0426・第5エリア引率
ラーディオンを含めた探索者も揃い、後は近衛とベルを待つだけなのだが……。そう思っていると、ベルが護衛を引き連れてやってきて挨拶を始めた。
「おはよう。今日はラーディオン殿も行くのか? それはまた……ギルドマスターがギルドを空けても大丈夫なのかな?」
「おはようさんだ、姫様。そもそもギルドマスターが集まる会議なんかもある。そん時には長期で空けるんでな、特に問題はねえさ。流石にギルドマスターが放ったらかしも問題なんでな、今日は一緒に行く事にした」
「成る程、しかしラーディオン殿は第6エリアに到達していなかったとはな。元々<首狩りラーディオン>と呼ばれていたと聞くし、第6エリアぐらいには行っているものだとばかり……」
「姫様、勘違いしちゃいけねえ。ミクがこの地に来るまで、誰も第6エリアには行けてなかったんだ。今はある程度の奴等が行けてるが、かつては越えられない壁だったんだよ。それと、ワシは第6エリアに行ってるからな? <竜の牙>と一緒にだが」
「ああ、行っていたのか。それは申し訳ない。……まあ、ミク殿達は色々と違い過ぎるからな。しかし第6エリアに行ける者が増えたのであれば、何故今までは行けなかったのだろうか?」
「そりゃ簡単な事だ。初見で第5エリアのボスを突破するのが難しかったんだよ。だいたい目で見えないボスなんて、いきなりでどうやって戦えっていうんだ? 今まで多くの奴等が挑戦して死んでいったのも仕方ねえさ」
「そういえば私が連れて行ってもらった時も、そんな事を言われたな。自分で戦った訳ではないからか、そこまでの記憶が無かった。確かに自分で倒せと言われれば……」
「【気配察知】か【魔力感知】のスキル持ちと合同で突破するしかねえだろうな。そのうえボスは1匹倒せば他の9匹が暴走するって話だし、それを防ぐには麻痺毒を持ち込むしかねえ」
「そうだった、そうだった。ミク殿が盾に麻痺毒を塗って近付いたんだったか。そして舌での攻撃を防ぐと相手が下に落ちて、姿も見えるようになったんだったな」
「さて、お前ら準備できとるな? では、そろそろ出発するぞ!」
そう言ってラーディオンが殿に付き、探索者を連れて行く。ミク達も行くかと思ったらティアが来たので挨拶し、ミクに小金貨10枚を渡してきた。
「蜂の巣と遠心分離機と<閃光機>などの代金だそうです。王太子殿下から渡されましたが、私も驚きました。まさか小金貨で10枚もとは」
「<閃光機>は魔道具だし、黒い木を使って遠心分離機を作ったんだから仕方ないんじゃない? あれってトレント材より上なんだしさ。耐久力って意味でも相当に長持ちする筈よ」
「確かにそうなんですが……」
「まあ、それでも多いというのは分からなくもないけどね」
ティアだけではなくベルとも話しながらダンジョンに進み、第5エリアへと進入する。久しぶりの山の地形だが、前半は簡単なのでサクサク進んで行く。まあ、探索者も近衛も歩くだけではあるものの疲れてはいる。
真っ直ぐ進むだけとはいえ、斜めになっている斜面を歩いていくのだ。登らなくてもいいのだが、真っ直ぐの道と斜面では使う体力が違う。そのうえ魔物も出てくるのだ。ただ、相変わらず最前衛のシャルとイリュが叩き潰している。
アイアンアントやオークにブラックボアが出てきてもお構いなしに倒し、面倒なので死体を斜面の下に突き落としていく。今は売り物として持ち帰る意味も無い。引率をしているのだから、早く進む方が重要だ。
そうやって5階まで下りていき、ここからは地図を頼りに攻略していく。といってもミクは全て覚えているので問題ない。ここはサクサクとはいかず登り下りを繰り返し、途中の階段で休憩しながら何とか突破した。
今はボス部屋の扉前で休憩している。
「それにしても、久しぶりに長距離を歩いたが大変だな。まだまだ若い奴等には負けんと思っていたが、流石にそろそろ体力は厳しい。書類と格闘する毎日じゃ仕方ねえか」
「それでも他の探索者みたいに倒れたりはしていないのだから十分では?」
「そうは言うが、姫様だって倒れてはいねえだろ? シャルやイリュディナ殿が魔物は蹴散らしてくれたんだ。2人よりは楽な筈なんだが、ウチの探索者どもはこれだ。倒れてると咄嗟の時に動けねえんだがなぁ」
「それが染み付く程にはなっていないって事でしょ。それも良し悪しなんじゃない? 疲れる前に帰るというのも1つの方法だし、体力をギリギリまで使うのも危険だからねー」
「まあ、そりゃそうなんだがな。とはいえ体力の無い時にどうするかは、ちゃんと知っておかないと危ないぞ? 知ってたり経験したりして損は無いからな」
「それはそうでしょうけどねえ」
殿にラーディオンやベル、そしてミク達3人が居るので、こっちは話が多い。とはいえシャルやイリュも探索者と会話しているので暇ではないだろう。近衛は近衛同士で会話をしているらしく、一塊になっている。
適当に干し肉なりチーズなりを食べさせていると、ラーディオンが赤黒い猪とワイバーンに食いついた。美味しかったらしく色々とミクに聞くが、ワイバーンと第8エリアの魔物と聞いてガッカリしている。
「そも、ワイバーンの肉を干し肉にしようなんて酔狂なのは、きっとお前さんぐらいだ。そのうえ第8エリアの魔物ってなりゃ、それだけで高価になっちまう。どう考えても軽々しく食えるもんじゃねえよ」
「しかし美味しいな。ワイバーンの干し肉は肉々しくて美味しいし、第8エリアの猪というのは噛めば噛むほど味が染み出してくる。それも脂と肉の旨味が滲み出てくるので、本当に美味しい」
「セリオが凄く喜んでたから美味しいんだろうとは思ってたけど、本当に美味しいわねえ。あいつ体高3メートルくらいある、大きめの猪なのよ。1頭で結構な肉が取れると思うけど、解体所ではどうなったのかしら?」
「どうなんだろうね? あそこの親方に放り投げてそれっきりだけど、何かの実験をしたり、毛皮を作ったりしてるんじゃないかな。あの猪の毛皮は相当の防御力だって言ってたし」
「そうなのか?」
「そういえば言っていましたね。なんでも下手に煮締めてハードレザーにするよりも、毛のついた毛皮のままの方が強いのではないかと、そう親方は言っていましたよ」
「ウィルドンがそんな事をなぁ。となると相当に優秀なんだな、その毛皮」
「そもそもマッスルベアーだって並の剣なら毛で流してしまって切れないんだし、そう考えると魔物の毛って侮れないのよねえ。天然の防具の中でも強力だと思うわ」
「確かに言われてみりゃそうか。毛を使わないと損っちゃ損だわな。とはいえ見てくれが良くねえから、女どもは嫌がるだろうが……」
「背に腹は代えられないんだから、納得して使うのも居るとは思うけどね。あと一目で女だと分からないようにするって意味で着るのも居るんじゃない?」
「それはありそうですね。一目で分からなければ襲われる可能性は下がるでしょうし」
「毛皮を被ってる後姿じゃ分からないでしょうからね。私は結構ありだと思う。それに、女の方が現金よ? 役に立つとなったら気にしない者も多いと思うし。ま、夏場は暑いだろうけど」
「それでもダンジョン内なら大丈夫だろ。行くエリアにもよるとはいえ、暑い場所はそこまで多くねえ。明確に暑い場所なんざ、第8エリア以外は今のところ無いしな」
「まあねえ」
そろそろ休憩も終わりかと思い準備を始める探索者。それを見て自分達も準備をせねばと思う近衛騎士達。それを見て余計な騒動は無さそうだなと思うミクであった。




