるもの。訳が分からなさ過ぎて、一心不乱になってしまうのよ。アレはお肉界の凶器だと思う」


 「お肉界の凶器という言葉はどうかと思いますが、言いたい事は分かります。私自身、まさか意識を全て奪われるような物があるとは思いませんでしたし、それがお肉を食べてなるとは考えもしませんでした」


 「そりゃそうでしょ。わたしだって、ミクに声を掛けられるまで意識を持っていかれるとは思わなかったもの。あれはある意味で暴力よ、美味しさの暴力。簡単には抗えないわ」


 「そこまで言うほどかとは思うけどね? 美味しいお肉なのは間違いないけど、意識を持っていかれたりはしないよ。私は」


 「ミク殿は普通の人間種と味覚が違いますからね。そういう部分もあるのでは?」


 「でしょうね。それしか、っと……朝食が来たから食べましょうか。そろそろ3人も食べ終わるから戻ってくるでしょ」



 そう言って食事を開始し、アレッサの言う通り3人は食べ終わると意識が戻ってきたようだ。自分達が何をしていたのか分かってないが、ミク達が説明すると愕然としていた。



 「ドラゴンの肉を味わった記憶が無い……」



 どうやら3人とも同じで、ドラゴン肉の美味しさの記憶が殆ど無いらしい。美味しかったのは覚えているようだが、その記憶は漠然としているようだ。流石はドラゴン肉、恐るべし。


 3人の朝食も運ばれてきたので食べるも、なんだか味気ないらしくガッカリしている。ミク達は気にせず食事をし、終わったら今日は休みとした。



 「理由? 防具を作らなきゃいけないのと、ドラゴンを周回してくるからだよ。私1人の方が気楽だし、ドラゴンと戦わないなら崖から落ちる心配をしなくてもいいしね」


 「そうだった、第9エリアは崖の上だったのよね。余計に行く気が無くなったから今日はゆっくりしておくわ。冷房の魔道具を貸してちょうだい」


 「いや、それぞれの魔道具を渡しておくよ。私はドラゴン素材で作り直すから。巨人素材で作ってるけど、できればドラゴン素材の方が良いからね」


 「そう? 巨人素材ってだけで十二分に贅沢だと思うけど、ドラゴン素材で作るなら受け取っておくわ」



 ミクはアレッサに魔道具を全て渡し、自身の魔道具はドラゴン素材で作り直す。当たり前だが魔力伝導率や魔力効率、並びに耐久力。全てドラゴン素材の方が上なのだ。


 それならば最高の素材で作っておきたいというのがミクの偽らざる気持ちである。自身が使う物とはいえ、最高の物が作れるのにも関わらず、大した素材でもない物を使うのは納得がいかないのだ。


 よく分からないこだわりを言った後、ミクはレティーとセリオを連れてダンジョンへ行く。レティーはドラゴンの血を、セリオはドラゴンの生肉が気になったからだそうだ。


 ミクはダンジョンへと歩いて行き、第9エリアの魔法陣に乗る。それを見た周囲から悲鳴に近い歓声が聞こえたが、ミクはスルーした。


 小さいセリオを抱き、ミクは一気に走っていく。曲がりくねった道ではあるものの、小型ワイバーンはミクの速さに追いつけない。普通ならば飛んでいる方が有利なのだが、最強の怪物相手では飛んでいる側が遅れてしまう。


 それほどの速さで走り抜け、あっと言う間に10階へ。少し休憩し、ボス部屋の中へ。


 2匹を傷つけさせるつもりの無いミクは、登場の瞬間に触手で首を切り落とし、その一撃で戦闘を終わらせた。


 首から血が噴出するドラゴンの死体に近付き、レティーが血を飲んでいくのだが……。首にくっ付いてから何も言ってこない。おそらくはドラゴン肉を食べたアレッサやティアなどと同じ状態になってしまっているのだろう。


 ミクは気にせずセリオの方を見ると、セリオは落ちている首に一心不乱に齧りついている。どうやら首の肉を食っているようだが、こちらも無言で食べている。どうやら生肉でも相当美味しいらしい。



 「で、そろそろ気を取り戻してほしいんだけど?」


 『『はっ!?』』



 ミクが声を掛けた事で意識を取り戻したらしいが、両者共に美味しさで意識を持っていかれていた事は間違いないようだ。その後からは味わっている。



 『凄い栄養価なのですが、栄養が凄すぎてどう表現していいかも分かりません。こんなに凄い血は初めてです。流石はドラゴンとしか言えません。というか、凄い血であり過ぎて自分が変わってしまいそうです』


 『僕も。なんだか体から力が湧いてくるっていうか、凄く元気になってくる感じ? よく分からないけど、なんだか凄いよ』



 2人の言っている事はよく分からないが、なんだかパワーアップでもしたのだろうか? ミクは血抜きの終わったドラゴンの死体を本体空間に送り、脱出の魔法陣で外に出る。


 すぐに第9エリアに入り、再びドラゴンの下へ。2戦目も呆気なく勝利し、血抜きをさせつつセリオが食べるのも好きにさせる。食べているのは首の方の肉なので、気にする必要の無い場所だ。


 本体はドラゴン肉を干し肉にして積み上げているが、これは出汁やセリオのおやつとして作っている。これ以上に出汁がとれて美味しい肉が無い為、他の肉は捨てようかと思っているぐらいである。



 「っていうかボス部屋で捨てていった方が早いのか」


 『そのお肉、捨てちゃうの?』


 「ドラゴン肉があるし、要らないでしょ?」


 『確かにそうだね。ドラゴンって体が大きいし、お肉もいっぱいだし……。凄く美味しいから、確かに他のお肉は要らないや』



 セリオも納得したようなので2匹を連れて脱出し、再びドラゴンと戦う為に第9エリアへ。既に防具作りも佳境に差し掛かっているが、それでもドラゴンを倒すのを止めないミク。理由は服である。


 ドラゴン皮のジャケットやドラゴン皮のズボンも作る気であり、ドラゴンの翼膜のローブも必要だ。そういった物を作る為にはドラゴンは多く狩っておいて損は無い。予備も含めれば多くて何も損など無いのだ。


 魔道具を作る際にも使うし、必要になってからでは遅い。そういう理由で挑んでいるのだが、午前中だけで11戦もしたミク。午後からも戦うが、とりあえず昼食のために戻るのだった。



 「で、山ほど狩ってきた……と。まさかジャケットやズボンやローブまで交換する事になるとは思わなかったわ。ブーツとか鎧だけでも凄まじいのに、普段着る物までドラゴン皮とか……意味が分からない」


 「それもありますが、何だかドラゴンの皮の価値が暴落している気がします。私の周りでだけですが、驚くほどドラゴンの価値が暴落しています」


 「何で2回言うのよ」


 「大事な事だからじゃない?」



 ドラゴン皮の価値を暴落させているのは何処かの肉塊なのだが、その近くに居る以上は暴落しても仕方がないであろう。そもそもドラゴンが格下の相手でしかない以上は、肉塊ならば幾らでも狩ってこれるのだ。


 つまり肉塊にとってはその程度の存在でしかないのである。


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